その1はこちら。
東京「江戸前芝浜」の流儀
江戸前のご飯は粒立ちが命です!
江戸料理とは看板にあるものの、提供したいものは「普通の和食」と語る海原大(かいばらひろし)さん。「地方に行けば、当然のように地元の特産品が食べられるように、東京にいる僕はこの地のベースになっている江戸の料理をお出ししているんです」
ということで、〝徹底した普通〟にこだわる海原さんにとって、白いご飯は献立の要であり、いちばん自信のある料理。修業時代、ご飯が評判の店で経験を積んだのもそのためで、お米に対するアプローチは揺るぎのないものがあります。
「目ざしているのは、〝逆アルデンテ〟のご飯。外は硬くて中はふわっと炊きあがっていて、嚙めば嚙むほどお米の味わいが出てくるご飯です」。店主の言葉どおり、炊きたてのご飯はピンとお米の粒が立っていて、口あたりはさっぱり。ご飯の味わいとして好まれる、もっちりやわらかな食感とは対極にあり、さすがの江戸風味です。
ご飯の粒を立たせるおひつの力
お米の甘み、旨みが強く味わえるので、ご飯だけでも十分。漬物や味噌汁があれば、なおご飯が進みます。江戸っ子は1日に5合も白いご飯を食べたそうですが、「江戸前芝浜」の白ご飯なら、飽きもせずにお腹に入りそう!
粒立ちのいいご飯を叶える道具として選ばれたのは、萬古焼(ばんこやき)の土鍋。萬古焼はその陶土に特徴があります。一般的な土鍋に比べると薄い肌になりますが耐熱性は十分にあり、炊飯すると羽釡(はがま)と土鍋の中間ぐらいの炊き上がりが狙えます。近年、料理人の間でも使い勝手がいいと評判です。海原さんは修業先の店で萬古焼を知ったそう。
炊飯までのひと通りを見せてもらって驚いたことは、お米(のちにご飯)には極力手を触れないこと。炊き上がりも、鍋の中を混ぜることはしません。おひつに移すときに、上からバサッと、空気に触れさせるようにご飯を入れて、水蒸気を飛ばして米の温度を下げる。少量ずつ、まんべんなくご飯を重ねることで、ご飯がひと粒ずつふっくらと仕上がります。なにげない動作に見えて、美味しいご飯のために考え抜かれた手の動きでした。
海原さん流、土鍋ご飯を美味しく炊く3つのコツ
♦米を極力触らない。米は洗うというより水を通す感じ。米に傷をつけない。
♦米の浸水は1時間。粒立ちの炊き上がりのために水をたっぷり吸わせる。
♦炊き上がったらおひつへ。ご飯をまんべんなく広げて入れ、水蒸気を飛ばす。
土鍋炊きごはん最強データ
米=栃木県産「こしひかり」が基本。炊き込みご飯の場合はそれに応じた米を用意。
水=ミネラルウォーター
土鍋=三重県産「萬古焼」の土鍋
店舗情報
江戸前芝浜(えどまえしばはま)
住所:東京都港区芝2-9-13
電話:03-3453-6888
営業時間:17時30分~24時(最終入店21時)
休み:不定
料理:おまかせコース13,500円~(税込)※要予約
撮影/石井宏明 構成/藤田優
※本記事は雑誌『和樂(2020年10・11月号)』の転載です。掲載データは2023年9月現在のものですが、お出かけの際は最新情報をご確認ください。