毎年夏になると、どうしても各地の美術館・博物館に足を運ぶ人が減る傾向にあるといいます。
理由は・・・。そう、暑いからですね。
しかし!暑い夏こそ、ミュージアムをおすすめしたい!
なぜなら、貴重な美術品や文化財を守るために、ミュージアムの展示室内は夏は涼しく、冬は温かいのです。
さらに、春と秋の大型展の「合間」に行われる展覧会ならではの、非常に個性的な企画展や、子供と一緒に訪問できる夏休み向けの特別企画なども充実しているのが夏の展覧会の特徴。子供を連れて行ってもほとんどの場合無料、かかっても数百円と財布にも優しいのも嬉しいですよね。
ということで、いよいよ暑さも本番を迎える7月に、和樂Webが全国美術館・博物館からおすすめしたい屈指の展覧会を紹介したいと思います!
オススメ展覧会1:特別展「三国志」(東京国立博物館)
大型の企画展、特別展が開催される時、大抵の場合は、開催約3ヶ月~半年前にまず「記者発表会」というお披露目のイベントが開催されます。実はこの時の熱気や雰囲気によって、お客さんが入るか入らないか大抵はある程度予想がつくのですが、2019年No.1とも言えるほど「三国志」展の記者発表会は特に熱気が凄まじかったのです。従来の美術系メディア以外に、歴史系メディアが多数取材に来場していたことが印象的でした。
それもそのはず。今回の「三国志」展では、2000年代に入ってから奇跡的に発見された曹操のお墓「曹操高陵」(そうそうこうりょう)からの出土品など、最新の発掘調査や近年の学術論考で、リアルな「三国志」の歴史を楽しめる内容に仕上がっています。展覧会では、「魏」(ぎ)「蜀」(しょく)「呉」(ご)の三国に関連する最新の発掘資料や文化財が盛りだくさん。
早速いくつか見ていきましょう。
まず絶対注目したいのが、本展の目玉として13件が出品された「曹操高陵」からの出土品。
石牌(せきはい)「魏武王常所用挌虎大戟」(ぎのぶおうつねにもちいるところのかくこだいげき) 石製 後漢~三国時代(魏)・3世紀 2008~2009年、河南省安陽市曹操高陵出土 河南省文物考古研究院蔵
曹操高陵からの出土品の中でも、とりわけ美術史に大きなインパクトを与えそうなのが、本展で出品された白磁の壺「罐」(かん)です。一見、何気ない普通の壺に見えますが、実はこれ、灰を主成分とする透明釉が掛けられた上、かなりの高火度焼成が施された「磁器」なのです。
罐(かん) 白磁 後漢~三国時代(魏)・3世紀 2008~2009年、河南省安陽市曹操高陵出土 河南省文物考古研究院蔵
これまで、白磁が初めて中国で作られたのは6世紀後半・隋の時代とされてきたため、一気に300年ほど白磁の歴史が書き換えられることになります。日本で白磁の生産が本格的に始まったのが17世紀頃、ヨーロッパでは18世紀頃なので、いかにこの発見が凄まじいことなのかわかりますよね。
続いて、こちらは高速道路建設中に偶然発見された、曹操の親族、曹休(そうきゅう)のお墓からの出土品。2010年、三国時代では初となる、武将自身の名前が彫り込まれた印鑑が遺骨などとセットで出土しました。
「曹休」(そうきゅう)印(いん) 青銅製 三国時代(魏)・3世紀 2009年、河南省洛陽市孟津県曹休墓出土 洛陽市文物考古研究院蔵
もちろん、三国志で一番人気を誇る関羽像なども出品されます。
関羽像(かんうぞう) 青銅製 明時代・15~16世紀 新郷市博物館蔵
そして「魏」だけでなく「蜀」や「呉」が建国された地からも続々と新たに文物が発掘され続けています。たとえば、本品は北伐に失敗した関羽を捕らえたことで有名な呉の将軍、朱然の墓から出土した漆器ですが、蜀で作られたことが判明。当時の商品流通網が意外にも複雑に発達していたことが伺い知れます。
童子図盤(どうじずばん) 木製、漆塗 三国時代(呉)・3世紀 1984年、安徽省馬鞍山市雨山区朱然墓出土 三国朱然家族墓地博物館蔵
こちらは、3世紀にはすでに青磁が生産されていた呉の特産「神亭壺」(しんていこ)。薄暗いグリーンの器肌にはカニなどの動物が描かれ、器の上部には建物や人物がのっかっているてんこ盛りの装飾が印象的です。
神亭壺(しんていこ) 青磁 三国時代(呉)・鳳凰元年(272)1993年、江蘇省南京市江寧区上坊墓出土 南京市博物総館蔵
本展はなんと館内に展示される約160件の全展示が【撮影OK】となっています。(※フラッシュ撮影や自撮り棒、三脚を用いての撮影不可です!)これほどの大規模特別展では異例の措置。美術館側の本展に賭ける思いが伝わる英断でした。ぜひ、お気に入りの作品を思い出に持ち帰りましょう!
