こんなに楽しい「書」こそ最高のアートだ!孤高の書家、井上有一の世界!

こんなに楽しい「書」こそ最高のアートだ!孤高の書家、井上有一の世界!

目次

井上有一、アートとしての「書」を確立した現代書家の肖像

孤高の書家、井上有一(いのうえゆういち)。全身全霊を傾けた作品は、没後約30年経ってもいまだ世界中で感動をもたらしています。「日常使っている文字を書くことで、誰でも芸術家になれる。書は世界に類を見ない芸術である」と語っていた有一。その書の魅力とは─。
DMA-3井上有一1984年撮影伊藤時男

墨の塊のような一文字の作品。それが、もはや文字であることに意味を見つけられなくても、目をそらすことができない魅力。井上有一が遺(のこ)した書は、今なお圧倒的な迫力で、私たちの胸に迫ってきます。
 
字を書く─きわめて根源的な行為でありながら、生命力に満ちた絵画的な表現によって、これまでの伝統書法とはまったく異なる新境地を開拓したのが井上有一、その人でした。彼が遺した作品は、山口昌男や高橋睦郎などの知識人をはじめ、糸井重里や操上和美(くりがみかずみ)、緒形拳などのクリエイターたちにさまざまなインスピレーションを与え続けたといいます。

井上有一の書は、果たしてどんな経緯で生まれたのでしょうか。
DMA-4井上有一1984年撮影伊藤時男1984年撮影

大正生まれの有一の人生には、東京大空襲の悲惨な体験が暗い影を落としています。1945(昭和20)年3月、教師をしていた横川国民学校で宿直をしていた日、子供を含む多くの避難民が、焼夷弾の炎に包まれました。有一はなんとか九死に一生を得ますが、約千人が亡くなったという光景は、地獄絵図のようだったとも。
 
そして終戦。新しい時代の幕開けによって、文芸や芸術の分野で自由な創作が試みられ、書の世界においても「前衛書道」という抽象的表現が生まれました。戦前から師事していた上田桑鳩(うえだそうきゅう)が手がけた『書の美』、森田子龍(もりたしりゅう)による書芸術総合雑誌『墨美(ぼくび)』など、活発な出版活動も見られるようになります。有一は、そこで出会った美術家・長谷川三郎(はせがわさぶろう)やイサム・ノグチらから、有形無形の影響を受けました。
 
前衛表現に突き進んだ結果、「文字を書くか、書かないか」という問題が、有一のみならず、当時の前衛書家たちの前に立ちふさがったのです。もともと美術家志向だった有一は、ついに文字を書かないばかりでなく、墨はエナメル、和紙の代わりにケント紙で制作。けれど書に付随する伝統の道具すべてを捨て去り、このうえもなく自由に表現できるというのに、納得のいく作品はできません。
DMA-CR83022-1『感嘆符』 ひとつの線、ひとつの点でも作品に。1995年、フランクフルトJAPAN ARTで発表された93枚で1組の作品。1983年作 各27×19㎝ 個人蔵

「なにものにもとらわれない自由などというものは本来どこにもないし、どこにもないということは即どこにでもあるということであって、なにもそのために漢字という欧米にはない素晴らしいものを捨てることはないということに気づくようになりました。文字を捨てることによって、文字を書くことの素晴らしさがわかったわけであります」(『井上有一』海上雅臣著 ミネルヴァ書房)より

書とは何か。

 
苦難の末、有一はあらためて文字回帰を決心します。それも途方もなく【デッカク】書いてみる、と。常識を覆し、前衛書道も笑い飛ばして、一匹狼として生きる。愚徹ともいえる有一の覚悟は本物でした。
DMA-CR66023山『山』 2011年、ドイツのヴィースバーデンで行われた「The Art of Writing」展にも出品された大作。1966年作 199×146㎝ 個人蔵

1970(昭和45)年、井上有一の書作品に出合い、以後ずっと積極的に作品集の刊行を手がけてきたウナックトウキョウ代表・海上雅臣(うながみまさおみ)さんはこう話します。

「彼は、戦争の惨状を書き残さなくてはいけない、書くと涙が出ると言っていました。ある展覧会で有一の書をはじめて見たとき、彼の作品だけが飛び出てきた。文字というものは【時間軸】。目で文字を追うと、人間は意味を考えます。だから文字は、時間の領域に属するものなのです。けれど彼の書は、どこから書いたかなんて関係ない。ピカソやジョルジュ・ブラック、マチスの絵を彷彿させる【空間性】の書なのです。有一は、自分の果たすべき役目をとことん問い、書に命の限りの情熱を捧げた本物の芸術家でした」

井上有一(1916〜85年)

書家。19歳で公立小学校に奉職。定年まで教師をしながら、創造的な書作品に取り組んだ。絵画の領域に踏み込んだ作品で、ニューヨーク近代美術館での「Japanese Calligraphy」展(1954年)展やサンパウロ・ビエンナーレ(第4回、6回)、ドクメンタ2などに次々と参加し、国際舞台で活躍。没後も国内7つの美術館を巡回する回顧展が行われ、書の母国である中国の美術館が相次いで大個展を開催するなど前例のない人気を誇っている。

井上有一の書にはここで出合えます

パブリックコレクションで有名なのは京都国立近代美術館。初期作品から、代表作『貧』『花』『上』など63点所蔵。常設展に出ることがあるので、まめにチェックしておきたい。ウナックサロンも有一の企画展を毎年複数開催。未発表作品展など、より深くその世界を知ることができる。

京都国立近代美術館

住所 京都市左京区岡崎円勝寺町
休館日 月曜・展示替え期間

ウナックサロン

住所 東京都港区麻布台1-1-20 麻布台ユニハウス112
休館日 土曜・日曜・祝日

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