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2023.04.28

わざと落とし穴に落っこちた! 茶の湯の心を今に伝える、千利休エピソード集2

かずかずの逸話が示唆する、利休のわび茶 その四から六をご紹介します。

これまでのエピソードはこちらからどうぞ。

その四、わび茶の作意

ある茶室で、利休は連子窓(れんじまど)の竹がところどころ新しい青竹に替えてあるのを見て、少庵(しょうあん)に次のように教えました。
「新古を取り混ぜて人を面白がらせようとするのはよくない。全部取り替えても、わずかな手間であろうに。だからこの竹は、すべて取り替えるのが茶の道というものです。そうでなければ一本も替えないままのほうがよろしい」
●連子窓 縦または横に竹を等間隔で並べた窓のこと。

豊臣秀吉の小田原攻めに同行した利休が、静岡県の伊豆韮山(にらやま)の竹で作ったと伝わる花入。利休から養子の少庵に贈られた。「竹一重切花入 銘 園城寺」(たけいちじゅうぎりはないれ めい おんじょうじ) 伝千利休作 1口 安土桃山時代・天正18(1590)年 高33.9・口径10.9・底径11.2㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

その五、わざと穴に落ちることも気遣い

「茶には〝へつらい〞がありますね」。との質問に対して利休はこう答えました。
「友人の丿貫(へちかん)という茶人が、わざと入り時間を間違えて私を茶会に招いたことがありました。指定の時間に行ったところ、露地の潜戸(くぐりど)の前に穴が掘られ、その上に土がかぶせてあったのです。穴に落ちてしまった私は風呂で泥を落とし、あらためて席入りしました。周りの皆はこの出来事を面白がったようでした。しかし以前に、私は期明(きめい)という者から落とし穴について聞いていたのです。もし私が穴に落ちなければ、亭主の作意を台無しにしますから、知りながら穴に落ちたのです。それでこそ、一座建立(いちざこんりゅう)ができました。茶の湯は〝へつらう〞ということでもないのですが、亭主と客が一致しなければ一座建立にはなりません」
●丿貫 北野大茶湯において、朱の大傘を立てて茶席を設け、人目を引いたという伝説エピードをもつわび茶人。奇行ぶりで有名だった。
●潜戸 露地の庭のなかに設けられた門の一種。
●一座建立 能などの芸能において、共同で興行することを指す言葉。茶の湯では、主客がともに相手のこころを汲(く)みとり、一会を成すという精神。

その六、納得がいくまで

利休が朝茶を催したときのこと。寒い日なのに、露地に客を待たせたままで利休が出てきません。なぜ挨拶にこないかと細川三斎(ほそかわさんさい)が尋ねると、「手水鉢(ちょうずばち)の細かい石を直しているうちに遅くなってしまいました」とのこと。
そこで三斎は「利休殿ともあろう方が、前日に直しておくべき石を、客を待たせたまま直すとは。茶の道から外れているのではないですか」と質問しました。
利休は「前日に直したときはそれでよいと思いましたが、今朝見たら、まだおかしかったのです。直しているうちに時間が過ぎました」と言います。
三斎は「客が待っているのですから、適当なところで客を呼び入れるべきではないですか」と再び尋ねました。
「いえ、茶の湯はそれではいけません。自分の心に叶(かな)わないものを見せてはいけないのです。たとえ客が寒くとも、すっきりとした気持ちで、客を迎え入れることが大切です」
●細川三斎 利休七哲(しちてつ)のひとりに数えられる大名茶人。利休の堺蟄居(ちっきょ)の際に、古田織部(ふるたおりべ)とともに、淀(よど)にて見送ったというエピソードが有名。

細川三斎(忠興 ただおき)が、茶事を催す際に大書院の上段間(じょうだんのま)、附書院(つけしょいん)、次間(つぎのま)、違棚(ちがいだな)の飾り付けについて記した控書。「茶事控書(ちゃじひかえがき)」 細川三斎筆 紙本墨書 1幅 江戸時代・17世紀 縦20.5・横46.7㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

※12のエピソードは、『長闇堂記(ちょうあんどうき) 』『茶道四祖伝書(ちゃどうしそでんしょ)』『茶話指月集(ちゃわしげつしゅう)』『源流茶話(げんりゅうちゃわ)』『南方録(なんぽうろく)』『茶窓閒話(ちゃそうかんわ)』『松風雑話(しょうふうざつわ) 』といった昔の茶書の現代語訳を参考にして作成しました。

※本記事は雑誌『和樂(2022年12・2023年1月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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