「浮世絵って何?」というビギナーさんも楽しめる、大阪の新しい観光スポットが2019年7月に誕生しました。今回は、関西ではまだ数少ない、浮世絵を常設する美術館「大阪浮世絵美術館」の取材レポートをお届けします。
浮世絵との出合いは、お茶漬けのおまけカード
みなさんの思い浮かべる浮世絵はどんなものでしょうか? 私の浮世絵との出合いは、永谷園の「お茶漬け海苔」に入っていた浮世絵カードです。浮世絵が何かも理解できない年齢でしたが、細かく色々な景色や人が描かれていて面白いなと思ったのを覚えています。
永谷園では50年程前までは、人手をかけて生産の過程を行っていました。商品の確認印の検印紙の代わりにこのカードを入れたのが始まりだとか。昭和40年から平成9年までの約30年の期間、「東海道五拾三次」や「富嶽三十六景」など代表的な浮世絵や、海外の名画をカードとして展開していました。時代の流れで休止されていましたが、日本文化への注目が高まっていることもあり、3年前にカード封入が約20年振りに復活。懐かしいと喜ぶ人が多いようです。
雨天もOK!アクセスに便利な浮世絵美術館
さて今回ご紹介する浮世絵美術館は、大阪・心斎橋にオープンしました。大阪を代表する繁華街・心斎橋は、道頓堀川にかかる戎橋や、その向こうに見える大きなグリコの看板にほど近い場所です。昔ながらの商店や若者に人気のファッションの店などがあり、連日多くの人で賑わいます。
大阪メトロ心斎橋駅から徒歩約5分。アーケードの中なので、雨でも濡れる心配がありません。海外からの観光客で賑わっている場所なので、人混みに押されて通り過ぎてしまわないようにご注意。1階がドラッグストアのビルの3階に美術館がありますが、上を見上げると看板があるので、これを目印にしてください。階段を上がると大阪浮世絵美術館に到着します。
エレベーターはないので、ご注意を。
歌川広重「東海道五拾三次」全作品、一挙公開!
浮世絵コレクターであるオーナーが、京都浮世絵美術館に続き、姉妹館として創設したのがこちらの美術館。オープン記念として11月22日まで歌川広重の「東海道五拾三次」全作品を、一挙公開しています。
広報担当の峠裕美子さんは、「全作品が一度に見られるのは、珍しいと思います。『何回かに分けて展示すると旅行で立ち寄られた方などが、全て見られなくて気の毒』とのオーナーの考えからなんです。1人でも多くの人に間近でじっくり見てもらって、この素晴らしさを知ってもらいたいですね」と語ります。峠さんは、この仕事の担当になってから浮世絵と深く接するようになり、技術の高さに驚いたそうです。
おまけじゃない本物の「日本橋」と対面
あっ。これ! この浮世絵、お茶漬け海苔のおまけのカードで見たことがあります!
歌川広重 「東海道五拾三次 日本橋・朝之景」 大阪浮世絵美術館所蔵
おまけのカードのサイズは、名刺を少し大きくしたぐらい。実物はもっと大きいのかと思ったら、予想していたよりは小さく感じました。多分、浮世絵を大きくプリントしたポスターなどを見慣れているせいかもしれません。「意外と小さいですねと言われる方、多いんですよ」と、峠さん。「東海道五拾三次」は、風景画の広重と世間に知らしめることとなった傑作です。江戸日本橋を起点にして、終点が京都三条大橋を結ぶ東海道は、53の宿場があり庶民の間で旅行ブームが沸き起こっていました。風景画の浮世絵は、江戸時代のガイドブック的な役割も果たしていたようです。旅の始まりの図となる、参勤交代の大名行列の様子と、行商へ出かける魚売りが描かれたこの浮世絵を目にした人は多いのではないでしょうか。
実はもう一枚あった? 日本橋
「東海道五拾三次」の起点となる日本橋の図は、上のほかに実はもう一枚あるんです。
歌川広重 「東海道五拾三次 日本橋・行列振出」 大阪浮世絵美術館所蔵
「この東海道五拾三次は長く売れ続けたようで、人数を増やして賑やかにしたこの図も、後から加えられたようです」と、峠さんは語ります。2枚並べて展示しているので、見比べて楽しむことができます。この図も入れると、全56図が一同に並べられた様子は、圧巻です。順に見ていくと、当時にタイムスリップしてまるで旅をしているような気分が味わえます。
