想像力を搔き立てる ジャングルに潜むパンテール
モダンに昇華された葉が希少なサファイアを抱いて
パンテールが際立つ自然の幾何学的デザイン
新たな高みに到達した「カルティエ」——その自然主義の軌跡
「カルティエ」はガーランドスタイル(花手綱様式)が誕生した19世紀末から今日まで、動植物を創作のインスピレーション源としてきた〝自然主義〟のハイジュエリーメゾンです。
モダンな美を追求する「カルティエ」のスタイルは、18世紀に流行した新古典主義を源流としています。「シンプルで上品、無駄のないライン、シンメトリー」といった新古典主義の特徴は、そのままガーランドスタイル、アールデコ様式に生かされていきました。
「カルティエ」の自然主義は、まず花々などの植物を意匠化することから始まりました。世はアールヌーヴォーの全盛期でしたが、そうした潮流には目もくれず、自らの美意識に忠実であり続けた結果、20世紀初頭には時代に先駆けて自然を意匠化したアールデコ様式の作品を生み出しています。
「パンテール」モチーフが、女性用腕時計のパターンとして登場したのも、まさにこのころ、1914年のことでした。その後、パンテールは1948年に初めてエメラルドブローチのモチーフとして具象化され、それをウィンザー公爵夫人が身につけたことから注目の的に。パンテールは意志ある女性のシンボルとなったのです。
そして1950年代以降、鳥、タイガー、蛇、クロコダイルなどの動物モチーフが次々と登場し、人気を博しました。それらに共通するのは、具象、抽象にかかわらず様式化され、モダンな意匠へと昇華されていること。そのコードは今も守り継がれています。
今年1月、パリで新作が発表されたばかりのハイジュエリーコレクション「ナチュール ソヴァージュ」は、メゾンの伝統を踏襲しながらも、動物たちの世界を新たな視点で捉え、大胆かつ革新的に表現しています。個性豊かな動物たちは、ハイブリッドな創造の世界に遊び、グラフィカルなデザインのなかで自由を謳歌。その独創的なコレクションは見る者の想像力を搔き立て、当初の驚きはやがて挑戦への賞賛に…。
「ナチュール ソヴァージュ」の想像を超えたクリエイション。それは、「カルティエ」の自然主義の歴史に変革をもたらす、新たな一歩となるかもしれません。
想像の翼を広げて楽しむ 華麗なデザインに宿る物語
グラフィカルに描き出す色彩豊かな海中の世界
伝説の「メロンカット」がウニを想起させて
タイガーの圧倒的な存在感と 高貴な華やぎに魅せられて…
4色のダイヤモンドの輝きで毛並みを再現
タイガーのリアルな動きをワックス彫刻が可能に
このハイジュエリーコレクションを生み出したのは…
JACQUELINE KARACHI-LANGANE(ジャクリーヌ・カラチ=ランガンヌ)
「カルティエ」 ハイジュエリー クリエイティブディレクター
ジャクリーヌ・カラチ=ランガンヌは、1982年にエコール ブール国立工芸学校を卒業すると「カルティエ」のハイジュエリー デザインスタジオに加わり、キャリアをスタートさせました。当時は、メゾン内で数少ない女性ジュエリーデザイナーのひとりでした。
彼女の宝石とメゾンに対する情熱は年を経るごとに高まっています。「カルティエ」のスタイル、表現のボキャブラリーや法則などを習得。それに彼女自身の創造性を加え、常にスタイルの充実を図っています。またジャクリーヌが石の選択に深く関わることで、ハイジュエリーの作品ひとつひとつに独自の個性がもたらされています。
2006年、ハイジュエリーとエクセプショナルオブジェ、ハイジュエリーウォッチを含むハイジュエリー部門のクリエイティブディレクターに就任し、自身のサヴォアフェールと専門知識の伝授に力を注いでいます。
ジャクリーヌは長い年月をかけて、経歴も文化もさまざまで互いに補完し合うデザイナーのチームをつくり上げてきました。彼らの創造性と世界観はメゾンのクリエイションに活かされています。
すべての創作活動においてジャクリーヌは、まず作品に対する情熱をチームで共有し育み、創造的な力が発揮ができるようデザイナーを導いてきました。刺激を受けたり与えたりしながら、自らの専門知識と経験を生かして、コレクションを重ねるごとにメゾンのスタイルの進化を図り、「カルティエ」の独創的で多様な表現をさらに充実させています。
彼女は、「カルティエ」のハイジュエリーの芸術的な進化と、すべてのクリエイションの一貫性を守る役割を担っており、各コレクションに人を惹き付けるストーリーを生み出しているのです。
撮影/小野祐次 コーディネート/鈴木春恵
※本記事は『和樂』2025年4・5月号の転載です
※価格は2025年3月1日時点のものです
※この特集での価格表記は、すべて税込価格です