展示を構成した東京国立博物館主任研究員・市元塁氏が10年越しで中国にラブコールを送り続け、ようやく曹操高陵からの文物の来日が実現した本展は、まさに「リアル三国志」がたっぷり詰まった意欲的な展覧会。マンガやゲーム、人形劇とのタイアップ企画や豊富なグッズも満載で、この夏最大の注目展となりました。三国志ファンはもちろん、考古ファンや歴史ファンなど幅広い層の老若男女に楽しめる内容になっています!
展覧会名:日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会場:東京国立博物館 平成館(〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9)
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
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オススメ展覧会2:「和のあかり×百段階段2019」(ホテル雅叙園東京)
ホテル雅叙園東京では、有形文化財に指定されているホテル内の建物「百段階段」を活用して、季節に応じて様々な趣向を凝らした日本の伝統文化を紹介する企画展を開催しています。中でも非常に好評なのが、4年前から毎年夏に開催されている「和のあかり×百段階段」です。館内の照明をOFFにして、暗くなった百段階段の各部屋を照らすのは「和」のやさしい光。真夏に「涼」を感じられる好企画として、これまで過去4年間で累計31万人を動員した同館屈指の人気企画なのです。
本年度は地元・東京はもちろん、北は青森、南は鹿児島まで同館が厳選した各地の伝統工芸や伝統行事を手がける出展者によって、各部屋が「和」のあかりで満たされています。いくつか紹介してきましょう。
まず、エレベーターを降りてすぐのところには青森ねぶた祭りから巨大な「鍾馗」(しょうき)がお出迎え。
そして、百段階段をずっと上がっていくと、各部屋にはバラエティに富んだ様々な展示が待っています。竹細工での巨大なインスタレーションが醸し出す幽玄な光が美しい「十畝の間」、平成になってから始まった長崎の新名物「長崎ランタンフェスティバル」をイメージした「漁樵の間」など、工夫を凝らしたLEDランプのライティングに美しく浮かび上がる日本各地の様々な伝統工芸を楽しんでみてください。
「十畝の間」展示作品:竹あかり作家 NITTAKEによる「竹」のインスタレーション
「漁樵の間」展示作品:長崎ランタンフェスティバルを再現した展示。テーマは「竜宮城」
「清方の間」展示作品の一つ、照明塾・橋田裕司氏の作品。
こうして見てみると、本展で表現されている様々な「和のあかり」は、コンピュータ上のプログラムが光や音を映し出す流行のデジタルアートとは違い、あくまで主役は作家が手作りで仕上げた伝統工芸や作品そのものであることがわかります。LEDランプは作品を引き立てるための脇役であり、主役はあくまで職人達の手仕事にあるところが、本展のユニークなポイントなのです。
「頂上の間」展示作品の一つ、越谷 中野肩染工場+ハナブサデザインによる籠染灯籠(かごぞめとうろう)
そして嬉しいことに、本展は写真が撮り放題!(※フラッシュ撮影不可)普段の企画展では撮影可能場所が限られていることが多いのですが、本展に限っては全展示室を自由に撮影できます!毎年夏になるとライトアップやイルミネーションを楽しむイベントが増えますが、特に上品な「和」のあかりを楽しめるのが本展の特長。展示を観たら思わず写真に撮って誰かに見せたくなる好展示が待っています。InstagramやTwitterなどで気軽に投稿してみてくださいね。
展覧会名:「和のあかり×百段階段2019」
会場:ホテル雅叙園東京(〒153-0064 東京都目黒区下目黒1-8-1)
会期:2019年7月6日(土)~9月1日(日)
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オススメ展覧会3:「金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋 ~行商編~」(佐野美術館)
2018年夏、平塚市美術館で開館以来最多となる動員数を記録した「金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋」が、2019年「行商編」として巡回中です。現在、静岡県・佐野美術館にて9月1日まで開催中。その後、山形県・まなびあテラス東根市美術館を巡回します。展覧会では、絵画作品や立体作品、そして巨大なインスタレーション作品「平成しんちう屋」を含め、約200点が出品。
