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2020.08.02

初音ミクも応援! 300年の時を超えた尾形光琳〈冬木小袖〉修理プロジェクト

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トーハクに初音ミク降臨。しかも、江戸時代の人気絵師、尾形光琳が手掛けた小袖をアレンジした衣装を身にまとって。

通称〈冬木小袖(ふゆきこそで)〉として知られるきものは、300年の時を超えて伝えられてきた貴重な日本の文化財。その修理プロジェクトに現代のバーチャルアイドルもその名を「〈冬木小袖〉ミク」と変え、動き出した!

光琳直筆。江戸時代、おしゃれを競った商家女性のステータスアイテム

〈冬木小袖〉は、正式名称を「小袖 白綾地秋草模様(こそで しろあやじあきくさもよう)」といって、トーハクこと東京国立博物館が所蔵する重要文化財。白綾という絹地に菊や萩、桔梗(ききょう)、芒(すすき)など秋の草花を墨と藍の濃淡で描き、金泥や黄、淡い紅色でぼかしを入れたきものは華やか、かつクール。描くは琳派のスター絵師、尾形光琳。仕立てたきものの背面をひとつの画面に見立て、まさに屛風やふすまに絵を描くように直接、筆を入れたシロモノなのだ。

腰の余白は帯のあたる部分。着用したときも小袖の柄が最大限活きるようにしたレイアウトは、呉服屋生まれの光琳ならではのセンスだ。重要文化財 小袖 白綾地秋草模様(通称〈冬木小袖〉) 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 画像提供/文化財活用センター、東京国立博物館

尾形光琳といえば、ともに国宝の「燕子花図屛風(かきつばたずびょうぶ)」や「紅白梅図屛風」、トーハク所蔵の作品では、重要文化財「風神雷神図屛風」がよく知られる。万治元(1658)年、京都の高級呉服商の次男として生まれた彼はいわば、ぼん。放蕩三昧を続けた末に40歳になって一念発起し画業に取り組む。そして、あっという間に絵師の高位、法橋(ほっきょう)にまで上り詰めた。

大胆な構図、華麗な色彩が目を見張る琳派の絵師。なかでも圧倒的人気を誇るのが光琳だ。重要文化財「風神雷神図屛風」 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 画像提供/文化財活用センター、東京国立博物館 ※2020年8月10日(月・祝)まで本館7室にて展示

江戸時代、裕福な商家の女性たちのあいだでは、一流の絵師に描かせた小袖(=描絵小袖・かきえこそで)を着ることが流行したそう。「小袖 白綾地秋草模様」は、京都から江戸に出た光琳が最初に寄宿した深川の材木問屋、冬木家の夫人・ダンのために描いたものとされ、ゆえに〈冬木小袖〉と呼ばれる。秋草は江戸に下向していた時期の光琳が屛風などに好んで描いたモチーフ。いまと変わらず、人気&実力ともにトップクラスの彼が「特別に」腕をふるったオートクチュールで出かけた冬木夫人は、さぞ、鼻が高かったことだろう。ちなみに、現在の東京・江東区、かつて冬木家があった一帯は、いまも地名にその名を残し、往時の同家がいかに栄えた商家であったかがうかがえる。

修理まったなし! 展示された〈冬木小袖〉をよく見てみると……

〈冬木小袖〉は現在トーハクで開催中の特別展「きもの KIMONO」で2020年8月23日まで展示中だ。「今回の展示では特設のケースに展示しているので、とても近い距離でじっくりご覧いただけます」。そう話すのは、〈冬木小袖〉修理プロジェクトを進める文化財活用センター(ぶんかつ)の副センター長、小林 牧さん。いつもより近く、はっきり見てとれると思ったら、そういうことだったのですね!

遠目には美しく見える〈冬木小袖〉。ところが、近づいて目を凝らすと……たしかに、絹地は300年の年月を経て変色しているし、糸も全体的に断裂している。また、秋草模様の上には、白い並縫いの線がザクザクと。これは、トーハクが所蔵して以降に改めて仕立て直された際、補強のための裏地を縫い留めた白い糸が表地に見えているもの。せっかくの光琳の筆づかいが粗い縫い目によって見えづらく、正直なところ、痛々しい。

〈冬木小袖〉部分。布地を補強するための並縫いが負担となって、傷みが進行している。画像提供/文化財活用センター、東京国立博物館

「オリジナルの絹地と並縫いの糸の張りの強さが異なるので、それも絹地の傷みを進める原因になっています」(小林さん)。光琳は呉服屋の息子と書いたが、本来は絵師であり、きものに描絵をすること自体はほとんどなかっただろう。そのため、光琳直筆の描絵によるきものとして、きものの形で残っている〈冬木小袖〉は大変貴重。100年、200年先の未来に伝えていくためにも、今すぐの修理が急がれるのだ。

募金箱で、ウェブサイトで、グッズ購入で。気軽に文化財保存をサポート!

