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Gourmet
2021.06.19

バラエティーのお約束アイテム「糖度計」は光で甘さを測っていた!計測のしくみや開発秘話を直撃取材

この記事を書いた人

スーパーマーケットや青果店の果物売り場に行くと、12度、14度などと書かれた札を見かけることがある。この表示は甘さの段階を表したもので、糖度と呼ばれる。果物における糖度は「果汁100gの中に糖分が何g含まれているか」を示す割合だ。

12度なら12g含まれているということだ。それを測る糖度計はバラエティー番組のクイズコーナーなどでたびたび登場するお約束アイテムでもある。

糖度の計測には「光」を用いる。では、どのようにして形のない甘さを測るのか。測定値の信頼性はどれくらいなのか。1度の差が店頭商品の売れ行きを左右することもあるため、糖度計には極めて高い精度が求められる。では、その精度はどのように保たれているのか。

国内80%、海外30%のシェアを持ち、150カ国以上で使われている糖度計のリーディングメーカー、株式会社アタゴ(東京都港区)の雨宮秀行社長に開発秘話などを聞いた。

雨宮秀行社長

曲がって見える水中のストローと同じ

――売り場に同じようなスイカが2つ並んでいて、一方が12度、他方が14度だとすると、どうしても14度のほうを手に取りたくなる。これって、糖度の魔法ですよね。しかも、それはどうやら光で測っているらしい。そもそも、どうして光で甘さが分かるのですか。

雨宮:(以下略)大学の講義ではないので、難しい話は横に置いておきますね。ものすごく平たく言うと、水の入ったコップに差し込まれたストローが曲がって見える現象を応用しているんです。

――あぁ、光の屈折ですね。光が曲がるから物体も曲がって見えるという。

そうです。光の屈折を応用するので、この種の計測器械は「屈折計」と呼ばれます。屈折計は液体中に溶けている固形分の濃度を測る器械です。例えば、溶けている物質が糖なら糖度計、塩なら塩分計、酸なら酸度計、複数の物質なら濃度計と呼びます。

測る対象によってさまざまな種類がある屈折計

――つまり、最初から糖度計というオリジナル器械があるのではなく、測る対象や用途によって、屈折計という一つの器械を呼び分けているということですか。

まぁ、そういうことになりますね。ほんの少しだけ例を挙げましたが、当社はさまざまな溶解物の濃さを「光で測る」製品を手がけています。たまたま食品関係の計測の話から始まりましたが、石油化学や金属加工、臨床分野など、対象業界は広いですよ。

糖度と甘さは必ずしもイコールではない

――光の屈折を応用していることはなんとなく分かりました。では、それが実際、どのように数値化されるのか、文科系にも分かるように教えてください。

基本的に光は水や空気の中をまっすぐに進む性質があります。ですから、障害物が何もなければ直進する。しかし、果汁に代表される液体にはいろいろな固形物が含まれています。その量が多ければ多いほど、光は大きく屈折するんです。

やや堅苦しく言うと、屈折率は、入射角90°の光に対する、出射角を測定することで求められます。屈折計は、光の角度を求めて、屈折率に換算している測定器といえます。

――あ、ちょっとサイエンスのにおいが漂ってきました。

難しい言葉は飛ばしていただいて結構です。ともかく、甘さを測るのに光を使っている理屈が分かっていただければ十分です。

果物に含まれる固形物の大部分は糖分ですから、その計測値はほぼ糖度と考えていいんです。この値をBrix(ブリックス)値と呼びます。果物売り場で表示されている糖度はほぼ、この数値を置き換えたものです。

Brix値と糖度の関係を表す図表

――要するに、屈折角の大きさが糖度に反映されるということですね。

おおむね、そうです。ただし、糖度と甘さは単純にイコールではありません。果物には果糖、ブドウ糖、ショ糖などが成分として含まれています。ところが、同じ「糖」でも、それぞれのBrix値が違うからです。甘さの質も異なります。ですから、人によっては「数字ほどの甘さじゃないな」と感じることもあるんです。

果実にあてるだけで測る非破壊タイプも

――製品カタログを拝見すると、一口に糖度計と言っても、実にたくさんの種類がありますが、実際はどのように測定するのですか。

用途や使う対象によってさまざまですが、器械は大きく、アナログタイプとデジタルタイプに分かれます。アナログタイプはセンサー部に試料液を数滴たらして測定します。数値は目盛りを読み取ります。

デジタルタイプも同様に、センサー部に試料液を数滴たらします。数値は瞬時にデジタル表示されます。近年はデジタルタイプの進化形として、光センサーを応用した非破壊糖度計もラインアップしています。

――非破壊ということは実際の果汁を使わずに測るのですか。

はい。これまでの測定法では試料液を使うため、果実を切ったり絞ったりする必要がありました。ところが、たまたま見たテレビ番組で当社の糖度計を手にした農家の方が「手間がかかる」と漏らされていたんです。

そこで、光センサーを使って、果実にあてるだけで測定できる糖度計の開発に踏み切りました。もともと、システム化された規模の大きな選果場では実用化されていたので、それを既存のデジタルタイプ並みにダウンサイジングすることにしたんです。

