意外なお宝を発見できる?! 「藝大コレクション展2019」は今年も凄かった!

意外なお宝を発見できる?! 「藝大コレクション展2019」は今年も凄かった!

目次

東京国立博物館、国立西洋美術館、東京都美術館など、国内屈指の美術館・博物館が一つの地区に勢揃いする上野公園内。その最奥部にあって、これら有名なミュージアムに負けず劣らず約30,000件のコレクションを所蔵する実力派美術館をご存知でしょうか?

それが、東京藝術大学構内にある日本最大級の大学美術館「東京藝術大学大学美術館」です。こちらでは、教授の退任を記念して開催される退任記念展をはじめ、年1~2回の特別展など、非常に数多くの美術展が開催されています。お隣の「陳列館」でのテーマ展示も含めると、実に年間20以上の展覧会が開催されているのです。だから、「今日は何を見ようかな?」と迷ったら、とりあえず上野の藝大に来てみれば、何かしら新しい作品と出会えるのですね。

そんな藝大美術館が、年1~2回ペースで開催している所蔵品展が「藝大コレクション展」です。毎年意外な傑作と出会えるので非常に楽しみにしていたのですが、今年も4月6日から絶賛開催中。古代の国宝絵巻物から現代アートまで、藝大で活躍した作家を中心に選びぬかれた作品約50点を楽しんできました。早速その内容や見どころを紹介していきます!

「藝大コレクション展2019」のコンセプトとは?

藝大美術館では、約30,000件ものコレクションを所蔵していますが、他館での展覧会を通してその所蔵品に触れる機会のほうが多いかもしれません。というのは、同館では特別展や退任記念展など、年間を通じてかなり高頻度で展覧会が開催されるため、スケジュール的になかなか自館の所蔵品展を開催するタイミングを取ることができないとのことだからです。

だからこそ、今回の「藝大コレクション展2019」では、同館所蔵の「定番」作品や新規収蔵作品はもちろん、普段なかなか見ることができないような作家や注目されてこなかった作品・資料に焦点を当てて特集されています。意外な掘り出し物が次々に見つかる、非常にシブい展示内容となっています。今回は、その中から第1期展示(4/6~5/6)を中心に、特に見逃したくない「見どころ」を紹介していきます。

見どころを一挙紹介!

見どころ1 オープニング作品は師弟対決


左:ラファエル・コラン「田園恋愛詩」/右:黒田清輝「婦人像(厨房)」通期展示

まず、地下にある会場に降りていき、入り口から入ったところに見える2つの作品をじっくり見てみましょう。黒田清輝「婦人像(厨房)」とラファエル・コラン「田園恋愛詩」が並べて展示されています。黒田清輝がフランスで師事したのがラファエル・コランなので、まさに師弟対決。藝大美術館では、2007年の展覧会「パリへ – 洋画家たちの百年の夢 – 」以来でしょうか?


ラファエル・コラン「田園恋愛詩」通期展示

まず、スラッとしたみずみずしい裸体の女性が描かれた「田園恋愛詩」を見てみましょう。草木が青々と茂る春ののどかな田園風景での満開の桜の下、1組の美しい男女が描かれた幻想的な作品です。ラファエル・コランの描く女性はルーベンスやルノワールと違い、透き通るような白い肌にスレンダーな裸身が個人的に非常に好みなのですが、よく観てみると、女性の顔、なんだか不自然に怖くないですか?実はこれは「能面」をつけた女性をイメージして描いているのだそうです。


黒田清輝「婦人像(厨房)」通期展示

一方、黒田清輝の「婦人像(厨房)」を見てみましょう。留学時代の20代前半、絵画修業のためにパリから郊外の農村に移住した黒田が、現地で交際した女性、マリア・ビヨーをモデルに描いた作品です。モデルの服装や生活風景が描かれた室内からは当時の農村の質素な暮らしが目に浮かぶようです。個人的には、この作品を観るといつも「むむっ、黒田め・・・やるな!」と作品よりも黒田のリア充ぶりに嫉妬してしまいます。(笑)

見どころ2 奇跡の全点集結!池大雅「富士十二景図」


池大雅「富士十二景図」第1期のみ展示

「藝大コレクション展2019」第1期の最大の見どころが、江戸時代・京都で活躍した南画の巨匠・池大雅の代表作の一つ「富士十二景図」が奇跡の全点集結を果たしたということです。本作は、そのタイトルの通り1月~12月まで季節の変化とともに様々な場面の「富士」を描いた12幅の連作作品。大雅存命中からすでに高い評価を得ていました。

本作は、それまで「九月」を除く12作品中11作品の存在が確認されていました。7作を藝大美術館が、4作品を滴翠美術館が所蔵していたのですが、このたび失われたと思われていたラストピース「九月」が約70年ぶりに発見されたのです。


