そこで、ご飯に定評がある東西の一流店、京都「草喰(そうじき)なかひがし」と東京「江戸前芝浜(しばはま)」のふたりの料理人に、土鍋ご飯の炊き方を教えてもらいました。
第1回の今回は京都「草喰(そうじき)なかひがし」。ご飯好きが心待ちにしていた新米が、もっと美味くなることは請け合いです!
京都「草喰なかひがし」の流儀
土鍋で炊く白飯がメインディッシュです
白いご飯が一番のごちそうと掲げる、日本で唯一の料理店「草喰なかひがし」(※「喰」の字は正しくは、口かんむりの下に食と書きます)。
今どきの割烹店は締めに高級食材を使った「炊き込みご飯」を土鍋で炊いて盛り上がるのが人気のようですが、この店は開店当時から白いご飯、ひと筋。飽食の現代に、ただの白飯というありきたりにも聞こえる献立を続けることに不安はなかったのでしょうか?
「ないですね。この店のおかずに飽きることがあっても、ご飯だけは飽きることがないのがうちのお客さまだと思っていますから。1日3度のご飯に飽きないどころか、ただの白いご飯でも、味の違いがわかるのが日本人です。日本人の繊細な味覚に合う食べ物は、白いご飯以外にないというのが僕の考え。毎日精米したての、とびきり環境のいいところで育ったお米がうちの料理の主役です」
中東久雄(なかひがしひさお)さんが自信をもって「うちの店に来たら、5杯は食べてもらわないと」とすすめる白ご飯は「5変化」の食べ方が楽しめます。お米の甘みをトロッと味わう「煮えばな」、芯までふっくら炊き上がった「食べごろ」、嚙むほどに甘みが増す「おこげ」。ここまでが正統の白ご飯の味わい方で、この先は中東さんの駄洒落とともに提供される〝味変〟のご飯。お茶漬け、卵かけご飯(カラスミと長芋を混ぜる贅沢さ)まで制覇しても、ご飯の甘い香りに「もうひと口いけるかも?」と前のめりになるのは、まさに中東さんの狙いどおり! 「お米を好きになってもらうのが僕の務めですし、お米を育てている農家さんへの気持ちです」
店の中央に据えられた土鍋は、滋賀の陶芸家・中川一志郎(いちしろう)製。中東さんが独立開業する5年前、〝平成の米不足〟のころに「どんなお米でも美味しく炊ける」炊飯専用の土鍋を中川さんが考案。その味に感銘を受けて、「草喰なかひがし」のコンセプトが決まったそう。伊羅保(いらぼ)焼の土鍋に織部の釉薬(ゆうやく)をかけた、強烈な存在感。おこげのために独自の工夫も施されているそうで、このオリジナルの土鍋もまた絶品ご飯の立役者なのです。
中東さん流 土鍋ご飯を美味しく炊く3つのコツ
♦米は赤子を洗うように米を手のひらで包み洗いするだけ。糠ぬかを落とすだけに専念する。
♦水の量は米を見て量る。浸水させた米をあらためて計量し、同量の水で炊く。
♦かくはんは一度だけ。煮えばなが炊けたタイミングで全体を混ぜ、空気を入れる。
土鍋炊きごはん最強データ
米=山形県川西町の高橋一夫さんのつくる「つや姫」。農薬や化学肥料は不使用の天日干し。
水=東山の伏流水を汲み上げた水
土鍋=滋賀県彦根市の「一志郎窯」
炊きたてご飯には目刺しが最強のおかず
店舗情報
草喰なかひがし(そうじきなかひがし)
※「喰」の字は正しくは、口かんむりの下に食と書きます
住所:京都府京都市左京区浄土寺石橋町32-3
電話:075-752-3500
営業時間:12時~13時(入店)、18時~19時(入店)
休み:月曜・月末の火曜 ※予約は毎月1日8時より翌月分を受付。
料理:コースのみ、昼8,800円~、夜22,000円~(いずれも税込)
撮影/石井宏明 構成/藤田優
※本記事は雑誌『和樂(2020年10・11月号)』の転載です。掲載データは2023年9月現在のものですが、お出かけの際は最新情報をご確認ください。