横浜浮世絵展の異国情緒溢れる錦絵が面白い!その不思議な魅力を徹底レポート【展覧会レビュー・感想・解説】

横浜浮世絵展の異国情緒溢れる錦絵が面白い!その不思議な魅力を徹底レポート【展覧会レビュー・感想・解説】

美人画、役者絵、風景画、おもちゃ絵等々、浮世絵には様々な種類がありますが、「横浜浮世絵」というジャンルの浮世絵をご存知でしょうか?幕末~明治初期にかけて、文字通り「横浜」をテーマに制作された様々な浮世絵のことをいいます。

折しも2019年は横浜開港160周年となる節目の年にあたります。これを記念して、神奈川県立歴史博物館では現在「横浜浮世絵展」が好評開催中。会場には所狭しと幕末明治に活躍した浮世絵師の錦絵がズラリと並び、約150年前の異国情緒あふれる横浜の情景を楽しめる展覧会となりました。

早速取材させて頂きましたので、展覧会の魅力やみどころをたっぷりと解説していきたいと思います!

まずは基礎知識を整理。「横浜浮世絵」とは?


神名川横浜華郭之光景 貞秀 万延元(1860)年 川崎・砂子の里資料館/開港したばかりの横浜の様子。遊郭が右下に大きく、外国人居留区が右上の奥の方に描かれています。

横浜は、1858年に締結された「日米修好通商条約」によって、日本の数ある港の中でもいち早く「開港」した街の1つです。約250年ぶりに長崎出島以外で公式に外国人と交流が始まった「開国」のインパクトは凄まじいものがあり、のどかな漁村だった横浜は、開港後わずか数年でエキゾチックな都会の街へと変貌を遂げていきました。もちろん、そんな美味しいネタを流行に敏感な当時の浮世絵師が見逃すはずもありません。彼らは競うように横浜の新名所や外国人がいる珍しい風景を描きました。

こうした横浜をテーマとして幕末維新期に描かれた一連の浮世絵作品は、美術史の中でまだジャンルとして呼称が統一されておらず、たとえば、これまでは「横浜絵」「開化絵」など様々な名称で分類されてきました。では、本展を主催する神奈川県立歴史博物館ではどう呼んでいるのでしょうか?

もうおわかりですね。そう、本展タイトルの通り、同館では1859年6月の横浜港開港以後に描かれた「横浜」に関する浮世絵を「横浜浮世絵」と呼んで作品を分類しています。

横浜浮世絵は、現在全国各地の美術館・博物館に収蔵された浮世絵作品の中から約840件ほど確認されています。本展では、「横浜浮世絵」に関する国内2大コレクションといえる「斎藤文夫コレクション」「丹波コレクション」を中心に、特に内容が優れていて、状態の良い「横浜浮世絵」を約330点厳選。この世に現存する約40%が神奈川歴博に集結するという、「横浜浮世絵」に関して史上最大規模の充実した展覧会となっています。

展覧会を5つの見どころで徹底紹介!

本展には、展示点数・種類の豊富さ、網羅されている浮世絵作家の数・ユニークな画題など、本当に沢山の魅力や注目点があります。そこで、本稿では少しでも展覧会の面白さをお伝えすべく、展覧会で特に注目してみたい見どころを5つに絞ってお伝えしたいと思います。

注目点1:開港で激変した横浜の全体像を描いた浮世絵


横浜道中見物双六 貞秀 万延元(1860)年 丹波コレクション

まず会場に入ると目に飛び込んでくるのが、開港後の横浜の街の様子を立体的に描いた鳥瞰図や双六といった数枚続きの名所絵です。1859年に開港したことで、街の様子が短期間で大きく変わっていった横浜。そんな横浜の珍しい情景は、江戸の人々や参勤交代で各地から上京してくる武士達がお土産として買うための「名所絵」の題材として、浮世絵師にとって魅力的な取材対象だったのです。


