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2021.04.17

ポップでカオス!マンガはアートだ!日本文化の申し子、タイガー立石の世界

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緑色の怪獣が自由の女神の被り物をしていたり、くらげのような火星人のような何かが地球を侵略していたり……。タイガー立石(1941〜98年、立石大河亞、立石紘一とも)が描いたものは美術作品なのか漫画なのか。千葉市美術館の「大・タイガー立石展」を訪れたつあおとまいこの二人は、荒唐無稽な作品の数々に、時を忘れて興じる時間を過ごしました。そして、いろいろな「日本」を発見したのです。

いろいろな日本? 気になるぞ〜。

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」なるユニットを結成。和樂webに乱入いたしました。

自由の女神の冠を被ったティラノサウルス?!

タイガー立石『アラモのスフィンクス』1966年、東京都現代美術館 展示風景

つあお:タイガー立石(以下、「タイガー」)の『アラモのスフィンクス』は、かなり強烈な絵ですね。

まいこ:真ん中の緑の怪獣がすごいインパクトを放ってます!

つあお:この怪獣、一体何なのだろう? 被り物してるし。

まいこ:被り物は、ひょっとして自由の女神がつけてるやつ? 手で何か握りつぶしてます。キングコングみたい!

つあお:キングコングって確か映画ではエンパイアステートビルによじ登ってませんでしたっけ? 怪獣の冠はとげの本数が適当だけど、自由の女神のものに似てますね。この怪獣はひょっとしたらニューヨーカーなのでは?

まいこ:そんな気が! でもタイガーさんが描いた怪獣は、ティラノサウルスっぽくも見えますね。

つあお:確かに。体全体と比べて手が異様に小さいし。ティラノサウルスって今でも大人気の恐竜ですが、たわくしの子ども時代から、肉食の極悪恐竜として日本の子どもたちにけっこうな人気があったんですよ!

まいこ:つあおさんにもそんな子ども時代があったんですね(笑)。

つあお:だから、この絵は見るのが楽しくて楽しくて。作品名にある「スフィンクス」はこの怪獣のことなんでしょうね。

まいこ:虎がたくさん空を飛んでるのも面白い! 周りを見回すとピラミッドがあったりサボテンが生えてたり、荒唐無稽な風景ですね。

つあお:そもそも絵のタイトルにある「アラモ」はアメリカとメキシコの間の戦いの舞台になった砦の名前だし、「スフィンクス」はエジプトのものだし。虎ってアメリカにもエジプトにもいないんじゃないですかね? もはや国籍不明!?

まいこ:やっぱり荒唐無稽!

つあお:やっぱり楽しい! アラモ砦の城壁から透明のピラミッドができていて、頂点に星条旗が立っているのは、ちょっと近未来的! タイガーの頭の中はいったいどうなっていたんだろう?

まいこ:こんな場面を描いた映画、見てみたいですね。

つあお:『アラモ』自体は、1960年製作の米映画なんですよね。

まいこ:そうなんですか!

『アラモ』(1960年製作米映画):アメリカ西部開拓史上に有名なアラモ砦の攻防戦を描いたアクション・ドラマ。「流れ者の復讐」のジェームズ・エドワード・グラントのオリジナル・シナリオを「騎兵隊」に出演したジョン・ウェインが自ら製作した第1回監督作品で、ジョン・フォードが監修している。
原題:The Alamo
配給:日本ユナイテッド・アーチスツ
(引用元:映画.com)

つあお:たわくし(=「私」を意味するつあお語)は、ブラザース・フォーというグループが歌っていた映画音楽『はるかなるアラモ』が収録されたLPレコードを母が持っていてよく家でかかっていたので、今でも頭の中で再生できますよ。いい歌だったなぁ……シミジミ。

まいこ:さすが! 音楽通のつあおさん! お話を聞いていると、第二次世界大戦後、アメリカンな文化がどんどん流入していた「昭和」っていう感じがします!

つあお:映画では、砂漠の中にアラモ砦というのがあって、そこを舞台にした物語だったと記憶しています。なのにピラミッドやスフィンクスが登場しているのは、きっと砂漠つながりなんだろうなあ。

まいこ:なっとく~!タイガーさんの脳の中は時空を超えている!

つあお:あな楽し!

まいこ:タイガーさんは履歴ではイタリアで勉強したとのことでしたので、西部劇といってもマカロニウエスタンかと思いきや、舞台は本家のテキサスだったんですね!

つあお:とはいっても、西部劇に虎は出てこないと思うんですけど、なんで2匹も3匹もいるんでしょうね?

まいこ:最初とっても不思議に思ったんですけど、どうやら作家さんが寅年生まれなのだとか。タイガーさんに強く惹かれたのは、実は寅年同士だからかも(笑)。

つあお:えっ?! そんな理由?? 作家自身がアラモ砦の中に突然登場して戦ったっていう設定になるのかな?

