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2019.08.20

北斎の浮世絵・赤富士ができるまで。日本の文化と技術力を再現で徹底解説

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「赤富士」の版は、たったの4面!

では続いて、「赤富士」の版画を摺る行程を見ていきましょう。まずは下のGIF動画をご覧ください。

北斎「凱風快晴」

浮世絵版画では、最初に輪郭線の版を摺り、そのあと、その線からずれないように、順に色の部分を摺っていきます。「赤富士」の場合、摺りの工程は7段階。

① 輪郭線を摺る。
② 山肌の赤を摺る。
③ 山頂の黒いグラデーションを摺る。
④ 山裾の緑のグラデーションを摺る。
⑤ 背景のうすい青のグラデーションを摺る。
⑥ 空の青を摺る。
⑦ 画面上部の藍のグラデーションを摺る。

スローモーションでもう一度。

では、この7工程、どんな版を使用して摺っているかと言うと図の通り。(実際の版木は、図柄が左右反転した状態になっています。)

「凱風快晴」の版木
「凱風快晴」の版構成。

実は「赤富士」は、たった4面の版で出来上がるんです!

「7回摺ってるのに、版は4面ってどういうこと?」と思われる方もいらっしゃることと思います。たとえば、山肌の赤(②)、山頂の黒(③)、山裾の緑(④)、と三色展開している山の部分は、ぜんぶ同じ版木で摺っているんです。

「凱風快晴」の版木
「赤富士」の山の部分に使用されている3色は、すべて同じ版木を使用!

材料費も人件費も最小限に抑えた「赤富士」

江戸時代、浮世絵版画は何百枚、ものによっては何千枚と摺りました。そのため、版木は耐久性に優れた山桜の板が使用されました。山桜の板は高価であるため、摩耗して使用できなくなった版木は、表面をかんなで削ってふたたび別の作品の版木にリサイクルしました。

一枚の浮世絵をつくるのに、使用する版木が多ければ、版木を制作する段階で、材料費も彫師の人件費もかさんでしまいます。そのため、江戸時代の浮世絵は、基本的に板5枚(両面使用で10面)以内で、作品が出来上がるように構成されていました。

その制約の中で、浮世絵師と版元はいかに人々の心をつかむ作品を生み出すか苦心したわけですが、北斎は、たった4面という最小限の版で、この世紀の名画を生み出したのです。

書いた人

東京都出身、亥年のおうし座。絵の描けない芸大卒。浮世絵の版元、日本料理屋、骨董商、ゴールデン街のバー、美術館、ウェブマガジン編集部、ギャラリーカフェ……と職を転々としながら、性別まで転換しちゃった浮世の根無し草。米も麦も液体で摂る派。好きな言葉は「士魂商才」「酔生夢死」。結構ひきずる一途な両刀。