実際の測定時には果実をそのままサンプルステージにあてるだけ。いちごなどはステージに載せて測ります。測定後に器械を拭いたり洗ったりする手間もいりません。測定した果実はそのまま出荷することが可能です。

非破壊糖度計でいちごを測定している様子

医療機器開発の技術的蓄積を注ぎ込む

――話を戻しますが、そもそも、なんで糖度計の分野に参入されたのですか。

当社は1940年に祖父が設立した「雨宮精器製作所」が前身です。その名の通り、光学系の精密機器を手がけていました。当時は屈折計以外の医療機器に経営の軸足を置いていたそうです。売り上げの70%を占め、海外進出も視野に入れていたのですが、結果的には2年あまりで撤退を余儀なくされました。

医療機器という性質上、輸出をするためには当時の薬事法(現在の薬機法)に合わせたり、輸出先にメンテナンス拠点を設けたりする必要があります。しかし、当時の陣容では十分に対応できない。一連の作業や準備に要する手間やコストも撤退の決め手になったようです。

――その分、売り上げの30%を占めていた糖度計にリソースを振り向けられた。

そうですね。幸いにも、医療機器の開発や製造販売を通じた技術的な蓄積があったので、それを手持屈折計に注ぎ込むことができました。1953年のことです。現在も受け継がれている当社の代表製品の一つです。1976年には世界初のデジタル屈折計を開発しました。

手持屈折計の初号機

手持屈折計の開発から70年あまりを経て思うのは、糖度計に対する考え方が変わってきたということです。昔は「縁の下の力持ち」と位置付けられていました。しかし、近年は農業の付加価値を高めるためのツールとして使われるケースが増えていると感じます。ビジネスとしての農業ではなく、果物づくりや野菜づくりを純粋に楽しむ人たちの需要が増えてきたんです。時代の大きな流れでしょうね。

生産工程のほとんどを自社で完結させる

――糖度計そのものの製品力を支える、ものづくりへの強い思いがあれば教えてください。

すでに申し上げたように、光で測るというコアの部分には創業以来の技術的蓄積が惜しみなく注ぎ込まれていると思います。しかし、その力を発揮するためには製品の形に仕上げる製造工程がモノを言います。

製造工程①

糖度計を含む屈折計の命は光の制御です。その心臓部はプリズムです。精度を出すためにはサファイヤなどの硬い素材に角度をつけて根気強く磨かねばなりません。磨いただけでは不十分で、それをマウントするシャーシ部分との組み合わせも非常に大事です。

その上で、反射、散乱、干渉という光の現象と向き合う。光学設計的にはさまざまな光の中から屈折光だけを拾い出さねばなりません。この時、光をどう当ててどう曲げるかが得られる数値の精度を左右します。

製造工程②

――国内シェア80%は、糖度計の10台に8台がアタゴ製であるということです。強みはどこにあるとお考えですか。

初期の手持屈折計や世界初のデジタル計など、専業社ならではのノウハウを生かした製品を開発し、自社生産する姿勢を一貫して保っていることだと思います。

実際、当社では製品開発から加工、組立、検査、出荷に至る工程のほとんどを自社で完結しています。種類にもよりますが、おおむね一つの製品の65%は自社で製造しているはずです。それを支える製造装置にも相応の投資をしています。

製造工程③

 

月曜日も快適に働ける喜びを言葉に

――少し堅い物言いになりますが、糖度計の果たす社会的意義をどうみますか。

当社はこれまで「伸びしろ」のある海外市場の開拓に力を入れてきました。国が豊かになると、安全や品質の基準が厳しくなる。戦後の日本が歩んできた道と同じです。品質基準が厳しくなると必ず数値管理が伴う。そこで当社の製品が求められるんです。

――新型コロナウイルス禍に対応した商品開発は。

当社はこれまで糖度計や塩分計、濃度計などの開発に力を注いできました。その開発製造ノウハウを生かして、コロナ消毒液%チェッカーを開発しました。簡単にエタノール濃度を測れる商品が欲しいという声に応えたものです。これを使えば、しっかり消毒殺菌できる濃度かどうかを簡単に確かめることができます。エタノールのほか、次亜塩素酸、過酢酸を個別に測る製品もあります。

コロナ消毒液%チェッカー

――社長は常々、自社に対する社員の満足度を高めたいとおっしゃっていますが。

休日を迎えられることに感謝する「T.G.I.F.=Thanks God It’s Friday(神様、きょうも金曜日がやってきました)」という格言があります。私はこれをアレンジした「T.G.I.M.」を重視しています。月曜日も快適に働ける喜びを表したものです。こういう気持ちが満足につながればと思っています。

――ご自身の経営を糖度計で測ってみてください。

う~ん、72%。かなり、甘々ですね……。

フェラーリの工場に触発されたという深谷工場(埼玉県)

 

書いた人

「新聞記者、雑誌編集者を経て小さな編プロを営む。医療、製造業、経営分野を長く担当。『難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことを真面目に』(©井上ひさし)書くことを心がける。東京五輪64、大阪万博70のリアルな体験者。人生で大抵のことはしてきた。愛知県生まれ。日々是高血圧。」