トーハクとぶんかつが20年1月にスタートさせた「〈冬木小袖〉修理プロジェクト」。通常の文化財修理や修復には、同館の予算の一部を充てることでまかなってきたが、このプロジェクトでは特に、一般参加型のファンドレイジング活動を軸に展開している。

寄附の方法はトーハク館内に設置された募金箱への投入がまずひとつ。〈冬木小袖〉修理プロジェクトのウェブサイトからも1口1000円から受け付ける。

本館1階11室(彫刻の部屋)脇の階段室に設置された募金コーナー。100円以上の募金をしたら、ブースに置かれた〈冬木小袖〉のオリジナル折り紙を持ち帰ることができる。また、本館1階のミュージアムショップには一筆箋、手ぬぐいなど〈冬木小袖〉モチーフのグッズの特別コーナーも。商品の売り上げの一部がプロジェクトに寄附される。

そして、より多くの人たちへと活動をアピールするために世界的な人気者、初音ミクに白羽の矢が立った。新たに誕生した「〈冬木小袖〉ミク」は、16歳という彼女の年齢に合わせて本来よりも袖の長い振り袖姿で、光琳水と呼ばれる流水紋の帯を締め、トーハクのシンボル的空間、本館の大階段前に立つ姿を披露。長い髪の毛と袖が呼応してなんとも艶やか! 「〈冬木小袖〉ミク」のコラボレーショングッズを購入すると、その売り上げの一部が修理プロジェクトに充てられるというわけだ。

コラボグッズの一例。左=掛け軸 55000円 右上=ビッグアクリルスタンド 10000円、右下=クリアファイル(A4) 550円(以上、すべて税込) グッズはトーハク館内のほか〈冬木小袖〉ミク オフィシャルECサイトでも購入が可能だ。

ディフォルメされて、かわいささらにアップ。ねんどろいど 6800円(税込)は7月30日(木)より予約開始(WEB限定)、2021年1月から一般販売予定

「ぶんかつでは文化財の活用を『より多くの人が文化財に親しみ、触れて楽しむことで心豊かな時間を過ごしてもらうこと』と考えています。修理プロジェクトを通じてその魅力を知っていただき、多くの文化財が修理を必要としていることに関心をもっていただけたらと思います」と小林さん。

寄附金の目標金額は1500万円。22年6月まで受け付ける。修理の過程は、随時報告していくとのこと。自分が投資したお金で文化財がよみがえるとなれば、作品をより身近に感じられるようになるハズ。修理後の公開は23年の春ごろの予定だ。楽しみに待ちたい。

東京国立博物館 特別展「きもの KIMONO」開催中

トーハクは1872年創立の日本でもっとも長い歴史をもつ博物館。収蔵する作品は約12万件。日本から中国、朝鮮半島、西アジア・エジプトまでの地域を網羅し、土器や土偶などの考古遺物から浮世絵や刀剣、甲冑、近代絵画など、日本美術史をたどることのできるコレクションを有する。8月23日(日)まで開催の特別展「きもの KIMONO」では、修理前最後となる〈冬木小袖〉を展示中。見逃さないで!
東京国立博物館公式サイト 
東京国立博物館 特別展「きもの KIMONO」公式サイト ※オンラインによる事前予約制 詳しくは入場方法・チケット購入ページをご確認ください。
会期:2020年6月30日(火)~8月23日(日)
※会期等は今後の諸事情により変更する場合があります。

文化財活用センター

2018年に国立文化財機構に設置された、文化財活用のための機関。「文化財を1000年先、2000年先の未来に伝えるために、すべての人びとが、考え、参加する社会をつくります」というビジョンを掲げ、「ひとりでも多くの人が文化財に親しむ機会をつくる」をミッションとして、さまざまな活動をしている。
公式サイト

〈冬木小袖〉修理プロジェクト

書いた人

日本美術や伝統芸能(特に沖縄の歌や祭り)、建築、デザイン、ライフスタイルホテルからブラック・ミュージックまで!? クロス・ジャンルで世の中を楽しむ取材を続ける。相棒は、オリンパスOM-D E-M5 Mark III。独学で三線を練習するも、道はケワシイ。島唄の名人と言われた、神=登川誠仁師と生前、お目にかかれたことが心の支え。