池大雅「富士十二景図」第1期のみ展示/画面中、左から2番目の作品が今回発見された「九月」

発見された経緯もまさに奇跡的です。2018年春に85年ぶりに京都にて開催された「池大雅展」(京都国立博物館)での展示を見たコレクターが、自邸で「単体作品」として所蔵していた作品が、実は「富士十二景図」の一部なのではないかと考え、藝大美術館に連絡をしてきたことがきっかけでした。慎重に調べた結果、本作が失われた(と思われていた)最後の一幅「九月」の真筆であると確認され、藝大美術館で収蔵されることになったのです。

本作は、大雅が40歳頃の作品とされます。よーく見てみると12作品ともに技法やタッチが少しずつ違っており、季節の違いだけでなく意識的に作品を描き分けようとしていることがわかります。江戸末期に制作された浮世絵の「名所絵」シリーズでは、北斎や広重は実際に現地に行っておらず、粉本などを参考に、イメージで名所絵を仕上げることもありました。しかし、大雅は40代になるまでに少なくとも3回は富士登山を経験しています。したがって本作は、富士山周辺の景色を現地で実際に観察した大雅が「現地取材」に基づいて描いた「真景図」なのですね。実際、「一月」「十一月」は三保松原を、「四月」は白糸の滝をイメージして制作されています。

また、本作の数幅において「雨だれ」のようなシミがついているのは、後世になってから保存状態が悪い時に作品についてしまったシミなのだそうです。現状の修復技術では、シミは取ることはできるものの、同時に彩色も失われる可能性が高いとのことで、しばらくはこのままのようです。ただ、この「雨だれ」は一度見たら強烈な印象に残るので、本作の「個性」の一部だと思って楽しむのもいいですね。

見どころ3 これだけは見逃すな! 藝大定番の名作!

藝大美術館には、その前身である東京美術学校時代も含め、在校生や卒業生が制作した作品だけでなく、在校生の制作に役立てるために収集・所蔵された名作も多数あります。その中のいくつかには、美術や歴史の教科書・資料集にも掲載されるほど有名な、いわば「藝大コレクション」の”顔”とでもいうべき作品が存在します。

本展では、そんな藝大美術館の人気定番作品が登場。特に、初めて藝大コレクション展を見る人に絶対おすすめな3作品を紹介しておきますね。


国宝・絵因果経 第1期のみ展示

展示室の一番奥にひっそりと展示されているのが、日本最古の絵巻物とされる「絵因果経」(国宝)です。いわゆる平安時代以降の絵巻物と違い、上半分に挿絵が、下半分に文字が描かれた珍しいスタイル。しかし現代のマンガにも通じる絵巻物の伝統技法「異時同図法」は本作においてもしっかり使われ、右から左に読み進めると同じ服装・顔つきのキャラクターが何度も登場します。経典の中身が読めなくても、絵を追っていくだけでゆるかわキャラを楽しみながら、ストーリーもなんとなく想像することができますよ。


国宝・絵因果経(各場面の部分図) 第1期のみ展示

絵因果経は、今の東京藝術大学の前身である東京美術学校が設立された時にすでに所蔵されていました。岡倉天心が、学生達が日本画を学ぶ際の参考資料として購入したのです。以来、本作は歴代の学生たちによって鑑賞・模写の対象として大切に守り継がれてきました。最近活躍している日本画の現代作家では、千住博が在学中によく観て学んでいたとの逸話もあります。


重要文化財・狩野芳崖「悲母観音」第1期のみ展示

続いて見ておきたいのが、狩野芳崖「悲母観音」。当初出展予定がなかったそうですが、急遽決まったそうです。本作は、「新しい日本画」を生み出そうとした岡倉天心のイメージを体現しようとして、室町時代から連綿と続いてきた狩野派の末裔・狩野芳崖が晩年期に描いた大傑作。古来からの観音像に加え、キリスト教のマリア像のイメージも重ね合わせたとされ、それまでの江戸絵画にはなかった「和洋折衷」な新しさが感じられます。


重要文化財・高橋由一「鮭」通期展示

最後に、こちらも歴史の教科書に頻出する高橋由一(たかはしゆいち)が描いた代表作「鮭」。ワーグマンやフォンタネージといった、幕末から明治維新直後にかけて来日した画家から手ほどきを受けた由一が、西洋絵画の巨匠たちが残した本格的な作品を見ることなく、独自の「和製油絵」を完成させた象徴的な作品です。「花魁」とともに、重要文化財に指定されている歴史的な名作なのです。