「玉吾妻(たまあずま)」
深堀隆介氏は約20年前、制作に行き詰まりアーティストを辞めようとした時、水槽で粗末に飼っていた一匹の金魚に初めて魅了されるという体験をします。作家自身が「金魚救い」と呼ぶその衝撃的な経験をきっかけに、それ以来「金魚」に纏わる様々な作品を発表し続けてきました。
「一粒の麦が地に落ちて死ねば」江戸川アートミュージアム蔵
深堀隆介氏の代表作品は、枡や桶などの器の中に樹脂を流し込み、固まった樹脂表面に直接絵の具で金魚の一部を描き、また、その上に樹脂を流し込み金魚の一部を描く。という工程を繰り返し制作するユニークな作品です。この技法は深堀氏が、立体なのか絵画なのかという問いかけを含み、「2.5D Painting」と名付けました。まるで生きているかのようなリアルな金魚の姿が表現されています。
「方舟」
「金魚酒 命名 美宙(みそら)」さくらももこ旧蔵
昨年同様、最新インスタレーション「平成しんちう屋」は写真撮影OK(※フラッシュ撮影不可)になります。江戸時代、上野不忍池付近に構えていたとされる、日本最古の伝説の金魚屋「真鍮屋」(しんちゅうや)に着想して制作された金魚屋台は、ノスタルジックな江戸の原風景の中に作家の遊び心が満載の非常に面白い作品に仕上がっています。是非、いろいろな角度から金魚のいる風景を思い出に持ち帰ってみてくださいね。
「平成しんちう屋」 展示風景(佐野美術館バージョン)
展覧会名:「金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋 ~行商編~」
会場:佐野美術館(〒411-0838 静岡県三島市中田町1-43)
会期:2019年7月6日(土)~9月1日(日)
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その後、まなびあテラス東根市美術館を巡回。
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オススメ展覧会4:「入江明日香ー心より心に伝ふる花なればー」(茨城県天心記念五浦美術館)
永らく低迷していた「美人画」ですが、ここ数年、池永康晟(いけながやすなり)をはじめとする現代作家たちによる新しい「美人画」が人気を集めています。その表現方法は実に多彩。従来の伝統的な日本絵画の画材を使って描かれる作品もあれば、油性マーカー、水彩画、アクリル画、版画、漫画など、まさに百花繚乱。
本展で初の個展開催となる入江明日香も、現代美人画ブームの周縁において確実に人気が上がっているうちの一人。とはいえ、その作風は、「少年とも少女ともつかず、子供なのだがどこか大人びたような、現実にいる子どもというよりは子供の中に潜む、聖性や、浮世離れした何かを思わせるものとして登場する」(カタログより引用)とされるように、厳密な意味で「美人画」とはいえないのかもしれません。しかしジャンル分けはともかく、作品が醸し出す不思議な世界観には強烈な中毒性があります。
入江 明日香「四季草花図」(部分)平成29年(2017)丸沼芸術の森蔵
手漉き和紙に刷った銅版画を切り取ってコラージュし、水彩・墨・箔・胡粉などで彩色する独自の技法によって、東洋と西洋、現在と過去といった相対する空間や時代を一つの画面に融合させた個性溢れる作風が特徴。画面に描かれる女性像は、どちらかといえば美人画というより少女像であり、あどけなさの残る顔つきに儚さやアンニュイな表情を浮かべる少女の姿が鑑賞者の心を捕らえます。
入江 明日香「La forêt blanche (白い森)」平成28年(2016)個人蔵
入江 明日香「Moments fugaces parisiens (パリの儚さ)」平成26年(2014)個人蔵
入江 明日香「Sentiments éphémères japonais (日本の儚さ)」平成26年(2014)個人蔵
本展では、入江明日香のデビュー当時から最新の作品まで約80点を展示。時空を越えた不思議な世界観を表す代表作に加え、屛風の大作や創作の軌跡がうかがえる下絵や資料群などバラエティに富んだ展示により、入江芸術の全てが紹介されています。作品を鑑賞するだけでなく、銅版画をベースとした複雑な作品制作工程のパネル展示なども合わせて楽しんでみてくださいね。
入江 明日香「Nouvelle année (新しい年)」平成30年(2018)上坂 元氏蔵