まいこ:そんな感じがします。この巨大なアメリカン怪獣を相手に一人で戦うのは大変なので、きっと分身の術を使ってるんですよ!

つあお:なるほど! ついでだから、寅年生まれのまいこさんも絵の中で戦っちゃえ!

まいこ:望むところですね! 今日はタイガー立石の展覧会ということで、虎柄のワンピースで来たので、準備万端です!

まいこは大抵、展覧会をイメージした装いで会場にやってくる。
まいこさんのファッション、イカしてる!

つあお:お見それしました。よく見ると虎柄! 青地はタイガーの色づかいとリンクしているかも! それにしても、タイガーってすごく破天荒。こっちの火星人みたいな怪物が街を壊している絵もすごいですよ!

クラゲ型の宇宙人が地球を侵略

タイガー立石『Green Monster』1976〜77年、田川市美術館 展示風景

まいこ:このアメリカン・ポップとヨーロピアン・ポップがごっちゃになったような画面にまず惹きつけられます。パッと頭に浮かんだのはティム・バートン監督のSFコメディ映画『マーズ・アタック!』です。

つあお:ほぉ。この火星人らしき何者かは、たしかになんだかすごく変ですね。何となくパロディっぽい。

まいこ:タコのようでもあり、クラゲのようでもあり、しかも緑の体に赤い目、変すぎます(笑)。

つあお:クラゲかぁ! 火星人の襲来といえば、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』。そこで描かれた火星人はタコのイメージだったけど、むしろタイガーの火星人はクラゲに近いような気がしてきましたよ! クラゲが宙をふわふわ浮いてるのも結構自然だし。

まいこ:私が『マーズ・アタック!』と重ね合わせたのは、この触手がすべての家庭に侵入して、中に住んでる人や犬をことごとく吸い取っていくところなんですよ。

つあお:へぇ。たわくしはその映画見てないけど、そんな場面が出てくるんですね。タイガーがこの油絵を描いたのは1976年頃です。

まいこ:そのような場面があるわけではないのですが、火星人が市民生活に入り込んで、ことごとく皆殺しにしていく空気感が似ているのです!

つあお:そうなんだ!

まいこ:『マーズ・アタック!』は1996年の映画ですが、原案は1962年にアメリカのトップス社から発売されたトレーディングカード「マーズ・アタック」なんですよね。だから、昭和の雰囲気を嗅ぎ取ることができるんです。

『マーズ・アタック!』(1996年製作米映画):火星人来襲! 友好的に出迎えた地球人を相手に、火星人の大虐殺が始まった。「バットマン」「シザーハンズ」のティム・バートンによるSFコメディ。二役務めるジャック・ニコルソンほか、グレン・クローズ アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン、マイケル・J・フォックス、ナタリー・ポートマン、トム・ジョーンズなど豪華キャストが出演。
原題:Mars Attacks!
配給:ワーナー・ブラザース映画
(引用元:映画.com)

つあお:1960年代の日本は、アメリカの文化をこれでもかというくらい追いかけていた時代ですね。しかも、トレーディングカードが元とは! そもそもタイガーは漫画とかパロディの世界に生きていた。そう考えると、けっこう昭和な日本の感じなんです。

まいこ:というと?

つあお:赤塚不二夫とか谷岡ヤスジとか、昭和の漫画の世界ってギャグとパロディの宝庫だったんですよ。アメリカの怖い火星人だって、ヘンテコな笑いの対象にしちゃうっていう感じです。

まいこ:えっ?! タイガーさんって、美術家だったんじゃないんですか?

つあお:この作品、油彩画なんだけど、漫画みたいにコマ割りして描かれてますよね。

まいこ:漫画!!

つあお:日本の漫画は絵巻物をルーツに持つ、実は奥深い文化。『鳥獣戯画』なんかも漫画っぽいですよね、美術品として国宝になっているのに。

まいこ:そうですね。『鳥獣戯画』って漫画っぽい!

今話題の!

つあお:戦後の日本は漫画がどんどん広まっていく。タイガーは、まさにそんな流れの中にいる美術家って感じです。そもそも『鳥獣戯画』だってウサギとカエルが相撲してるんだから、クラゲが街を破壊しても何の不思議もありません。

まいこ:そうですねー! さらっと自然にやってのけてる感じがあります、

つあお:ハハハ。さすがこれを「自然」と感じるのは、まいこさんの素晴らしい感性だと思うなぁ。

まいこ:台詞が全然ないのに、すごく臨場感あるストーリーが迫ってくるし!

つあお:それも『鳥獣戯画』ゆずり。こうした破天荒な感じは、明治時代をテーマにして描いた7m幅の大作『明治青雲高雲』にも存分に表れているようです。

明治を描いた大作のど真ん中にあの『鮭』が!

