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2020.07.22

和樂web特選!「The UKIYO-E 2020」ここでしか見られないオススメ作品10点を一挙紹介!!

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この夏最大の浮世絵展「The UKIYO-E 2020」がついに開幕!約450点もの浮世絵が一堂に会するのが本展の魅力のひとつですが、「作品数が多すぎて何から見ていいかわからない……」そんな方もいらっしゃると思います。そこで、数々の美術作品をみてきた筆者が、とっておきのオススメ作品を短評付きで10作品ピックアップしてご紹介!「赤富士」「神奈川沖浪裏」「東海道五拾三次之内」といったメジャー作品は敢えて外して選んでみました!

展覧会公式サイト

オススメ作品1:鳥居清長「大川端の夕涼み」

鳥居清長「大川端夕涼み」重要文化財 大判錦絵 天明4年(1784)頃 平木浮世絵財団/展示期間:7月23日[木・祝]~8月10日[月・祝])

鈴木春信が亡くなって、八頭身の美人画で浮世絵界の頂点に立った絵師、鳥居清長(とりいきよなが)の大傑作「大川端夕涼み」(重文指定)。平成14年には記念切手の絵柄にも採用されました。縦サイズの画面の中、安定の三角形構図で描かれた3人の美女が、隅田川の岸辺に置かれた床几台を取り囲んでラフな格好で夕涼みをしています。胸元や太ももをちらりと見せた、清長のサービスショットですね。現代で例えると、さしずめナイトプールで映えポーズを取る3人の水着ギャルといった趣でしょうか?!

オススメ作品2:東洲斎写楽「曽我五郎と御所五郎丸」

東洲斎写楽「曽我五郎と御所五郎丸」 重要美術品 間判錦絵 寛政7年(1795)頃 平木浮世絵財団/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

幕末に制作された、北斎や広重などの有名作品の場合、現在でも数百点単位で現存することも珍しくありませんが、この東洲斎写楽の武者絵「曽我五郎と御所五郎丸」は、世界でも平木浮世絵財団が所蔵する1点のみと言われています。

本作は、日本三大仇討ちの一つとして著名な鎌倉時代の「曽我兄弟の仇討ち」の名シーンを描いたもの。曽我五郎(そがごろう)と御所五郎丸(ごしょごろうまる)が組み合う中、曽我五郎が振り返りざまにこちらをにらみつける独特のポーズが印象的。脛毛がワイルドな曽我五郎のムキムキの体躯も見どころですね。

オススメ作品3:菊川英山「青楼美人春手枕 鶴屋内橘」

菊川英山「青楼美人春手枕 鶴屋内橘」大判錦絵三枚続 文化末~文政前期(1814~20)頃 太田記念美術館/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

歌麿亡き後、19世紀初頭に浮世絵界を席巻した菊川英山(きくかわえいざん)渾身の三枚続作品。描かれているのは、ある真冬の昼下がり、吉原の「鶴屋」という遊郭の中のワンシーン。大部屋で他の花魁達と休憩中、文机にもたれてついウトウトしてしまった主人公の高級花魁・橘(画面右端)が夢を見ているシーンを描いています。

面白いのは、三枚続ならではのワイド画面を活かして、橘が観ている夢の情景が吹き出しの中に表現されていること。夢の中では、桜が満開の下、禿や男衆に囲まれて花魁道中(おいらんどうちゅう)の主役になっていますね。春を待ち焦がれる女達の想いが伝わってくる、非常にストーリー性のある佳作です。

オススメ作品4:歌川国芳「蛸の入道五拾三次 日本橋/神奈川」

歌川国芳「蛸の入道五拾三次 日本橋/神奈川」中判二丁掛錦絵 天保13年(1842)頃 日本浮世絵博物館/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

幕末になると犬やネコ、ハトやスズメといった動物を擬人化して江戸の生活風俗をパロディ的に描いた戯画作品が多く制作されるようになりますが、本作では、なんと主人公が「タコ」なんです!これは凄く珍しいのでは?!