見どころ4 イギリス帰りVSフランス帰り

「藝大コレクション展2019」の魅力のひとつが、東京美術学校で修行した画家たちを中心として、明治時代に活躍した作家の思わぬ名品と出会えること。特に洋画家については、意外な実力派の作品と出会えるのです。

本展では、国内での画技習得では飽き足らず、、原撫松、南薫造、三宅克己、牧野義雄などイギリスへと画家修業に留学した作家たちを特集。画家の留学・・・というと、一般的に「フランス」をイメージしがちですよね。実際、藝大美術館でも黒田清輝をはじめ、岡田三郎助、和田英作、藤島武二などフランスへ留学した藝大ゆかりの画家たちの作品が多数収蔵されていますが、イギリスへ留学した作家の作品は非常に貴重であるとのこと。では、いくつかみてみましょう。


左:原撫松「ヴァイオリンを弾く男」第1期のみ展示/右:原撫松「裸婦」通期展示

まずは、原撫松「裸婦」。原撫松は、留学から帰国後は画壇を離れて制作していたこともあって、東京国立博物館・藝大美術館以外で滅多に作品をみかけませんが、本作は本当に美しい作品。何層も絵の具を塗り重ねた繊細な質感は、技量の高さを感じさせます。隣に掛けられている「ヴァイオリンを弾く男」からも、原の抜群の腕前を感じることができます。


牧野義雄「テームス河畔」第1期のみ展示

つづいて、牧野義雄。1897年にイギリスに渡ってから、そのままイギリスで40年以上とどまって描き続けた「知られざる」名手。ロンドンの霞んだ大気の質感をうまく表現した風景画が特徴です。ロマンチックなムードたっぷりの佳作でした。


南薫造「夜景」通期展示

こちらは、南薫造のムードたっぷりな作品。黒田清輝からはフランス、ベルギーへの留学を勧められましたが、イギリス行きを決行。一節には、ラファエル前派やイギリス風景画家・水彩画家が好きだったからイギリスを留学先に選んだのではないか、とされています。本作からは、南薫造が当時イギリスで絶大な人気があった、「海景」を情緒たっぷりに描く名手だったホイッスラーの強い影響を受けていることがわかります。帰国後は1944年に洋画部門での「帝室技芸員」に任命されるなど、戦前の「昭和」を代表する洋画家として活躍しました。

見どころ5 意外な激レア作品も登場?!

そして、最後に紹介させていただきたいのが、この激レア作品。


歌川広重「名所江戸百景」より「大はしあたけの夕立」第1期のみ展示

あれっ、これよくある歌川広重「名所江戸百景」の有名な「大はしあたけの夕立」だよね?何がレアなの?って思われるかも知れませんが、よーく見てみると、なんと本作は通常のバージョンでは見ることができない二艘の舟が印刷されているんです。


歌川広重「名所江戸百景」より「大はしあたけの夕立」部分図

Twitterでコアなファンの方々に聞いてみたら、どうやら藝大コレクション以外にも、2018年~2019年にかけて来日巡回展が開催されていた「リー・ダークス コレクション」など、他にも数作幻の「二艘の舟」バージョンが現存するようです。「名所江戸百景」といえば、広重を代表する大ヒット作品ですが、当時のこうしたベストセラーには、初摺や試し摺りなど、様々なバージョン違いがあるようですね。

また、本展では「名所江戸百景」から「上野」や「お花見」をテーマとした作品など、全12作品が展示されていますが、どれも非常に状態が良好!収蔵されて以来ほとんど美術展で公開されていないとのことで、優品をかぶりつきでじっくり堪能できます!

大半が作品入れ替えとなる「第2期」もおすすめ! 2度楽しめる「藝大コレクション展2019」


いかがでしたでしょうか?これだけしっかり展示作品を観て、入場料金はわずか430円とワンコイン以下。学食のカレーライス並みの安さで、東京藝術大学が誇る約30,000件の所蔵品の中から選びぬかれた作品を楽しめるのが「藝大コレクション展2019」の良いところ。定番の名作から、藝大ゆかりの「知られざる」実力派作家までしっかり揃ったいぶし銀的な美術展です。

また、今回の「藝大コレクション展2019」では、第1期・第2期では15点を除いてほぼ全ての作品が展示替えされます。つまり、展示コンセプトは同一ですが、第1期・第2期では同じほぼ「別物」の展覧会であると言っても過言ではありません。ぜひ、2回、3回と繰り返し足を運んで楽しんでみてくださいね。上野駅から往復するだけでも、良い運動になりますし!

展覧会情報

展覧会名 「藝大コレクション展2019」
会場 東京藝術大学大学美術館
会期 第1期:4/6(土)~5/6(月・休)/第2期:5/14(火)~6/16(日)
公式サイト

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