タイガー立石『明治青雲高雲』1990年、田川市美術館 展示風景

まいこ:こっちはいろんなものをこれでもかというくらい詰め込んで描いてる。偉人の姿もあれば、日用品なんかもある。

つあお:西郷隆盛とか明治維新直前に暗殺された坂本龍馬とか猫と向き合った夏目漱石とか……。けっこうひと目で分かる人物が多いのは、見てて楽しいなぁ。

タイガー立石『明治青雲高雲』より

まいこ:似顔絵がいっぱい!

つあお:タイガーって、普通に雑誌に載せるための漫画も描いてるんです。

まいこ:この展覧会に漫画の原画のコーナー、ありましたね!

つあお:美術作品を描くのと漫画を描くのがシームレスなんですね。タイガーは、メインカルチャーとサブカルチャーが錯綜する日本文化の申し子みたいだなとも思っちゃいます。

まいこ:そう言われて改めて『明治青雲高雲』を見ると、仕切りのない漫画みたいですね。巨大な一コマ漫画にも見える!

つあお:逆に美術家だなぁと思わせるのは、高橋由一の『鮭』とか青木繁の『海の幸』のような歴史的な絵画がコラージュのように描きこまれているところです。

まいこ:『鮭』は、ど真ん中にありますね!

タイガー立石『明治青雲高雲』より

つあお:タイガーにとっては、明治を象徴する絵だったんでしょうね。

まいこ:左のほうに小さめに描かれた、向き合った裸婦の絵が気になります。

タイガー立石『明治青雲高雲』より

つあお:おお、問題作なんですよ、これ。

まいこ:というと?

つあお:明治時代の西洋絵画技術導入の立役者だった黒田清輝が描いた『朝妝(ちょうしょう)』という絵で、当時の裸体画論争のきっかけになった作品なんです。向き合っている正面のほうの裸婦は、鏡に映った姿です。

まいこ:なるほど!

つあお:あからさまにヌードを描くのが社会問題になり、その後黒田が描いた裸婦の絵は、下半身に腰布をかけられたりもしたんです。

まいこ:へぇへぇへぇ。最近もそんな事件ありましたね? 愛知県の美術館で鷹野隆大さんの写真作品の一部に警察が布をかけたとか。

つあお:愛知では、布で隠されたのは、裸婦ではなくて裸男の下半身部分でしたね。

まいこ:今や、裸婦や裸男の画像なんて、食パンと同じくらいよく目にする時代と思っていたけど、セクシュアルな表現に関しては、日本って明治時代と変わっていないのかな~。

つあお:タイガーって日本をすごくよく観察する人だったんだなと思います。

まいこ:私が気になったのは、明治の風景として「すき焼き」が描かれていることです。

つあお:さすが、グルメの女王、まいこさん!

まいこ:いえいえ! 単に食い意地が張っているだけです(笑)。甘党のつあおさんにはかないません。

つあお:(反論できず)ハハハ。

タイガー立石『大正伍萬浪漫』1990年、田川市美術館 展示風景

タイガー立石『昭和素敵大敵』1990年、田川市美術館 展示風景

まいこ:『大正伍萬浪漫』や『昭和素敵大敵』も面白いですよね。

つあお:『明治青雲高雲』と合わせて3部作の体をなしている。タイトルに駄洒落をかませているのが素敵です。

まいこ:「韻を踏んでいる」と言ってください(笑)。

つあお:『大正伍萬浪漫』には竹久夢二の美少女や岸田劉生の麗子像なんかが、『昭和素敵大敵』には三島由紀夫とか東郷平八郎とか淀川長治とか3億円事件の犯人とか鉄腕アトムとか新幹線とか……。すごいコラージュだ!

まいこ:戦艦や軍人の姿も。パイプをくわえているのはマッカーサーかな? 戦争についてはかなり客観的に俯瞰している感じもします。

つあお:日本をかなりシニカルに眺めていたんでしょう。

まいこの一言/この展覧会、昭和生まれ&平成生まれのデート向きかも!

色がポップで、作家が滞在したイタリアなど海外のお洒落さも満載なのだけど、やはり昭和の香りぷんぷんなのが魅力。こうなったら、昭和の日本文化にどっぷり浸かった昭和生まれと実際にはそれを経験していない平成生まれでデートしたら結構盛り上がるかも♪

TikTokなんかでは、まさに今昭和ブームです!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『ニャイガー立石』
この絵を描いてつあおが気づいたのは、タイガー立石が『明治青雲高雲』で夏目漱石の横に描いた猫が虎模様だったことです。

おふたりの記事には高確率で猫の話題が入ってきて、猫好きとしてはきゅんきゅんします。

展覧会基本情報

展覧会名:大・タイガー立石展
会場、会期:
◎千葉市美術館、2021年4月10日〜7月4日
◎青森県立美術館、2021年7月20日〜9月5日
◎高松市美術館、9月18日〜11月3日
◎埼玉県立近代美術館/うわら美術館、2021年11月16日〜2022年1月16日
公式ウェブサイト(千葉市美術館):https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/21-04-10-07-04/

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。