タイトルから分かる通り、元ネタは歌川国芳の同門・歌川広重の代表作『東海道五拾三次之内』ですね。下の絵は、タコがタコにまたがっています(笑)。歌川国芳のイマジネーションが爆発した逸品です!

オススメ作品5:鳥居清長「六郷渡船」

鳥居清長「六郷渡船」 重要美術品 大判錦絵二枚続 天明4年(1784)頃 平木浮世絵財団/展示期間:後期(823[]922[火・祝])

幕府の国防戦略上、河川への架橋が制限された江戸時代、人々が行き来する主要拠点では渡し船が大きく発達しました。浮世絵でも隅田川や多摩川など、数多くの渡し船が描かれています。でも、浮世絵の中では、舟に乗ってポーズをつけているのはなぜかほとんど「美人」に限定されるのが面白いところ。オッサンを満載した舟を描いた作品は案外少ないのでは?と思います。(※余談ですが、本展では北斎の「冨嶽三十六景」よりオッサン満載の渡し船が登場します!)

本作で鳥居清長が描いたのは、多摩川の渡河拠点の一つ「六郷の渡し」。箱根駅伝が好きな方なら、往路1区のラストスパートで毎年デッドヒートが繰り広げられる「六郷橋」が思い出されるかもしれません。ちょうど大田区と川崎市の境目のあたりですね。

清長美人はみんな基本的に同じ顔をしていますが、顔以外のパーツは非常に個性的に描き分けられているのも本作の見どころ。片身替わりで姉さんかぶりをした美女や編笠をかぶった美女、煙管を手にくつろぐ美女、扇子で涼む美女など、一人ひとりしっかりとファッション・仕草に違いがつけられていますよね。

オススメ作品6:石川豊信「花下美人」

石川豊信「花下美人」 重要文化財 大々判漆絵 延享期(1744~48) 平木浮世絵財団/展示期間:7月23日[木・祝]~8月10日[月・祝]

浮世絵初期~中期頃に活躍した絵師の中では、実力の割に知名度が低いのがこの石川豊信(いしかわとよのぶ)。松や梅、麻、市松模様など多彩な文様が入り乱れた派手な小袖を着た少女が、満開の桜の枝に短冊をくくりつけていますね。ほんのり赤く染まった頬の、思いつめたような少女の表情が絶品です。

本作は、いわゆる「錦絵」が登場する以前に制作された「漆絵」(うるしえ)と言われる作品なのです。白黒で版画を一旦摺った後、「紅」や「黄色」「緑」といった別の色を手彩色で1枚1枚仕上げていく、「紅絵」に漆のような光沢や金属粉の輝きを付けたもので、版画と肉筆画の中間のようなカテゴリーの作品なのです。確かに、少女の頬にのったうっすらとした朱色は、手彩色ならではの味わいなのでしょうね。

石川豊信の代表作、是非目に焼き付けてみて下さい。

オススメ作品7:歌川国芳「東都御厩川岸之図」

歌川国芳「東都御厩川岸之図」 重要美術品 横大判錦絵 天保2~3年(1831~32)頃 平木浮世絵財団/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

土砂降りの中、隅田川右岸「御厩の渡し」(おんまやのわたし/現・台東区蔵前付近)の近くを歩く町人たちを横大判で描いた傑作。重要美術品に指定されています。注目点は、国芳一流の表現力です。画面手前に描かれた岸辺の土手の地面が、もの凄い豪雨で泡立っている様子や、画面真中の傘を持たない町人のつらそうな表情、奥の方に霞んでぼーっと見えている隅田川の対岸の様子、微妙に描く密度に強弱がつけられた雨の黒い線、画面上方の真っ黒なぼかしなど、見どころ満載です。

ちなみに、右端の人物が差している傘をよく観てみると、「千八百六十一」と描かれていますよね。これは歌川国芳の享年。本作で、自らの天寿を予言しているのでは……?!というオカルトめいた指摘もあります。