展覧会名:「入江明日香ー心より心に伝ふる花なればー」
会場:茨城県天心記念五浦美術館(〒319-1703 茨城県北茨城市大津町椿2083)
会期:2019年7月20日(土)~9月1日(日)
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オススメ展覧会5:特別展「日本の素朴絵」(三井記念美術館)
2019年春、「へそまがり日本美術」という一風変わったタイトルの企画展が、府中市美術館の開館以来の最高動員数を大幅に塗り替えるというちょっとしたニュースがありました。同展で特集された、江戸~明治期に描かれたゆるくて変な絵画作品はSNS等で評判を呼び、会期終了前は入場制限がかかるまでにヒートアップ。ここ数年の日本美術における「ゆるかわブーム」がいよいよ本物になってきていることを強烈に印象づけました。
その熱狂が冷めやらぬ中、7月6日から三井記念美術館でスタートしている展覧会「日本の素朴絵」にも非常に注目が集まっています。「へそまがり日本美術」同様、ゆるくてかわいくて楽しい作品が約100点出揃いました。「へそ展」との違いは、より広範な分野から作品が集められたこと。古くは古墳時代の埴輪から、江戸時代の禅画、南画まで、日本美術史全般の中で立体・絵画作品を問わず、いわゆる「ファインアート」とは対極にある素朴でかわいい作品が集結しています。
さっそく見てみましょう。
まずは奈良時代に制作された、日本最古の絵巻物とされる「絵因果経」。各地に断簡が伝わっていますが、観るたびにこの古代の素朴なイラストの不思議な魅力に惹かれます。
絵因果経断簡 奈良時代(8世紀)五島美術館蔵
本展で一番の存在感を放っているのが、各展示室に多数出品された「絵巻物」です。中でも絶対見ておきたいのが「かるかや」と「つきしま」の二大素朴絵巻です。本展ではそのどちらもが出品されるなど、しっかりツボを抑えた出品はさすがであります。
つきしま絵巻 二巻 室町時代(16世紀)日本民藝館蔵
そして、日本全国のオカルトファンから熱い支持を受けている日本随一のUFO絵巻、「漂流記集」もちゃんと出ていました。UFOのような物体と、UFOから出てきた(?)とされる変な服装の宇宙人の姿が描かれた、ただただ凄い作品。
漂流記集 万寿堂編 江戸時代(19世紀) 西尾市岩瀬文庫蔵
さて、こうした素朴な絵画作品は名もなき庶民によって描かれたものだけでなく、著名人やプロの作家の手によるものも多数残っています。たとえば、京都国立博物館のゆるキャラ「トラりん」の元となったユルカワすぎる「虎」が描かれた本作は、琳派の名手・尾形光琳によって描かれています。
竹虎図 尾形光琳筆 江戸時代(18世紀)京都国立博物館蔵
そして素朴絵といえばやはり「禅画」を取り上げないわけにはいかないでしょう。本展でも、ユルカワ系禅画の二大巨頭である白隠慧鶴(はくいんえかく)、仙厓義梵(せんがいぎぼん)が出品されていましたが、特に目を引いたのがこの作品。二大巨頭を上回る破壊力でした。
雲水托鉢図 南天棒筆 大正時代(部分図)
「日本の素朴絵」展は立体作品も充実しています。古墳時代の埴輪から、江戸時代の円空仏まで幅広く取り上げられていました。
観音三十三応現神像 円空作 江戸時代(17世紀)愛知・荒子観音寺蔵
いかがでしょうか?
いわば庶民による庶民のための素朴なアート作品が集まった「日本の素朴絵」展。豪華絢爛・超絶技巧な作品ももちろん良いですが、こういったゆるくてかわいい作品が数多く大切に守り継がれてきたのも日本美術の特徴の一つです。日本美術史の中では決して取り上げられることのないいわゆる「B面」的な愛すべきゆるかわ作品の世界をたっぷりと味わってみてくださいね。
展覧会名:特別展「日本の素朴絵」
会場:三井記念美術館(〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2-1-1)
会期:2019年7月6日(土)~9月1日(日)
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オススメ展覧会6:特別展「室町将軍 – 戦乱と美の足利十五代 -」(九州国立博物館)
「室町時代」といえば、みなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか?戦国時代と鎌倉時代に挟まれ、なんとなく「地味」そうなイメージをお持ちの方も多いのではないかと思います。実際、大河ドラマではたいてい「江戸時代」と「戦国時代」が交互にテーマとして取り上げられ、それ以前では源頼朝や奥州藤原氏、平清盛など「鎌倉時代」などが人気であり、室町時代は残念ながら少し存在感が薄い気もします。
