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2020.06.19

パパもママもご近所さんも全員参加型子育て!?江戸時代の最先端子育てを現地レポ

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遠い異国の地からようこそいらっしゃいました。私、数百年後の未来からやってきましたタイムトラベラーのガイドでございます。このたび、外国人の皆様には江戸流子育てをご紹介させていただきます。

江戸時代には、子供をのびのびと自由に育て、体罰なんてもってのほか。さらに、男性も育児に積極的に参加しており、『父兄訓』といった父親向けの育児本も出版されております。浮世絵を見ていただきますと、子連れの男性が多く描かれていることにお気づきいただけるでしょう。また、地域全体で子供を育てる意識も強く、頼れる先が多いのも親御さんたちには大きなメリットとなっています。

世界も驚くイクメンパパたち

江戸の子育ては父親がリードして行います。子供が親の家業を継ぐことが一般的であるため、立派な後継者を育てることは「家」を守ることとイコールだからです。江戸の父親たちは、立派な後継を育てようと学問や家業を懸命に教える教育パパなのです。子供をきちんと育てられないのは父親として恥! 父親にとって、子育ては自分のメンツにも関わる大事なプロジェクトといえます。

「父親の背中を見て育つ」と言いますが、江戸っ子たちはまさに父親たちの仕事ぶりを見て育っています。というのも、江戸では「住」と「職」の距離が近いため、子供たちは日頃から父親の仕事ぶりを見る機会が多く、父親を手伝いながら仕事を覚えていくからです。他にも風呂に連れて行ったり、外に連れ出したりなど、父親たちは積極的に育児に関わっています。そんな父親たちに向けて、林子平の『父兄訓』や山鹿素行の『父子訓』などの父親向け育児本も数多く出版されているんですよ。

「取り上げ親」に「名付け親」。いったい何人「親」がいるの?!

だからと言って、父親が育児の全てを担っているわけではありません。授乳はもちろん母親の仕事ですし、オムツの交換などは母親が積極的に行なっています。妊娠と出産は母親にとって大変な一大イベントですし、家業にも精を出す母親たちはさぞかし負担が大きだろうとお思いでしょう。ご安心ください。江戸では、育児は実の両親だけで行なっているものではないのです。

江戸の子供たちは、たくさんの「親」たちに囲まれて育ちます。臍の緒を切る「取り上げ親」や生後2日間授乳を任せる「乳付け親」、名前を授ける「名づけ親」など、江戸の子供たちはたくさんの「親」たちと擬似的親子関係を結んでいます。「親」たちは、一緒に子供を見守り、数々の通過儀礼でその成長を祝います。この仮親制度には、両親だけでなく、祖父母はもちろん、親戚や地域の人々全員で子供を育てるという意識が強く表れています。

この背景には、乳幼児の高い死亡率があります。江戸の平均死亡率はおよそ28歳程度で、死亡者の7割以上は5歳未満の乳幼児と言われています。そのため、子供の成長はまさに奇跡であり、将来の江戸を担う子供は地域の宝であるわけです。

ちなみに、一定年齢になると「子供組」や「若者組」、「娘組」などの集団に所属する風習もあります。これらの集団には、同世代の子供が所属していて、いわゆる遊び仲間なのですが、年間行事や祭事では特定の役割も果たします。集団内での上下関係は厳しく、先輩が後輩を指導・教育する制度が整っており、そこに大人は介入しません。「親」たちなどの大人が子供の面倒を見るだけでなく、子供同士で面倒を見るのも江戸流子育てです。

寺子屋で結ぶ一生涯の師弟関係

さて、およそ70%〜80%と言われる江戸の識字率及び就学率は、諸外国と比べてもトップクラスを誇っています。この高い教育水準を支えているのが寺子屋の存在です。寺子屋は幕府が経営しているものではなく、民間の教育機関です。全国に1万5000軒ほど、江戸だけでも1000〜1300軒ほどの寺子屋があります。寺子屋は、江戸の子育てにおいて重要な役割を担っているのです。