御開港横浜一覧双六 芳幾 万延元(1860)年 丹波コレクション

そこで、まず最初にじっくり注目してみたいのが、急速に都会化していった横浜の全体像です。個別の名所絵なども面白いのですが、まずは一歩引いて歌川貞秀二代歌川広重らが力を入れて描いた街の全体図を眺めてみてください。そして、次に余裕があれば手元のスマホなどで、北斎が「冨嶽三十六景」で、広重が「東海道五十三次」で描いたのどかな神奈川の農村風景を検索してみて下さい。物凄い田舎ですよね。鳥瞰図を丹念に見ていくと、わずか20~30年の間に、横浜の街が一気に変貌を遂げていったことがよくわかります。


神名川横浜新開港図 貞秀 万延元(1860)年 丹波コレクション/開港したばかりの横浜の街を描いた作品。沢山の人の往来で賑わいますが、まだ外国人の姿は見当たりません。まだ異国情緒は感じられず、どちらかというと江戸の日本橋と似たような雰囲気です。

注目点2:横浜の名所を描いた作品群


横浜ステーション花園乃図 部分図 国鶴(初代)明治8(1875)年 丹波コレクション/イギリス人ブラントンの設計によって明治7年に完成した灯台局の試験灯台と、前年の明治6年に完成した弁天橋が描かれています。

開港とともに多数の外国人が来日すると、外国人の土木専門家の助けを得て、外国人居留地には和洋折衷の建造物が建てられました。また、西洋の建築技術が導入された灯台や橋などの大きな建築物も街のシンボル的存在となっていきます。こうした新しい街のランドマークとなるような風景もまた、浮世絵師たちにとって格好の取材対象となったのでした。


横浜商館之図 広重(三代) 慶応3(1867)年 丹波コレクション/商館の2階で優雅に本を読む外国人や、商館の外国人に向かって大道芸をする日本人、馬車に乗る裕福な外国人の姿など、細かく描きこまれています。


(異人商館内部の図)慶応元(1865)年 丹波コレクション/上から俯瞰したやまと絵的な「吹抜屋台」形式で異人館の中の内部を詳細に描いた作品。画面左下で羨ましそうに中の様子を覗き込む二人の日本人が印象的。

また、浮世絵に描かれた意外な「新名所」として注目したいのは、1859年の横浜開港に少し遅れて完成した港崎遊郭です。とりわけ岩槻屋佐吉が経営する「岩亀楼」(がんきろう)は、国貞以下有力な浮世絵師がこぞって取り上げました。豪華なガス燈シャンデリアなどの豪華絢爛な内装や、池のある中庭が設置された贅沢な遊郭は、日本人、外国人を問わず多数の来客で繁盛したといいます。


横浜厳亀楼上 部分図 広重(二代)万延元(1860)年 丹波コレクション


横浜岩亀見込之図 広重(二代)万延元(1860)年 丹波コレクション

注目点3:異国人の珍しいものなら何でも作品化した浮世絵師たち

浮世絵師たちは、横浜の新名所だけでなく外国人の肖像やその生活風景なども浮世絵のテーマとして好んで描きました。本展では、相次いで修好通商条約を締結したアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、オランダに加え、彼らが使用人として連れてきた中国人も含めた6カ国の中からそれぞれ異なる国の外国人達を描いた5枚セットの美麗な「揃物」が展示されています。

辮髪の中国人はともかく、その他の5カ国の人々はきちんと描き分けられているわけではないのですが、中には苦心したのか力が入りすぎてゴリラのような顔になってしまっている外国人像も・・・


蛮国人物図会 意太利亜国王 芳艶 部分図 文久元(1861)年 日本通運株式会社

また、好奇心旺盛というか、商魂たくましいと言うか、浮世絵師たちは横浜における外国人の日常風景や街での活動を丹念に調べ上げ、貪欲に浮世絵作品へと仕上げています。


横浜鈍宅之図 貞秀 文久元(1861)年 丹波コレクション


亜墨利加国蒸気船中之写 芳員 文久元(1861)年 丹波コレクション/アメリカの蒸気船の船内を図解した浮世絵。乗り物のしくみを知りたいと思う幕末のメカオタク感涙の1枚です。

さらに、浮世絵師たちは外国人たちから入手した参考資料などをベースに、最大限想像力を働かせて海外の「名所絵」まで描いています。きっと必死で文献や資料などをかきあつめて、苦心して描いたのでしょうね。


