毎年、美術ファン、歴史ファンに大大大人気の正倉院展。その今年の展示内容が、2018年8月21日、東京都内で記者発表されました。今年は記念すべき第70回の正倉院展、しかも平成最後の正倉院展ということもあり、例年以上に注目の展覧会となりそうです。
一度出陳されると10年以上みられない
そもそも正倉院の宝物が一般の目に触れるようになったのは、明治8年に行われた奈良博覧会に際して公開されたのがそのルーツだそうです。その後、一般公開されない時期が長く続きましたが、昭和21年、戦争の惨禍に打ちひしがれた国民の心を癒すことも目的として、正倉院宝物が公開されました。
昭和21年、第1回正倉院展示のチケットと目録。終戦直後にもかかわらず14万人以上の入館者があったという
宝物の公開は翌22年にも開催され、以後正倉院展として定着していったのです。今でも正倉院展は毎年大変な人出でにぎわいますが、この第1回の正倉院展には14万7千人もの来場者があったといいます。まだ食べるものすら十分でなかった終戦直後、いかに正倉院宝物の美しさ、素晴らしさが日本人の心に勇気を与えてくれたかが偲ばれます。
以来、数回の東京での展示を除いて、69回にわたって奈良で正倉院展が開催され続けてきました。
「玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくのはこ)」玳瑁を貼った地に螺鈿を華やかに施した献物箱。素晴らしい工芸技術、貴重で珍しい素材をふんだんに使用した豪華な宝物。今回の正倉院展のポスターにも使用された、注目の出陳宝物。
正倉院展は、膨大な量の宝物の中から毎年数十点のみが選ばれて展示されます。一度出陳された宝物は最低10年は出陳されることはありません。ですから毎年毎年、全く違う出陳ラインナップとなりますし、「もう一度みたい」と思っても、次にいつ拝見できるか誰にもわからないのです。
ですから、絶対見逃せない! そんな貴重な展覧会です。
超絶に美しい工芸技術に感動!
今年の正倉院展では初出陳10件を含む、計56件の宝物が展示されます。
「平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)」聖武天皇御遺愛の鏡。写真は鏡の背面で、螺鈿を施されたその装飾の華やかさ、美しさは筆舌に尽くしがたい。写真ではわかりにくいけれど、地の部分にタイルのように散りばめられたトルコ石の美しさは、会場で是非じっくり観賞したいもの。
注目は、「平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)」「繍線鞋(ぬいのせんがい)」「玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくのはこ)」「沈香木画箱(じんこうもくがのはこ)」「磁鼓(じこ)」などなど。いずれもその工芸技術の素晴らしさ、美しさは夢みるようです。
「繍線鞋(ぬいのせんがい)」絹、麻、紙などでつくられた女性用の履き物。素材から、室内履きだったのではないかと推定される。爪先の刺繍飾りを見逃さなきように!
「正倉院の宝物は、その美しさもさることながら、そこに文化の伝播のありさまがみてとれるところが素晴らしい。それを是非感じていただきたい」主催の奈良国立博物館松本伸之館長はそのようなご趣旨のご挨拶をされました。
第70回正倉院展の記者発表会冒頭、ご挨拶をされた奈良国立博物館の松本伸之館長
正倉院展はまた、正倉院宝物についての研究発表の機会でもあるそうです。今回は平成25年から27年まで3年かけて宮内庁正倉院事務所が行なった、宝物の中の麻製品についての調査の成果もみどころです。
今年の正倉院展は、10月27日土曜日から11月12日月曜日まで、会期中無休。前売り券の販売は9月12日水曜日から10月26日金曜日まで。閉館の1時間30分前以降に使用できるお得な当日券=オータムレイトチケット(一般では当日券の300円引き)もあるとか。
いずれにせよ、大変な人出が予測されますので、早めに計画を立てて訪れたい、珠玉の展覧会です。
文/橋本記一
第70回 正倉院展
会場 奈良国立博物館 東新館・西新館
会期 2018年10月27日~11月12日
公式サイト