寺子屋で働く先生たちに教員免許はなく、他に仕事をしながらボランティアとして子供たちを教えている人がほとんどです。先生たちは、子供たちや地域からの尊敬の意だけで十分満足しているわけです。子供たちは先生を「お師匠様」と呼び、単なる「生徒と教師」の関係ではない、生涯続く師弟関係を結びます。お師匠様が他界すると、生徒たちが費用を出し合い、「筆子塚」と呼ばれる墓石を立てることも珍しくありません。

百姓家の子供がよく使用した教科書『百姓往来』(国立国会図書館デジタルコレクションより)

ちなみに、寺小屋へは6〜7歳で入学し、12〜14歳で卒業することが多いですが、特に規定はありません。授業時間も、朝8時頃から午後2時頃までというのが一般的ですが、先生によって差があり、家の手伝いなどで午前中のみで帰宅する生徒も少なくありません。

授業内容についても同様に、読み・書き・そろばんを初歩的学習とし、その後は子供の将来に合わせた個別指導が行われます。また、知識だけでなく、礼儀作法や道徳も生徒たちはお師匠様から学びます。子供一人ひとりに合わせたマンツーマン指導、ブレーンストミーングやロールプレイングを取り入れた実践的な最新教育が江戸の子供たちの高い教育水準を支えているのです。

日本はまるで「子供天国」?

子供が一日中のびのびと楽しそう? 子供を厳しく躾け、時には体罰も辞さない欧米と比べると、江戸の子供たちは甘やかされているように見えるかもしれませんね。江戸では、大人は子供の遊びにあまり干渉せず、子供同士で勝手に遊ばせるのはごく自然のことです。江戸の親たちは子供同士のコミュニティーを尊重し、子供達はそのコミュニティーでの集団行動を通して多くを学びます。

小川保麿著『養育往来』にも書かれている通り、体罰は御法度とされています。かといって、単に甘やかすわけではありません。『養育往来』は、幼いうちから「悪」を戒め、人としての「善い道」を教えることを説いています。

また、『比売鑑(ひめかがみ)』は、幼児教育において「表裏」「臆病」「傲慢」の三悪の排除が重要となると述べています。つまり、子供を泣き止ませるためのその場限りの嘘は「裏表」、言うことを聞かせようと怖い話で脅すのは「臆病」、そして子供の機嫌に合わせて道理を曲げることは「傲慢」のもとになるためやめるべきだということです。

このような教えに則って、子供たちは体罰ではなく言い聞かせを通じて親や地域の人からの教えを受けます。また、子供たちは幼い頃から多くの大人と関わり、大人の世界を目の当たりにします。子供でも家業を手伝いますし、芝居や寺社巡りなどにもついていきます。大人と子供の間の敷居が低く、子供たちも幼い頃からより小さな子の面倒を見るなど、一人の人間として役割を果たすことで、体罰なしでもきちんとした大人に成長できるのでしょう。

また、他国との競争を気にする必要のない鎖国下にあることが、子供をのびのびと育てる余裕に繋がっているのかもしれません。

日本に近々開国を迫るペリー

近い将来、鎖国時代は終焉を迎え、日本国では欧米諸国に追いつけ追い越せの時代が始まります。それと同時に、それまでの日本の多くの価値観が失われ、子供を厳しく育て、男性が子育てから離れる時代が訪れるとか。ですが、いつかまた江戸流子育てが見直される時代が来ることを私は確信しております。その時にはまた、皆様のご訪問をお待ちしております。

※アイキャッチは『信濃孝児 沙石集』 八島岳亭 シカゴ美術館より

書いた人

生粋の神戸っ子。デンマークの「ヒュッゲ」に惚れ込み、オーフス大学で修士号取得。海外生活を通して、英語・デンマーク語を操るトリリンガルになるも、回り回って日本の魅力を再発見。多数の媒体で訪日観光ガイドとして奮闘する中、個人でも「Nippondering」を開設。若者ながら若者の「洋」への憧れ「和」離れを勝手に危惧。最近は、歳時記に沿った生活を密かに楽しむ。   Born and raised in Kobe. Fell in love with Danish “hygge (coziness)” and took a master’s degree at Aarhus University. Enjoyed the time abroad, juggling with Danish and English. But ended up rediscovering the fascination of Japan. While struggling as a tour guide for several agencies, personally opened “Nippondering” that offers personalized tours with a concept of “When in Rome, do as the Romans do”.