書を部屋の一角に飾る。小品ならリビングでも気軽
見なれた風景ががらりと変わる、それが部屋の一角でも装いをあらためるのは心弾む作業です。置物を変える、花を生ける、そんな気軽さで、インテリアとして書を飾ってみてはいかがでしょう。住まいが純日本家奥でなくとも大丈夫。現代の住空間に書の美はとてもよく似合います。-2014年和樂5月号より-
美しい『書』で彩られたアートな空間
現在私たちの住居は、その多くがマンションをはじめとする現代的な空間になっています。かつてどこの家にもあった軸を飾った床の間は消え、畳はフローリングにとって代わられました。と同時に書を部屋に飾って楽しむということも私たちの暮らしから遠く離れてしまいました。では、現代空間に書をあしらうことは無謀なのでしょうか?その答えが次の写真です。
フローリングの床にきれいに仕上げられた漆喰の壁。自然光がたっぷりと入る洗練されたモダンなリビングで、ひと際目を惹くのが水屋簞笥に置かれた小さな書。絵画や写真以上にこの空間を引き立ててくれている書は、書家・石川九楊さんの作品です。繊細な光を帯びた絹本の上で、流れるような動きを留めている墨の文字は、派手な彩りとは対極の、滋味深い味わいがあるようです。そしてそのことがかえって、部屋のモダンな雰囲気とマッチしながらも、空間の洗練度をあげるポイントとなっているのです。
もちろん和室にも
こちらの和室にしつらえられた書は、平安時代末期から鎌倉時代初期と目される「紺紙金字経」(こんしきんじきょう)の断簡(だんかん)です。
紺色の紙に金泥で書かれた般若心境は、和室のたたずまいに凛とした存在感を醸し出しています。こちらの書は東京銀座の古美術・祥雲(しょううん)で表装をしたものです。古いお経の書などはともするとクラッシックになりすぎるので、雲母(きら)引きの白い和紙でモダンに仕立てました。このように表装をオーダーして今の住まいに合うように仕上げるのも、書を現代的に楽しむひとつの手段でしょう。また、古い書を軸装ではなく額装にすれば、マンションのリビングにもぴったり。このように書は工夫次第で現代空間を彩る最高のインテリアとなるのです。
ー撮影/篠原宏明-