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Fashion&きもの

2023.07.03

新作歌舞伎『刀剣乱舞』の衣裳も! 尾上松也が語る、あの時あの舞台の“こしらえ”

歌舞伎では、衣裳や鬘(かつら)、小道具を身に着けた役の扮装を「拵え(こしらえ)」と言います。役によって、衣裳によって、印象がガラリと変わる俳優の皆さんの、好きな拵えや気分がアガる衣裳、その思い出をご紹介します。 今回は、話題の新作歌舞伎『刀剣乱舞』で演出・出演をされる尾上松也(おのえまつや)さんにお話を聞きました。

尾上 松也さん

1985年生まれ。父は六世尾上松助。屋号は音羽屋。1990年5月に『伽羅先代萩』鶴千代役にて二代目尾上松也を名のり初舞台。近年は立役中心。2012年に出演した蜷川幸雄演出『騒音歌舞伎(ロックミュージカル)ボクの四谷怪談』をきっかけに、ミュージカル、ストレートプレイなど歌舞伎以外の舞台でも重要な役どころで幅広く活躍。TVドラマの出演も多数。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、後鳥羽上皇を演じ存在感を光らせた。

稽古場の松也さん。写真提供:松竹

子役の頃から憧れていた鳶の刺青

松也さんの“アガる”拵えは、『神明恵和合取組(かみのめぐみ わごうのとりくみ。通称:め組の喧嘩)』の鳶の者。

「『め組の喧嘩』は、子役時代から出させていただいていた作品です」

劇中では、町火消の鳶の者たちと力士たちが、プライドをかけた命のやりとりを繰り広げます。

「子役の頃は辰五郎の倅・又八を勤めさせていただきました。そして先輩方のお芝居を拝見し、自分も早く大人の鳶の役を演じてみたい、と憧れていました。15歳になりやっと鳶の1人、烏森の竹次として刺青の着肉(きにく)で出られた時は、“自分も大人になったな”と。子どもの時と変わらず、やっぱり格好良いと感じましたし高揚感がありました」

腹掛(はらかけ)に股引(ももひき)に半天という出で立ち。刺青の入った鳶を演じる役者は、衣裳の下に着肉と呼ばれる襦袢を着ます。

「着肉自体に刺青の模様が描かれているので、お客様の目には、肌に刺青が彫られているように見えます。お芝居の雰囲気もあいまって、今でも肌肉の刺青をつけると気持ちが上がりますね」

子役、女方、鳶の者。様々な役で、すでに7回出演されていますが、「まだやったことのない、藤松という役がとても好きなんです」と松也さん。

「藤松は、鳶の中でも若手のリーダー格。僕が鳶の1人で出た時に、藤松を尾上松緑(おのえしょうろく)のおにいさんがなさっていました。辰五郎を演じていたのは三津五郎のおにいさん。先輩方が演じる鳶は、やはり皆さんとても格好良かったです」

「お芝居の大詰めで、藤松が花道で纏(まとい。町火消の各組の旗印)を振って引っ込み、皆が後に続く場面があります。そこから次の出番までは、少し時間が空きます。松緑のおにいさんは、毎日その間に歌舞伎座のロビーで僕に纏を持たせ、振り方を教えてくださいました。僕が、藤松に憧れていることを知ってくださっていたんです。とても良い思い出です。いつか勤められたら、というお役の1つです」

TVドラマや映画でも幅広く活躍されている松也さん。ディズニー映画『モアナと伝説の海』で吹き替えを担当したマウイも、フジテレビ系連続ドラマ『親愛なる僕へ殺意をこめて』で演じた佐井社も、全身のタトゥーが特徴のキャラクターでした。