しかし、よくよく考えてみると、現在わたしたちが享受している「日本文化」の源流は「室町時代」にあるといっても過言ではありません。たとえば、日本美術では狩野派が登場し、茶の湯が始まったのは室町時代ですし、和風建築の「祖」である書院造、伝統芸能である能や狂言、味噌や醤油、豆腐といった日本料理の基礎も全て室町時代に整ったのです。
そう、我々が思っている以上に非常に日本史においては重要度の高い時代が「室町時代」なのですね。
そんな室町時代を、室町幕府を統治した15代の「将軍」に焦点を当てて特集したのが、7月13日から始まる九州国立博物館渾身の特別展「室町将軍 – 戦乱と美の足利十五代 -」なのです。早速ですが、みどころをチェックしてみましょう。
まず注目したいのは、展示室内に勢揃いする京都・等持院が所蔵する室町時代の将軍坐像全13軀です。本展で初めて寺外初公開となる画期的な展示です。
足利義満坐像 京都・等持院、鹿苑寺金閣(鹿苑寺提供)
そして、本展では歴代の室町将軍が収集した様々な宝物や歴史的に価値の高い文化財も見逃せません。国宝が14件、重要文化財が71件と、出品される全134件の約70%が重文以上の指定文化財なのです。これだけでも物凄く力の入った展示であることがわかりますよね。
重要文化財 永楽帝勅書(えいらくていちょくしょ)明時代 永楽5年(1407年) 京都・相国寺【展示期間】8月6日〜9月1日
たとえばこちら、三代将軍・足利義満は明の皇帝・永楽帝から「日本国王」の称号を得て、遣唐使の廃止以来、約500年ぶりに中国王朝と国交を結び、「勘合貿易」で明との交易を開始。足利家はこの「勘合貿易」によって莫大な富と中国の書画や工芸を始め、「唐物」と呼ばれるアジア各地の珍品を入手し、将軍家の権力基盤を固めていきました。本展ではなんと明の永楽帝から足利義満に宛てた勅書の本物が登場。
国宝・瓢鮎図 如拙筆 室町時代 15世紀 京都・退蔵院【展示期間】7月13日~8月11日
こちらは義満に続く4代将軍・義持が座右とした室町禅画の最高傑作とされる国宝「瓢鮎図」(ひょうねんず)です。「ツルツルした瓢箪で、ヌルヌルする鯰をおさえとることができるか」という義持発案の公案に対して京都五山の禅僧31名がその問いに対する回答を漢詩で書き付け、画僧・如拙(じょせつ)が絵を描いた書画軸で、室町時代前期を象徴する傑作です。
もちろん、歴代将軍が身につけた凄い武具甲冑類も登場。こちらは6代将軍・義教の着用と伝わる大鎧。息子の8代義政が応仁元年(1467)に杵築大社(出雲大社)に奉納しました。大鎧はその重厚さや華美なさまから、甲冑のなかでも最も格式の高い鎧と位置付けられ、武威の象徴や社寺への奉納品となりました。
重要文化財 赤糸威肩白鎧(あかいとおどしかたじろよろい)足利義教所用 足利義政奉納 室町時代 15世紀 島根・出雲大社(画像提供:島根県立古代出雲歴史博物館)【展示期間】8月6日~9月1日
そして、剣豪と名高い足利義輝の愛刀「大般若長光」(だいはんにゃながみつ)も登場します!「刀剣乱舞-ONLINE-」ファンのためにタイアップ企画が用意され、「大般若長光」をひと目見たいファンのために株式会社近畿日本ツーリスト関東からはネット限定のオリジナルグッズ付きツアー企画も販売されるという力の入り方。
それ以外にも、歴代室町将軍のエピソードがたっぷり詰まった多数の美術品・文化財が登場。江戸時代に負けず劣らず、約240年間もの長きにわたって続いた室町時代の偉大な文化の蓄積を体感できる展示をしっかり楽しんでくださいね。
ちなみに、2019年春に東京で開催された記者発表会では、「毎年太宰府天満宮には1000万人以上の観光客が訪れます。でも神社に隣接する九州国立博物館にはまだそのうちの約1割のお客様にしかお越しいただけていません。本当に面白い展覧会になりましたので、お参りだけではなく、ぜひ九州国立博物館にも足を伸ばして、たっぷり楽しんでいってください」という館長の力強いコメントがありました。館長の仰る通り、この凄い展示を見逃す手はありませんよね。
本展「室町将軍展」は、東京や大阪への巡回はありません!夏休み期間中開催されていますので、ぜひ、地元九州の方はもちろん、全国の美術ファン、歴史ファンの方にも、観光とあわせてぜひチェックしてみて頂きたい展覧会です!九州国立博物館の公式Youtubeサイトで詳細な見どころ解説動画や各種PR動画などもYoutubeで見ることができますので、予習は「動画」で是非!
