伝統的な製法は同じでも、根づいた地域の気候風土や歴史から、違いが出るのが手延べ素麺の奥深さ。ひと味違う素麺を食べたい方に、4つの名産地の個性派「手延べ素麺」のつくり手をご紹介します。
【奈良・三輪素麺】玉井製麺所の「芳醇」

北海道産小麦、米油、赤穂塩。国産原料に限った素麺の先駆け
三輪素麺(みわそうめん)発祥の地・奈良県桜井市で、大正2(1913)年から家族を中心に素麺づくりに励む玉井製麺所。
由緒ある三輪の地に冬晴れの空の下、天日干しを行う様子は、玉井製麺所の名物風景でもあります。
「天候に左右されますから、非効率ですよね。でも冷たく乾いた空気に、少しでも触れさせるとコシが増すのは確か。白さにも違いが出ます」と4代目の玉井勝徳さん。
近年三輪素麺が火付け役となっている人気の極細麺、定番の素麺も人気ですが、今回紹介する「芳醇(ほうじゅん)」は、すべて国内産原料を使ったプレミアム素麺。玉井さんは今から18年ほど前から試作を重ねて、いち早く商品化しました。
「粉の性質の違いで、いわゆる三輪素麺に比べたらコシは落ちるけど」と控えめに玉井さんは語りますが、もちもち・つるつるの食感は、三輪素麺のいいとこどりで、これもあり! 箱を開けたときの小麦の香りにも驚きます。
細いのにコシが強い三輪素麺の伝統製法。鳥居印の帯がその証です

●地元ではこう食べる
しなやかな「芳醇」は冷やして。「定番の三輪素麺は、鍋に入れても煮崩れないコシの強さがあるので、冬は鍋の〆に入れてます」(玉井さん)
「玉井製麺所」DATA
住所:奈良県桜井市三輪214
電話:0744-43-2257
営業時間:9時~16時
休み:土曜・日曜・祝日
公式サイト:https://www.soumen.info/
【熊本・南関素麺】雪の糸素麺 猿渡製麺所の「曲素麺」

江戸時代のままに全工程手を使ってできた麺
熊本県北部の山間の町、玉名郡南関町(なんかんまち)。江戸時代に小麦の産地となり、気候風土も適したため、素麺づくりが始まりました。南関素麺の特徴は、なんといってもすべてが手作業であること。
「すべてを滞りなく進めるには、最初の生地の仕込みが肝心。塩と水の加減がすべてを決めます」と語るのは、創業約300年になる雪の糸素麺 猿渡(さるわたり)製麺所の10代目・師富(もろどみ)慶太朗さん。
「機械が再現できないところも、つねによりをかけている」と師富さんが誇る「曲(まげ)素麺」は、最長2mにまで延びるとか。
こんなにも、延びるのは、〝かけばた〟に掛けた麺を人間が横に動いて、延ばすから。機械であれば上から下へ、といった動きなので限度があります。
理に適(かな)った体と手の動きから生まれる麺は、一般的な素麺よりは少し細めでしなやか。それでいてシコシコとした歯ごたえのギャップが面白い。少し固めにゆでると独自の食感が際立ちます。
「手延べ」のおおもとといわれる「横延ばし」。麺を横に延ばすのを繰り返して細く仕上げる。それが可能になるのも、手よりの技!

●地元ではこう食べる
「素麺は贈答に使い、地元では〝フシ〟と呼ばれる、切れ端を食べます。フシにきなこと黒蜜をかければおやつになります」(師富さん)
「雪の糸素麺 猿渡製麺所」DATA
住所:熊本県玉名郡南関町関町1417
電話:0968-53-2106
営業時間:9時30分~16時30分
休み:水曜
公式サイト:https://yukinoito-soumen.com/
【富山・大門素麺】JAとなみ野の「大門素麺」
」

袋を開けたときから、〝ひね〟素麺の色と味わい
加賀前田藩の御用素麺を製造していた能登・蛸島(たこじま)。そこに赴いた富山県砺波(となみ)郡大門(おおかど)村(当時)の薬売商人が素麺を知り、地元に技法が伝わったのが江戸時代後期のこと。
その後、能登では製麺は途絶え、大門地区が継承。現在は、10軒が製麺に携わります。
長い麺をそのまま巻き込んだ姿も個性的ながら、その風味も突出しています。
ゆであがりの色は象牙色。麺にハリがあり、強い。その年のできたてを食べているはずなのに、麺に貫禄がある。
キャリア38年になるつくり手・境欣吾(さかいきんご)さんにその理由を聞くと、「通常は乾燥に2日のところを、大門素麺は半生の状態で曲げてから、10日かけて乾かします。そこで小麦内の酵素が働いて、風味が増すといわれています」。
近年は小麦も地元で育てる動きも。「順調に育ってきています。大門産の小麦で素麺がつくれたら、より魅力が増すと思うんですよね」と語る境さんの声が弾みます。
長い麺を丸まげ状に巻くのは、北前船で出荷するため。米俵に詰めやすく、割れにくい形だったとか。乾ききる前に丸めるのが難しい!

●地元ではこう食べる
「私は冷やして食べるのが好きですが、昔から好まれる味は、煮たナスを添えたり。味つけは家庭によって醬油や味噌に」(境さん)
「JAとなみ野」DATA
住所:富山県砺波市矢木25-1
電話:0120-234-803(大門素麺事業部)
営業時間:9時~17時(平日のみ)
公式サイト:https://tonamisato.raku-uru.jp/
【徳島・半田素麺】杉本手延製麺の「半田手延べそうめん」

一般的な半田の麺よりはのど越しよく、少し細めに
徳島県つるぎ町半田の近くを流れる吉野川。
ここは昔から物資の集散地であり、素麺の技法も江戸中期に奈良・三輪から淡路島、鳴門を経て伝わったそう。
半田素麺といえば、弾力があって食べごたえのある太い麺が評判。日本農林規格では「ひやむぎ」に分類されますが、200年近い食文化が認められて素麺と呼ばれているとか。
「うちの麺は細めなの。いわゆる素麺に比べたら太いけどね(笑)。のど越しを考えたら、細いほうがいいのかな、と」と話してくれたのは、杉本手延製麺の4代目を夫・杉本博人さんと担う妻の繁子さん。
おふたりともに70歳代。「作業はふたりだけだから、根詰めないでやってます。素麺づくりは天気や風向き、素麺のご機嫌を見ながらでないと、できないわ」と繁子さん。機械も最小限に、手を使ってできる素麺は、むっちりツルツル。夫婦の息の合った作業がおいしさにつながっています。
太さで分類すれば、ひやむぎ。剣山(つるぎさん)のふもと、天日を受け寒風にさらされた麺は、舌の上で跳ねるほどコシが強い。

●地元ではこう食べる
「太めなので、冷やしだけでなく煮麺として食べることも。いりこと昆布でとった出汁にネギ、揚げなど入れて食べます」(繁子さん)
「杉本手延製麺」DATA
住所:徳島県美馬郡つるぎ町半田小野182
電話:0883-64-2154(FAX兼用)
営業時間:9時~17時
休み:不定
※注文は電話かファックスのみで受付
▼「そうめん」大研究その1~3はこちら。
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