「僕、タトゥー全般にテンションが上がる気がします。歌舞伎俳優でなければ、全身タトゥーにしていたところです(笑)」

7月は平安時代の高貴な衣裳で

7月3日より上演される新作歌舞伎『刀剣乱舞』。松也さんは、尾上菊之丞(日本舞踊尾上流三代家元)さんと共同で演出も手がけます。

「オンラインゲームを題材にした新作歌舞伎ですが、古典歌舞伎の王道のテイストをふんだんに盛り込んだ、ありそうでなかった古典歌舞伎を目指しています。義太夫やふだんから歌舞伎で使っている邦楽器、歌舞伎の型を用いた立廻りなどでお見せします」

松也さんの役は、三日月宗近(みかづきむねちか)。天下五剣の1つに数えられる太刀の付喪神(つくもがみ)が、刀剣男士となって歴史を守る戦いをします。

「衣裳さんと相談して、原作よりもシンプルな衣裳にしていただきました。狩衣(かりぎぬ)に、原作と同じ紗綾形(さやがた)の文様が入ります」

狩衣は、平安時代以降に高貴な身分にある人が普段着としていた装束です。紗綾形は、歌舞伎の衣裳でも使われる伝統的な文様です。今作においては原作ゲームの三日月宗近に由来する要素でもあるため、通常よりやや大きめに文様をデザインしているのだそう。

拵えの中でも検討を重ねたのは、鬘でした。古典歌舞伎の場合、役ごとに鬘が決まっていて、鬘が役の年齢や身分、性格などを記号的に示す部分もあります。

「原作のキャラクターを忠実に再現する試みは、2.5次元の舞台やミュージカルで、すでに“あれ以上の見せ方はない”というものができています。髪型についてもです。それをそのまま、僕らが歌舞伎でやることに意味があるのか。『刀剣乱舞』を歌舞伎として上演する意味、そして三日月宗近を歌舞伎の登場人物に落とし込むには、と試行錯誤しました」

そのようなプロセスを経て、前髪は上げて後ろへ。古風で高貴な印象の鬘をベースにしながら、原作のキャラクターに見られる頭頂部の双葉や、アシンメトリーな造形を残しました。

リーダーかどうかを決めるのは自分ではない

三日月宗近の内面的な印象については、次のように語ります。

「まず刀剣男士全員に感じるのは、任務への忠誠心です。そして三日月宗近に感じるのは、全体を見る力。リーダーとしての素質があり、任務に忠実でありながら、仲間や審神者(さにわ・刀剣の想いを目覚めさせる役割)に対して情の深い人物だと考えています。この辺りを芝居の中できっちりと表現したいですね」

松也さん自身、若手世代のリーダー的存在として、2015年以来花形俳優の登竜門「新春浅草歌舞伎」を盛り上げてきました。そして『刀剣乱舞』では演出という立場でカンパニーを引っぱっています。もともとリーダー気質だったのでしょうか。

「プライベートでも仲間内で企画をして友だちを集めて何かをすることは、昔から好きでしたね。ただ、リーダーが合っているかどうかは、周りの皆さんが決めること。それにプライベートと仕事は別ですよね」

仕事としては、歌舞伎はもちろんストレートプレイやミュージカルの舞台にも立たれています。

「自分も先輩のもとで色々な舞台に出させていただき、それぞれの先輩方の背中を見ながら、カンパニーの一員として多くを学ばせていただきました。その中で僕に指針があるとすれば、とにかく楽しむ。ただ和気あいあいとするのではなく、作品自体を楽しむ気持ちを持つことです。出演者やスタッフにその気持ちがなければ、お客様に楽しんでいただけるものをお見せできるとは思えません。現場の空気を大切に皆でこの作品を創っていきたいです」

関連情報

新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』

公演期間:2023年7月2日(日)~27日(木)
休演日:10日(月)、18日(火)
会場:新橋演舞場
出演:尾上松也、尾上右近、中村鷹之資、中村莟玉、上村吉太朗、河合雪之丞、大谷桂三、中村歌女之丞、大谷龍生、中村梅玉ほか。

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塚田史香

ライター・フォトグラファー。好きな場所は、自宅、劇場、美術館。写真も撮ります。よく行く劇場は歌舞伎座です。
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