展覧会名:特別展「室町将軍 – 戦乱と美の足利十五代 -」
会場:九州国立博物館(〒818-0118 福岡県太宰府市石坂4-7-2)
会期:2019年7月13日(土)~9月1日(日)
公式サイト
オススメ展覧会7:「福島復興祈念展 興福寺と会津 -徳一がつないだ西と東-」(福島県立博物館)
勝常寺、慧日寺(えにちじ)、鳥追観音・・・。会津地方には、平安時代初期の高僧・徳一(とくいつ)が創建したと伝わる古刹が点在しています。徳一は、興福寺に勤めた法相宗の高僧で、同時代に活躍した空海などと宗教論争を繰り広げるなど、当時を代表する知識人・高僧として非常に著名な存在でした。
徳一はその後弟子たちを引き連れて東国へと旅立ち、特に会津地方を中心に布教活動に取り組みました。たとえば、磐梯山の麓にある慧日寺は、16世紀に伊達政宗によって焼き討ちされるまでは、会津地方随一の古刹として栄えましたし、本尊である「木造薬師如来坐像」、両脇侍像の「月光菩薩立像」と「日光菩薩立像」が国宝指定されている勝常寺など、徳一が会津地方に与えた影響力の大きさを実感することができます。
勝常寺。ひっそりとした古刹には東北随一の国宝仏像が安置されています。
本展は、東日本大震災復興によせる興福寺の思いを受けて実現。徳一と彼の出身寺・興福寺との関わりに焦点を当て、国宝3件、国指定重要文化財8件を含む興福寺の寺宝の数々が出品されます。徳一が生きた時代に作られた興福寺の仏像を筆頭に、慧日寺伝来の品々や、徳一ゆかりの会津の仏教美術も広く展示。徳一の布教活動によって会津に根付いた仏教文化の概要を味わうことができます。
早速出品される主な仏像を見てみましょう。
国宝・維摩居士坐像 興福寺蔵 ©飛鳥園
国宝・四天王立像 広目天 興福寺蔵 ©飛鳥園
国宝・四天王立像 多聞天 ©飛鳥園
重要文化財・薬師如来坐像 興福寺蔵 ©飛鳥園
いずれも平安初期に製作された非常に貴重な仏像ばかり。展覧会では、これらの貴重な興福寺の仏像を、ぐるりと360度回り込んで様々な角度から観られるように展示。普段、お寺の境内では観られない角度からじっくりとチェックすることができるようになっています。
意外なことに、興福寺の仏像が東北地方へと上陸するのは本展が史上初とのこと。2019年春に開催された「伊藤若冲展」に続き、震災からの復興を祈念して福島で開催されるこの夏最大級の仏教美術展となりました。東北観光と合わせて是非足を運んでみてくださいね。
展覧会名:「福島復興祈念展 興福寺と会津 -徳一がつないだ西と東-」
会場:福島県立博物館(〒965-0807 福島県会津若松市城東町1-25)
会期:2019年7月6日(土)~8月18日(日)
特設サイト
オススメ展覧会8:「原三溪の美術 伝説の大コレクション」(横浜美術館)
松方幸次郎、益田鈍翁、根津嘉一郎、藤田傅三郎、出光佐三・・・日本では、戦前~昭和にかけて、一代にして美術品の大コレクションを築いたレジェンド級コレクターが多数存在します。2019年は、奇しくも奈良国立博物館での「藤田美術館展」や、国立西洋美術館での「松方コレクション展」など、こうした戦前の個性豊かなコレクターを特集した大型美術展が相次いで開催されています。
そんな中、7月13日から開催中の注目展が、横浜にゆかりのある原三溪の旧蔵品が集結する「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展です。
原三溪は本名を原富太郎(はらとみたろう)といい、岐阜に生まれました。横浜の豪商・原家に入籍し、原家の家業を継いだ後、生糸貿易で大成功した原三溪は、美術品の収集を開始。その生涯で集めた美術品は、5000点以上にのぼるといわれます。彼の死後、その膨大な美術品コレクションは惜しくも、個人コレクターや各地の美術館などに散逸しますが、本展では原三渓が生前収集した美術品や茶道具など旧蔵品約150件が集結。過去に開催された原三溪のコレクションを回顧する展覧会の中では最大規模の展覧会となりました。
原三溪の旧蔵品は、後に国宝や重要文化財に指定された非常に価値の高いものを多く含んでいます。実際、本展でも全展示作品中、国宝・重文指定作品は30件以上です。中でも絶対に見ておきたいのがこちらの2つの国宝です。
国宝 「孔雀明王像」平安時代後期(12世紀)、絹本着色・一幅、147.9×98.9cm
東京国立博物館蔵、Image:TNM Image Archives ※展示期間:7月13日~8月7日