万国名勝尽競之内 佛蘭西把里須府 芳虎 文久2(1862)年 川崎・砂子の里資料館/資料と想像を元にパリの風景を描いた一枚。写真も入手出来ない時代に描かれたにしては悪くない仕上がり(?)かも知れません。

面白かったのは、外国人たちが持ち込んだ異国の「新たな遊び」の様子もしっかり浮世絵の中に描かれていたことです。こういった珍しいものについては、当時の浮世絵師は絶対に見逃しません。しかし描き慣れていないからか、ビリヤード、競馬、テニスなど、どこか描写が変なのはご愛嬌といったところでしょうか。


異人玉転之図 広重(三代) 明治初期 神奈川県立歴史博物館/ビリヤードに興じる人々を描いた作品。よく見ると外国人ではなく明治維新を経てちょんまげ姿ではなくなった日本人が遊んでいます。現在とはだいぶルールが違うようですが・・・。


横浜名所之内 大日本根岸万国人競馬興行ノ図 永林 明治5(1872)年 丹波コレクション/1866年、外国人専用の娯楽施設として建設された競馬場。遠近感とか縮尺とかジョッキーの乗り方とか、ツッコミどころ満載です。

注目点4:機関車で盛り上がる横浜


横浜鉄道館蒸気車往返之図 広重(三代)明治5(1872)年 川崎・砂子の里資料館

1860年から数年間の間、物珍しさからハイペースで作られ続けた横浜浮世絵ですが、やがてブームは沈静化。一旦は出版ペースが落ちました。しかし、1872年9月に新橋-横浜間で日本初の鉄道が本開業すると、浮世絵師たちは再び競うように「鉄道」をモチーフにした横浜の風景を描くようになります。

横浜浮世絵では、ちょうど終着駅である横浜駅に停留する機関車が描かれた作品や、横浜近辺の名所の近くを通過する機関車を描いた作品が多く残されています。


神奈川入河景蒸気車鉄道図 広重(三代) 明治4(1871)年 丹波コレクション

こちらはよく見たら、客車と客車の間に機関車が連結されています。ちょっとあんまり見たことないですよね。絵師たちがおふざけで描いたのか、それとも本当にこういう編成で当時運行されていたのか、謎すぎます。


横浜新地蒸気車鉄道之真景 部分図 広重(三代)明治5(1872)年 丹波コレクション

さらに面白いのは、せっかく描くのなら・・・ということで、当時一般的に普及していた人力車や乗合馬車など、他の乗り物とセットで一緒のフレームに収められた構図の作品が複数枚展示されていたことです。子供の図鑑でよくあるような「のりもの大特集」みたいな感じのノリなのでしょうか。これならお土産として自宅に持ち帰ったら、子供も喜びますね。


横浜ステーション花園之図 国鶴(初代) 明治8(1875)年 丹波コレクション

そして、最後に豆知識を。維新後すばやく開業まで漕ぎつけた日本初の鉄道路線ですが、当時は色々と反対運動も起きたことから用地取得が難航しました。結局、計画された全29kmのうち品川近辺を走る約10kmの区間は東京湾を突っ切る形で海の上に突堤を造成して、その上に線路を通すというかなりの荒業で決着。着工から開業までわずか2年と、突貫工事で完成したというのだから驚きです。今なら絶対こんな短い工期ではできないはずですよね・・・。

実際に地図にも海の上を線路が走っている様子が描かれているので、見逃さずにチェックしてみてくださいね。


東京蒸気車鉄道一覧之図 部分図 芳虎 明治4(1871)年 川崎・砂子の里資料館/海上を突っ切る形で造成された鉄道線路。

注目点5:幕末~明治に活躍した「歌川派」が総登場。そして意外なユルカワ絵師も・・・


今昔未見生物猛虎之真図 暁斎 万延元(1860)年 日本通運株式会社/肉筆画と並行して、浮世絵師としてもセンセーショナルな作品を多数残した河鍋暁斎の作品も展示。横浜に「ヒョウ」が初来日した時の様子を浮世絵として描いた作品。踏みつけられているニワトリがちょっとかわいそうな感じです・・・

