この純白の動植物たちが漆黒の闇に浮かび上がるような一連の絵は石摺(いしずり)と呼ばれる版画です。拓本と同じ形式でつくられたモノトーンの版画であることから、美術史家の相見香雨(あいみこうう)氏の命名によって「拓版画(たくはんが)」とも呼ばれています。
圧倒的なデザイン力に感服
この作品で何より驚くのは、その画面構成のモダンさではないでしょうか。ブラック&ホワイトのバランス、描かれたモチーフの配置の仕方など、構成の絶妙さは見るものを唸らせずにはおきません。その圧倒的なデザイン力にも伊藤若冲の作家としての懐の深さが窺い知れます。そしてさらには、若冲らしさが遺憾なく発揮された、愛らしくもユニークな動物や昆虫たちの姿。
まさに若冲しかつくりあげることができなかった「独特の世界」がここにはあるのです。この作品群がジャポニスム時代のフランスのデザインに影響を与えたことも納得できます。
「玄圃瑤華」1水葵、2糸瓜、3冬葵、4瓢簞、5蕪、6山萩 一帖(48図のうち6図)紙本拓版各28.2×17.8㎝ 江戸時代・明和5(1768)年 個人蔵 写真提供/京都国立博物館
ちなみに、この作品のタイトルは「玄圃瑤華(げんぽようか)」と言いますが、玄圃とは「崑崙山(こんろんさん)にある仙人の住む理想郷」であり、瑤華とは「玉のように美しい」という意味があります。
若冲は、売られていた雀が焼鳥にされるのが可哀想だと言って、すべてを買いとり庭に放してやったという逸話があるくらい、昆虫をはじめとする動植物を慈しみました。
この絵に描かれた世界は、若冲にとってのひとつの理想郷なのかもしれません。
伊藤若冲「玄圃瑤華」
拓版画は、絵柄を凹版に彫り、濡らした紙を押し付けて凹んだ部分以外に墨を塗って仕上げたもの。若冲はこの技法を使ったモノトーンの版画のほか、木版を取り入れた多色摺の花鳥版画も手がけた。
【水葵(みずあおい)】
【糸瓜】
【冬葵(ふゆあおい)】
【瓢箪】
【蕪(かぶ)】
【山萩】
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