国宝「寝覚物語絵巻」(部分)平安時代後期(12世紀)、紙本着色・一巻、26.0×533.0cm
大和文華館蔵 ※展示期間:8月9日~9月1日
また、原三溪は同時期の大コレクターがそうだったように、自由闊達な茶の境地を拓いた屈指の「数寄者」でもありました。本展では、美術品だけでなく、非常に貴重な茶道具や茶会記などを楽しむことできます。
「志野茶碗 銘 梅が香」桃山時代(16世紀末~17世紀初期)、陶器・一口、高8.3・口径13.5・底径3.8cm 五島美術館蔵 撮影:名鏡勝朗 ※展示期間:7月13日~8月7日
また、原三溪は同時代の若手作家達のパトロンとしても有名な存在でした。原三溪の自宅には、彼が目をかけている日本美術院の若い作家達が日々出入りし、彼の収集した美術品を品評したり、夜通し日本美術について激論を交わしたこともよくあったとのこと。原三溪が屈指の目利きであった理由の一つとして、彼が若手作家達との交流の中で培った高い美意識がプラスに働いていたのではないかという分析もあります。(中野明「幻の五大美術館と明治の実業家たち」)
本展では、彼が物心両面で支援した同時代の作家たちの作品も多数出品されています。
重要文化財 下村観山「弱法師」(右隻)大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双、各186.4×406.0cm 東京国立博物館蔵、Image:TNM Image Archives ※展示期間:8月9日~9月1日
ところで、現在ちょうど国立西洋美術館で原三渓と同時期の大コレクター、松方幸次郎を特集した「松方コレクション展」も開催されています。原三渓と松方幸次郎には、非常に多くの共通点があります。
松方幸次郎と原三渓には奇妙な程共通点が多数あります。例えば・・・
○雇われ社長として本業で大成功
○うなる手元資金で美術品を爆買い
○一代で数千点のコレクションを形成
○しかし関東大震災により本業が傾く
○コレクション散逸、美術館構想が頓挫
○重要な収集品の一部が東博へ収蔵される— かるび(主夫アートライター) (@karub_imalive) 2019年6月17日
松方幸次郎の収集した西洋美術、原三溪が収集した東洋美術、稀代の大コレクター達の展覧会をあわせて観ることで、近代の日本美術がぐっと面白いものに感じられると思います。ぜひお見逃しなく!
展覧会名:「横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」
会場:横浜美術館(〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
会期:2019年7月13日(土)〜9月1日(日)※会期中展示替有
特設サイト
オススメ展覧会9:「ニャンダフル 浮世絵ねこの世界展」(大阪歴史博物館)
世の中は史上空前のネコブームですよね。写真や絵画、彫刻作品など、「ネコ」をテーマとした様々な展覧会が各地で開催されていますが、どれもSNSで拡散されて老若男女幅広い層から支持を受け、どれも大人気。そんな中、また一つ楽しみな「ネコ」をテーマとした展覧会が大阪歴史博物館で始まります。
本展は、無類の猫好きで知られる歌川国芳(うたがわくによし)をはじめ歌川広重(うたがわひろしげ)、歌川国貞(うたがわくにさだ)、渓斎英泉(けいさいえいせん)ら、歌川派を中心に江戸後期に活躍した有力な浮世絵師たちが描いてきた様々な「ネコ」の浮世絵約150点を展示。ネコ好きにとってはたまらない展示が待っています。
早速見ていきましょう。
歌川国芳「たとゑ尽の内」大判錦絵三枚続 嘉永5年(1852)個人蔵
「猫に鰹節の番」「猫に小判」「猫舌」「猫も食わぬ」など、「猫」の言葉が付くたとえを題材に、江戸時代の日本猫の定番とされた尻尾の短いぶちや三毛の猫を、ユーモラスに表現しています。猫好きの国芳(くによし)の観察眼と表現力が遺憾なく発揮された作で、猫の身体の柔軟さやポーズが忠実に再現される一方で、その豊かな表情からどうにも人間くさく見えてきてしまうというのが国芳の描く猫です。
月岡芳年「古今比売鑑 薄雲(ここんひめかがみ うすぐも)」大判錦絵 明治8~9年(1875~76)個人蔵
