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2016.06.16

六本木・泉屋博古館分館で、伊藤若冲のメジロオシを鑑賞する絶好の機会

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先日、東京都美術館で開催された「生誕300年記念 若冲展」で話題になったのが超絶技巧にも通じる筆致で描かれた『動植綵絵』30幅でした。まさに若冲の代表的名画を手がけるよりも少し前に描かれたとされるのが、ここに掲載した『海棠目白図』です。この美しくてかわいい名画がいよいよ、東京・六本木の泉屋博古館分館で7月5日(火)~8月5日(金)に展示されます!!

作品画像をご覧いただくと、満開の海棠(カイドウ)とシデコブシが描かれています。そして、ディテールをよく見ると、海棠の枝の一部に何かがかたまって止まっているのが見えます。メジロがギュウギュウづめのこの様子こそまさに「目白押し」。若冲は、見事な構図と美しい彩色の中に、こんな遊び心をひそませていたのです。

余談ですが、メジロがこのような目白押しの状態になるのは比喩でもなんでもありません。最初に番(つがい)が枝にとまると、2羽の間にあとからあとからほかのメジロが割り込んできてギュウギュウになるのだとか。番の間を引き裂くような行動を普通にしているメジロって・・・・・・。

六本木・泉屋博古館分館で、伊藤若冲のメジロオシを鑑賞する絶好の機会

『海棠目白図』の持ち主は?

さて、この『海棠目白図』を所蔵していたのは住友家15代当主の住友春翠(しゅんすい)。日本三大財閥のひとつであり、その歴史はロスチャイルド家よりも古く400年以上にもなるといわれる住友家の当主で、明治から大正時代にかけて住友家の近代化を成し遂げた大人物です。
④住友春翠肖像写真(住友史料館蔵)住友春翠肖像写真(住友史料館蔵)

春翠は、京都の公家・徳大寺家の六男で住友家に入ってから吉左衞門友純(きちざえもんともいと)と名乗ります。実兄は明治時代後期に内閣総理大臣を務め、その後は元老として大正・昭和の政治に大きな影響を及ぼしたことで知られる西園寺公望(さいおんじきんもち)です。 巨大企業を率いるかたわら、春翠は公私にわたって文化活動に力を注ぎ、多彩な美術品を蒐集したことでも知られます。その春翠のコレクションを所蔵品のベースとしている泉屋博古館は、京都・鹿ケ谷に昭和45(1970)年に開館し、平成14(2002)年に東京・六本木に分館を開館。以後、京都と東京の2カ所で収蔵品やそれに関連する作品の展覧会を開催しています。

京都と東京で記念展が続く中、東京の泉屋博古館分館では住友春翠生誕150年記念特別展「バロン住友の美的生活 美の夢は終わらない。」の第2部「数寄者 住友春翠―和の美を愉しむ」が開催されています。その後期の7月5日(火)~8月5日(金)、春翠の本邸を飾ったという伊藤若冲の『海棠目白図』が登場するのです!

01.伝閻次平 「秋野牧牛図」伝閻次平(えんじへい)『秋野牧牛図』国宝・東山御物 南宋時代 ※前期6月4日(土)~7月3日(日)展示

02.伊藤若冲 「海棠目白図」

伊藤若冲『海棠目白図』江戸時代・18世紀 ※後期7月5日(火)~8月5日(金)展示

「バロン住友の美的生活―美の夢は終わらない。」
第2部「数寄者 住友春翠―和の美を愉しむ」のご紹介

「数寄者 住友春翠―和の美を愉しむ」は、大正4年に完成した大阪・天王寺茶臼山の本邸(現在の大阪市立美術館・慶沢園)を中心に、調度や美術品をはじめ、本邸で催された数々の名茶会や園遊会の様子を伝える展示がなされています。

412586da2a2dcb5fa9adda1348571897住友家天王寺茶臼山本邸の写真。左/大玄関 中/茶室・知足斎 右/外観は和風ながら室内は洋間の洋館。すべて住友史料館蔵

バロン住友と称された春翠は、50代を迎えた大正時代に、幼少期を過ごした徳大寺家のころに慣れ親しんだ日本の伝統美術に心惹かれるようになっていきます。そして、みずからの美意識にかなった茶道具を取り合わせ、歴史に残る名茶会をたびたび催した事が伝えられています。その舞台となったのが、大正4(1915)年に完成した大阪・天王寺茶臼山の本邸。現在は大阪市立美術館・慶沢園となっている建物です。

04.「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」切り分けられた幻の絵巻物『佐竹本三十六歌仙絵切 源信明(みなもとのさねあきら)』重要文化財 鎌倉時代 ※後期7月5日(火)~8月5日(金)展示

05.藤原定家「二首懐紙」高橋箒庵筆『大正茶道記』で紹介された名茶会に登場した、藤原定家『二首懐紙』 鎌倉・建仁2(1202)年 ※前期6月4日(土)~7月3日(日)展示

本邸は当時、春翠の美意識がすみずみまで行き届いていたといわれ、展覧会「数寄者 住友春翠―和の美を愉しむ」では、春翠が好んだ伝統的な〝和の美〟に基づいた名物茶道具や絵画のほか、今はなきその邸宅の様子が伝来資料より紹介されていて、華やかなりし時代の息吹を感じることができるのです。

06.「小井戸茶碗 銘六地蔵」 江戸時代の大茶人・小堀遠州命銘の茶碗『小井戸茶碗 銘 六地蔵』 朝鮮時代・16世紀

07.仁清 「白鶴香合」 春翠が愛した香合、野々村仁清『白鶴香合』 江戸時代

10.板谷波山「葆光彩磁珍果文花瓶」理想美を追求した近代陶磁の最高峰、板谷波山『葆光彩磁珍果文花瓶』 重要文化財 大正6(1917)年

春翠の美意識の粋を集めた本邸で、『海棠目白図』はどのような存在感を放っていたのか……。若冲の絵がいかに愛でられていたのかを知ることができる、決して見逃せない展覧会です。

六本木・泉屋博古館分館で、伊藤若冲のメジロオシを鑑賞する絶好の機会

左/木島櫻谷『柳桜図屛風』(部分)大正6(1917)年※前期6月4日(土)~7月3日(日)展示、右/木島櫻谷『菊花図屛風』(部分)大正6(1917)年※後期7月5日(火)~8月5日(金)展示

住友春翠生誕150年記念特別展「バロン住友の美的生活 美の夢は終わらない。」第2部「数寄者 住友春翠―和の美を愉しむ」(会期終了)

会期/2016年6月4日(土)~2016年8月5日(金)
開館時間/10時~17時(入館は16時30分まで)
入館料/800円(高大生600円、中学生以下無料)

泉屋博古館分館

東京都港区六本木1-5-1
公式サイト