まずは最優先でチェックしたいセザンヌの優品!
本展は、まず地下1Fの入り口を入ると出迎えてくれるのが「近代絵画の父」と呼ばれたセザンヌの優品です。風景画、静物画、人物画などセザンヌが得意とした分野の作品がすべて含まれているのですが、どれも非常にハイレベルな作品揃い。国内で観られるどのセザンヌ作品よりも優れていると感じました。
なぜ傑作揃いと言えるのか?
それは、本展に出品されている作品からは、セザンヌの個性を明確に感じられるからなのです。セザンヌは、モネやピサロといった印象派のメンバーに大きく影響を受けながら、印象派を超える独自の絵画技法を独力で発展させていきました。それは彼の「筆触」や「構図」の妙に現れているのですが、それこそが我々鑑賞者がセザンヌ作品を楽しむ最大のポイントになっているのです。
セザンヌ作品は印象派と比べて何が違うのか?新しく獲得した技法により、どのような効果・主張が表されているのか?それが、コートールド美術館が所蔵する作品からは非常に明確に感じられました。
セザンヌの作品は、近づいてみてみると色々な面白さが発見できます。たとえば、一番特徴的なのはその独特な筆さばきです。短い筆致で色合いを微妙に変化させながら同じ方向に並行してリズミカルに筆を置いていく「構築的筆致」という手法はセザンヌならではの特徴です。
近づいてみてみると、たしかにセザンヌは短いストロークで筆を平行して一方向に反復していますよね。これをアート鑑賞の達人、「青い日記帳」のTakさんは著書『いちばんやさしい美術鑑賞』の中で「サクサクと音が聞こえるようだ」と表現していますが、たしかにサクサクっとしています!
さらに、セザンヌは、光と色の中にモノの形が解けていってしまう印象派の「弱点」を乗り越えるため、見えたものを頭の中で一旦バラバラにして、「面取り」という手法で、幾何学的な形の集合として再構築して表現しました。これにより、描かれた物体のしっかりした質感が表現されるとともに、陰影や透視図法に頼らない新たな遠近表現が確保されたのです。
実は、セザンヌが理想とした絵画への制作姿勢を端的に表した直筆の超一級資料があります。それが、「自然を円筒・球・円錐によって扱いなさい」というアドバイスを後輩の画家・ベルナールに宛てた書簡です。セザンヌが目指した新しい絵画のあり方を端的に表した名言として非常に有名な資料なのですが、本展にはなんとその手紙の原本が登場。まさに美術史の流れを決定づけたとも言える歴史的な資料。これはぜひ見ておいてくださいね!
さらに、セザンヌは見えたものを頭の中で再構築する際に、ひとつのモチーフを様々な視点から見た「多視点」で描くことにより、物体に立体感をもたせる工夫も行いました。これを応用発展させて不思議な絵画空間を作ったのが本点です。
複数の視点から見た静物を同じ空間に置いてみたり、構図バランスを優先するために人物の手足の長さを意図的に変えてみたり・・・。あるいは、風景画においては景物のかたちを幾何学的に単純化しながら、筆のストロークに統一感をもたせて筆触にリズム感をもたせてみたり。
本展で見られる10点のセザンヌ作品は、そういったセザンヌが試みた数々の技法が非常にわかりやすく捉えることができるだけでなく、作品としても美しくまとまっているのが特徴なのです。特に、彼が繰り返し描いた生まれ故郷の名山サント=ヴィクトワール山を描いた風景画は本当に美しい。遠く離れて全体的な印象を楽しむのも良いし、思い切り近づいてセザンヌの「筆」のストロークの面白さを実感してみるのも良いでしょう!