浮世絵版画はチームプレーの賜物
浮世絵版画は絵師が下絵を描き、それを元にして彫師が版木を彫り、摺師が絵の具をつけて紙に擦る。この分業制の工程で仕上がります。絵師だけが注目されがちですが、絵師、彫師、摺師の技術が結集しなければ、傑作にはなりません。「馬の毛の細さとか、あまりの細かさに実際に彫っているのかと信じられない気持になりますね」と峠さん。「作品の仕上がりを左右するのは摺師の技術が大きい」とも。1枚の浮世絵版画を作るには色ごとに版木を変え、摺師は全て同じ位置にくるように注意して擦り、浮世絵版画を完成させていきます。版木に絵具をつけずに強く擦る「空摺り」で凹凸を出し、紙の白色を生かした表現も生み出していました。「東海道五拾三次」でもその技を使っている浮世絵があり、近付いて見るとよくわかります。美術館では制作工程がわかるようにと、順に色が増えて仕上がっていく浮世絵版画の様子も展示しています。
今まで見たことがない人にこそ、生の浮世絵に触れて欲しい
こちらは、「東海道五拾三次 庄野・白雨」。黒雲たれこめる夏の夕暮れに、悪天候の中、道中を急ぐ人々の様子がリアルに伝わってきます。
歌川広重 「東海道五拾三次 庄野・白雨」 大阪浮世絵美術館所蔵
「庄野・白雨」の「白雨(はくう)」とは白く見える雨、夕立のこと。漫画でもよく見かける、雨を斜線で表す表現は、当時としては画期的だったようです。作品一つ一つに、わかりやすい情報を書いたキャプションが添えられています。「初めて浮世絵と接する人にも楽しんで頂きたいですね。間近で見れば、技術の高さや繊細さに驚いたり感動したりできると思います。便利な場所なので、買い物のついでにでも、気楽に立ち寄ってもらいたいですね」と峠さんは語ります。
北斎の記念碑的な浮世絵を、じっくり鑑賞できる醍醐味
大阪浮世絵美術館では、北斎の代表的な作品である「富嶽三十六景凱風快晴」を、常設展示しています。
葛飾北斎 「富嶽三十六景 凱風快晴」 大阪浮世絵美術館所蔵
北斎が富士の晩夏の現象を選んで描いたと言われていて、赤い朝焼けの光が富士を赤く照らす荘厳な光景は、年に一度見られたら良いと言われる特別なものです。この作品が常設展示なのには、オーナーの思いがあります。美術館を開く前に、数々の美術館を巡っていた頃、お目当ての作品を見ようと思ったら、外部へ貸し出されていて残念な思いをしたからだそうです。大阪で開催された大規模な巡回展では、この作品の周囲が黒山の人だかりで、じっくり見られなかった人も多いと聞きます。ここへ来れば、いつでも北斎の赤富士と出合えると思うと贅沢ですね。
おみやげグッズも充実!
大阪浮世絵美術館ではおみやげの商品が充実しています。オーストリア応用美術博物館やボストン美術館も所蔵する浮世絵を買うことができます。復刻版の浮世絵もあり、自宅でも眺めたい人には嬉しいですね。
これは楽しい!北斎漫画の塗り絵ポストカードです。北斎漫画は、北斎が「気の向くままに漫然と描いた画」と言ったそうですが、海外では「ホクサイスケッチ」と呼ばれて人気があります。コミカルな浮世絵を塗り絵で楽しんで、暑中見舞いで出すのもいいですね。
北斎の絵柄が入ったクッキーもあります!有名な「富嶽三拾六景神奈川沖浪裏」がパッケージデザインになっています。旅のおみやげに良さそうです。
浮世絵と大阪観光で二倍楽しめるお得感
大阪浮世絵美術館周辺は、大阪のコナモン文化、たこ焼きやお好み焼きの店が充実しています。派手なネオン街の大阪らしい賑やかさとコテコテの魅力も楽しめる場所です。浮世絵を鑑賞した後は是非、くいだおれ人形を見ながら食文化も楽しんでください。
大阪浮世絵美術館基本情報
大阪浮世絵美術館
住所:大阪市中央区心斎橋2-2-23不二家心斎橋ビル3F
開館時間:10時~19時半(最終入場19時)
休館日: 元旦
観覧料:大人1000円 学生600円(要学生証提示) 小学生300円
※状況により、美術館は休館となる場合があります。最新情報は美術館のHPをご確認ください。
公式ホームページ