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2020.02.20

奇跡の古代湖!400万歳の琵琶湖と徳川家康も食べた鮒ずしの歴史【滋賀県】

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琵琶湖って深呼吸するんですって。冬は冷えた湖面の水が沈下し湖底の水と混ざり合う「全層循環」が起き、湖の底に酸素が送られる。でも、そんな「深呼吸」が2019年は行われなかったという報道がありました。理由はまだわかりませんが非情に心配ですね。

日本最大の湖である琵琶湖は、1000種以上の生き物が暮らす生命の源。世界中でも琵琶湖でしか見られない生き物(固有種)は約60種ともいわれます。人間の食という点から見れば、ニゴロブナを使った日本最古の鮨とされる「鮒ずし」に加え、屈指の美味と称されるビワマスやコアユなど。なんて心惹かれるんだろう。

淡水魚は飼うのも食べるのも好きな生き物好きの食いしん坊目線で、琵琶湖の魚食文化に迫ってみました。

琵琶湖の歴史、なんと400万年!

琵琶湖はデカイだけでなく、その歴史は400万年以上というから驚きです。世界には、その数約3億4千万ともいわれるほど多くの湖がありますが、そのうちで10万年以上の歴史をもつ「古代湖」と呼ばれるものは約20。琵琶湖もその一つで、さらに固有種がすんでいるのは奇跡的なことなのです。

琵琶湖のことが知りたいなら、「琵琶湖博物館」がおすすめ。国内最大規模の淡水生物展示を誇る「水族展示室」も併設されており、希少な淡水生物を多数展示しています。

イルカやカラフルな熱帯魚はいませんが、琵琶湖にしかいない淡水生物や、滋賀県の鳥であるカイツブリも観られます。希少なナゴヤダルマガエルなどもいて、両生類ファンもニッコリです。

さらに、水族館の人気者・アザラシもなんと淡水性。ロシアのがバイカル湖にのみ生息する固有種のバイカルアザラシです。透明度の高い湖で魚を見つけやすいよう進化した、大きな目が特徴。

魚貝の豊富さと多彩な料理に圧倒

琵琶湖の周囲は約235キロメートル。湖のくびれ部分に橋が架かり、ここから北湖と南湖に分かれ、水質や生態系などの面からまったく別の性質となっています。こうしたこともあり琵琶湖は生物多様性の宝庫なのです。食用の観点からは、ニゴロブナやビワマス、ホンモロコ、アユ、セタシジミなどが知られています。

鮒ずしの材料になる「ニゴロブナ」の模型

こちらは琵琶湖にしかいない「ビワマス」の模型

食材が多彩なため、料理法も多種多様。定番の煮つけや焼きもののほか、魚を塩と米飯で乳酸発酵させた「なれずし」はインパクト大。有名なのが、ニゴロブナの子持ちメスを使った「鮒ずし」。最初は「何かの間違いでは?」と思うほどの酸っぱいにおいと強烈な塩っ辛さに驚きますが、滋味あふれる旨みに二度びっくり。

それから、ビワマス。本来は海と河川を行き来するはずが、琵琶湖だけで暮らすようになったサケの仲間です。初夏は身に脂をたっぷりたくわえ、かなりの美味だそう。琵琶湖博物館においしそうな煮つけの模型が展示してありました。

ビワマスは煮つけのほかフライなどでも食される

琵琶湖のコアユも同様で、本来川で生まれて海で育ち川に帰る普通のアユと違い、ほとんどが琵琶湖だけで暮らします。えさの関係であまり大きくならないことからコアユ。小ぶりでかわいらしく、佃煮にするとおいしいんですって。

道の駅で素朴な「地元食」を探す

魅力あふれる琵琶湖の食事情。レストランなどのよそ行きの顔をした外食ではなく、人々の日々の食に興味を覚え、道の駅をのぞいてみることにしました。

希少な鮒ずしが、なんと306円(税抜)。以前、都内の滋賀料理店で、「天然もののニゴロブナの子持ちメスは最高級品だから」と、1匹8000円ぐらいで食べたことがあります。ここでは、手ごろな値段のオスを使うことで気軽な郷土食として鮒ずしがいただけるなんてうらやましい。それから、ホンモロコ。ワタの苦味はほとんどなく、佃煮風の甘じょっぱい味つけが絶妙。これをおかずに、しじみのおこわをペロリと平らげてしまいました。

徳川家康も鮒ずしを食べたって?

鮒ずしの歴史は古く、平安時代までさかのぼります。近江の安土に居城を構えた織田信長も、徳川家康を招いた際に鮒ずしでもてなしたとか。また、膳所町を居城とした膳所藩(ぜぜはん)も江戸城に鮒ずしを献上したという記録もあります。

作り方は、産卵期のニゴロブナを塩漬けにし、かために炊いたごはんを口から詰め込みさらに漬ける「二段階熟成」が特徴。酒かすや麹を加えたりごはんを詰め替えたりなど、地域や家庭ごとの秘伝があるらしい。製法は、中国大陸から伝えられたという説が有力です。

日本の淡水魚は年々減少中

こんな豊かな琵琶湖ですが、漁獲量は1955年をピークに減少中。30年ほど前から水質汚染を問題視し、排水規制などの取り組みがスタートしたこともあり水質は改善されてきましたが、淡水魚がすむ環境は依然良好とはいえません。とってもおいしい鮒ずしも、ニゴロブナの漁獲量減少に伴い衰退してしまっていて残念です。

「滋賀県レッドデータブック 2015年版」では、固有種の56%が絶滅危惧種、絶滅危機増大種、希少種に指定され、特に魚類は75%がこれら 3 カテゴリーに指定されました。その要因として、内湖の干拓や沿岸のコンクリート護岸化、外来魚の増加などが指摘されています。

魚をかじりながら、いにしえの琵琶湖の暮らしに思いを馳せました。このあたりでは、魚を追い回さない「待ち」の漁法が主流と聞きます。獲りつくさず感謝して受け取り、恵みを分かち合って生きていきたいな!

取材協力=琵琶湖博物館
滋賀県草津市下物町1091https://www.biwahaku.jp/
※琵琶湖の遠景と鮒ずしの写真以外は、琵琶湖博物館撮影させていただきました。