江戸時代より遊女や市井の美人と猫の取り合わせは数多く描かれました。この遊女薄雲は、店の主人によって飼い猫と引き離されて病に伏せってしまったというほど猫を溺愛していたといいます。細かいところまでデザインされており、着物の袖や裾、紋にかんざしにまでも猫のすがたが隠れています。明治時代の浮世絵は、輸入染料の普及により色使いが鮮やかになり、とりわけアニリン系染料の赤い色が目を引くようになっています。
歌川芳藤「五拾三次之内猫之怪(ごじゅうさんつぎのうちねこのかい)」大判錦絵 弘化4年(1847)個人蔵
この恐ろしげな顔は一度見たら忘れられないでしょう。おもちゃ絵を多く手がけた歌川芳藤による「寄せ絵」で、大小の猫が寄り集まって巨大な化け猫の顔を作っています。題材は三大化け猫のひとつ、岡崎の化け猫で、歌舞伎「獨道五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)」において、老女に化けた化け猫が、破れた御簾(みす)から飛び出してくる場面を描いています。
また、本展の裏で見逃せない特集展示が、「『漣(さざなみ)』を生んだ風景―近代水都大阪を描く―」です。2019年は、淀川改良工事が完了し、新淀川が誕生してから110年目にあたる記念イヤー。また、2019年4月には地方独立行政法人大阪市博物館機構が発足し、大阪歴史博物館と2021年度に中之島に完成する「大阪中之島美術館」を管轄することになりました。これを記念して、2館が所蔵する「淀川の水景」を特集する作品の展示が7月10日から始まります。盛夏に涼を感じられる好企画として、こちらも合わせて紹介しておきますね。
浪花繁栄東堀鉄橋図 明治時代 大阪歴史博物館蔵
橋のある風景 田川勤次筆 昭和13年(1938)大阪中之島美術館蔵
重要文化財となっている福田平八郎の大傑作「漣」(さざなみ)なども出品され、その出品レベルも非常に高いのが本展の特長。ぜひ、「ニャンダフル 浮世絵ねこの世界展」を見終わったら、こちらも合わせて楽しんでみてください。
重要文化財 「漣(さざなみ)」 福田平八郎筆 昭和7年(1932)大阪中之島美術館蔵
展覧会名:特別展「〜国芳、広重、国貞、豊国、英泉…江戸・明治の浮世絵師たちが描く〜 ニャンダフル 浮世絵ねこの世界展」
会場:大阪歴史博物館(〒540-0008 大阪市中央区大手前4-1-32)
会期:2019年7月27日(土)~ 9月8日(日)
公式サイト
展覧会名:特集展示「「漣(さざなみ)」を生んだ風景―近代水都大阪を描く―」
会期:2019年7月10日(水)~ 8月19日(月)
公式サイト
オススメ展覧会10:「平福百穂展」(宮城県美術館)
平福百穂(ひらふくひゃくすい)は画家平福穂庵(順蔵)の四男として、秋田県角館町に生まれ、明治から昭和初期にかけて活躍した日本画家です。秋田蘭画を見て育ち、父からたびたび日本画の手ほどきを受けるなど、幼少時から芸術に囲まれた日々を過ごしていました。本格的に絵筆を取ったのは、父・平福穂庵の死後。後援者を得て、本格的な画家への道を目指します。
平福百穂 「猟」1920年 宮城県美術館
自然主義を標榜する无声会(むせいかい)珊瑚会、金鈴社といった各団体や、政府系の文展や帝展にも積極的に出品し、高い評価を得る一方、新聞や雑誌の挿絵においても活躍。さらに、アララギ派の歌人としても活動し、マルチな才能を開花させていきます。本展では、同時代の画家たちや歌人たちとの交流にも触れながら、百穂の多方面にわたる活躍を過去最大の規模で一望します。
平福百穂 「青山白雲」1919年 宮城県美術館
さて百穂の画風の特徴といえば、日本美術院系の画家の間で流行した大作歴史画とは違い、自然主義的で素朴な写生画に、文人画風のテイストが乗った独自の作風です。シンプルでありながら、飽きのこない作品は、いつまでもゆっくりと見ていられそうです。
平福百穂 「杜鵑夜」 1929年 宮城県美術館
展覧会名:「平福百穂展」
会場:宮城県美術館(〒980-0861 仙台市青葉区川内元支倉34-1)
会期:2019年7月13日(土)~9月1日(日)
公式サイト
夏休みは観光とセットで、ぜひ遠くの美術館へ遠征してみませんか?!
いかがでしたでしょうか?冒頭でご紹介したとおり、現代の個性派アーティストから老若男女が楽しめる夏休み向けの大型展まで、7月スタートとなる展覧会は非常にバラエティに富んだラインナップとなりました。せっかくの夏休みですので、ぜひ観光やグルメなどとあわせ、旅行気分で遠征してみるのも面白いですよね。今月も、暑さに負けず美術館・博物館を楽しみ尽くしましょう!