オススメ作品8:鳥橋斎栄里「郭中美人競 越前屋唐土」

鳥橋斎栄里「郭中美人競 越前屋唐土」 大判錦絵 寛政7~10年(1795~98)頃 日本浮世絵博物館/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

寛政時代といえば、歴史の教科書にも出てくる松平定信の「寛政の改革」が有名ですね。奢侈を禁ずる一連の政令が出されたこの時代、浮世絵は吉原の遊女以外、茶屋の娘など実在する人物をモデルに美人画を描くことが禁止されました。が、吉原の遊女を描くのは例外的にOKだったのですね。

本作で描かれている越前屋の花魁・唐土(もろこし)は、鳥橋斎栄里(ちょうきょうさいえいり)だけでなく、寛政時代、美人画で人気を二分したと言われる彼の師匠・鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)と喜多川歌麿(きたがわうたまろ)もモデルとして描いています。絶世の美女だったのでしょうね。豪華な雲母摺をバックに、くつろいだ表情で打ち掛けをたくし上げる仕草がなんとも優雅です。寛政時代に特有の、デフォルメされて超巨大に描かれた島田髷(しまだまげ)も密かな鑑賞ポイントかと!

オススメ作品9:勝川春好「江戸三幅対」

勝川春好「江戸三幅対」 大判錦絵 天明後期(1785~89)頃 太田記念美術館/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

安定の三角形構図で、力士・役者・美人がトライアングルのように描かれた、これぞ「ザ・江戸土産」といわんばかりの作品。描かれているのは、当時それぞれの業界で人気・実力No.1とされた横綱・谷風(力士)、市川團十郎(役者)、吉原・扇屋の高級花魁・花扇(美人)です。

勝川春好(かつかわしゅんこう)は、役者の似顔絵で一斉を風靡した勝川春章(かつかわしゅんしょう)の有力な弟子の一人。当時、勝川春朗(かつかわしゅんろう)と名乗り、同門に属していた葛飾北斎にパワハラを加えて勝川派から追い出したという不名誉な(?)逸話でも有名ですが、本作では師匠の作風を忠実に受け継いだ佳作に仕上がっていますね。

オススメ作品10:歌川広重「江戸近郊八景之内 玉川秋月」

歌川広重「江戸近郊八景之内 玉川秋月」 横大判錦絵 天保6~8年(1835~37)頃 太田記念美術館/展示期間:前期(7月23日[木・祝]~8月23日[日])

歌川広重が、油の乗り切っていた全盛期に手掛けた知られざる傑作「江戸近郊八景」シリーズの1枚。「東海道五拾三次之内」や「名所江戸百景」は有名ですが、この「江戸近郊八景」シリーズはほとんど知られていません。

描かれているのは、多摩川の河川敷。まだ川岸には人がポツポツといますから、夕暮れ時でしょうか。秋風に静かにそよぐ大木の上に、銀色の満月がぼーっと浮いています。色使いを「青」と「黒」系だけに絞り込み、抑制の効いたトーンで描かれた画面からは、どことなく寂しげな叙情性も伝わってきますね。展覧会には、本作に加え「小金井橋夕照」(前期)「行徳帰帆」(後期)「飛鳥山暮雪」(後期)の3作品が出品されますが、いずれも傑作です!

The UKIYO-E 2020をもっと詳しく知るなら

展覧会の魅力や見どころ、浮世絵の鑑賞方法を詳しく知りたい方は、以下の1万字レポートもぜひお読みください!
いよいよ開幕!この夏最大の浮世絵展「The UKIYO-E 2020」見どころ徹底紹介!【1万字レポート】

展覧会情報

展覧会名:「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」
会期:2020年7月23日(木・祝)~9月22日(火・祝)
(前期展示:7/23-8/23、後期展示:8/25-9/22)
会場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
展覧会公式サイト:https://ukiyoe2020.exhn.jp
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
※日時指定入場制~となります。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。
東京都美術館での日時指定入場券の販売はありません。

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。