浮世絵ファンとして注目したいのは、「横浜浮世絵」では、幕末~明治の浮世絵師たちがほぼ総登場するということでしょうか。時期的に葛飾北斎、歌川広重あたりはもう制作していないのですが、美人画や役者絵で名を馳せた歌川国貞は弟子たちと遊郭のコラボ作品を残しています。また、国貞の一番弟子で、浮絵技法や詳細な描写を得意とした歌川貞秀、広重の弟子として風景画で活躍した二代広重、三代広重、さらに歌川芳虎、芳藤、芳員、芳艶など歌川国芳の弟子たち、豊原国周、落合芳幾、月岡芳年、河鍋暁斎ら明治期に活躍した浮世絵師など、幕末の歌川派オールスターがほぼ全員集合しているのです。

しかし、筆者が今回浮世絵ファンに推したいのが、生没年や来歴など、詳細が一切不明な謎の浮世絵師「永林」の作品です。遠近法とかもめちゃくちゃで、一見パッと見て下手なんですが(笑)、妙に画面がさっぱりしていて、そしてユルくてわかりやすい画風に、次第にぐいぐい引き込まれていきます。アンリ・ルソーの風景画を見ているような不思議な中毒性がありました。


横浜鉄道寮出車之図 永林 明治5(1872)年 丹波コレクション


横浜名所之内 蒸気車館昌栄の図 永林 明治5(1872)年 川崎・砂子の里資料館

先日まで府中市美術館で「へそまがり日本美術」という美術展が開催されていましたが、もし出展されていたら「ユルすぎる横浜浮世絵」ということで人気化していたかも?!百聞は一見にしかず。現物と対峙するとその絶妙なおかしさが腑に落ちるはず。ぜひ肉眼で確認してみて下さい!

オリジナルグッズ・図録もおすすめ!

さて、展覧会を見終わったら、ぜひミュージアムショップにも立ち寄ってみましょう。横浜にちなんだ食べ物などのグッズ類、所蔵品をプリントしたポストカードなど多数用意されていますが、今回オススメしたいのは、「横浜浮世絵展」の公式図録です。

横浜浮世絵の大コレクターである斎藤文夫氏へのロングインタビューや、浮世絵内に描かれた詞書の書き起こし、作品1点ごとの詳細解説とともに、大量約330点の図版が掲載され、非常に充実した内容となっています。なのに、価格は相場よりかなり安い1500円。これはお得です!!外部の業者に発注せず、大半の作業を学芸員の方が自ら手がけたことで、販売価格を抑えることができたのだそうです。

また、本展のために用意されたオリジナルグッズもあります。一推しは、本展で展示された作品の中から2種類用意された展覧会限定のクリアファイルです。

浮世絵ファンじゃなくてもしっかり楽しめる「横浜浮世絵」の世界

開港150周年となった横浜髙島屋での特集展以来、約10年を経て再び開催された「横浜浮世絵」の大型展。展示を観終わって強く感じたのは、事前知識がほとんどなくてもしっかり楽しめるという点で、初心者にも易しい浮世絵展だったということです。作品を順番に観ていくと、変貌を続ける横浜の街に対して当時の人々が感じていたであろう新鮮な驚きや期待感が感じられると共に、適度にツッコミどころもある作品も多く、観ていて本当にわくわくするような面白さがありました。3枚続き、5枚続きといったワイドスクリーンで詳細に描きこまれた迫力の作品群を見ていると、知らず知らずのうちに幕末維新の世界にタイムトリップしたような気持ちになれるかもしれません。

もちろん、横浜に詳しい人なら、現在の横浜との「違い」に着目するのも一興ですし、幕末の歌川派が勢揃いした豪華ラインナップは、熱心な浮世絵ファンのマニア心を十二分に満たす充実の展示内容になっています。

楽しみ方は人それぞれですが、非常に満足度の高い展覧会です。この機を逃すと「開港170周年」まで当分の間これほどの大型展は味わえないかも知れません。オススメなのでぜひ足を運んでみてくださいね!

展覧会情報

展覧会名「横浜開港160年 横浜浮世絵」
会場 神奈川県立歴史博物館
会期 2019年4月27日(土)~6月23日(日)
[前期:4/27~5/26 後期:5/30~6/23]
公式サイト

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