住友財閥の形成を導いた住友家15代当主の住友春翠(しゅんすい)が別荘として求めた東山・鹿ヶ谷(ししがだに)の穏やかな山容を望む、泉屋博古館(せんおくはっこかん)。春翠が明治中ごろから大正にかけて蒐集(しゅうしゅう)した美術品“住友コレクション”を鑑賞できる、趣あふれる美術館の魅力をご紹介します。
泉屋博古館とは
古銅器、書画、茶道具、能面も!住友家の美術品を保存、展示する美術館
住友家が蒐集した中国古銅器の保存と、考古学研究者への研究協力を主な目的として昭和35(1960)年に設立された財団法人が、以後も住友家の美術品の寄贈により規模を拡大。昭和45(1970)年に展示室が完成し、平成14(2002)年に東京・六本木に泉屋博古館 分館が開館しました。
「泉屋博古館」の名前は江戸時代の住友の屋号「泉屋」と、900年前に中国で皇帝の命によって編纂(へんさん)された青銅器図録「博古図録」からとられていて、住友家収蔵の青銅器類を展示する施設であるという意味がこめられています。なお、美術館の入り口には、春翠の実の兄であり、首相をつとめた西園寺公望の筆による「泉屋博古」の題字が掲げられています。
泉屋博古館の所蔵品は、世界に誇る中国青銅器コレクション約600点の他にも、中国・日本の書画約650点、茶道具約800点、能面・能装束約250点、洋画約150点、など、多岐にわたります。
館内の様子 2018年春季展より
世界屈指の古銅器コレクション
コレクションの中心となるのは、中国古銅器と鏡鑑(きょうかん)で、中国以外では最も充実したコレクションとして知られています。紀元前17世紀から紀元前3世紀に制作された青銅器は、宗教的な儀礼用として、また、器の所有者の地位や権威を象徴的に示す役割を果たしていました。展示されている青銅器を見ると、複雑な形の種類の豊かさや精緻な模様などから、当時の鋳造技術の高さをうかがい知ることができます。
虎卣(こゆう)とは酒を持ち運ぶ容器です。全体が虎の形をしていること、蓋付の壺に大きな釣手がついた器であることを示す卣という形からその名がつけられました。頭部の下は人間が虎につかまっているような造形で、虎が人間を抱いているように見えることから、子育てをする虎という「乳虎卣」と呼ばれていたそうです。
若冲の『海棠目白図』がある!
泉屋博古館の所蔵作品をもうひとつご紹介します。海棠(かいどう)の木に、ちょっと窮屈そうに小鳥たちが並んでいます。これはメジロが枝に連なった、「目白押し」を表現したもの。今にも現在ではたくさんの人で混み合っている状態を表す慣用句は、このようなメジロの様子からきています。メジロの可愛らしいさえずりが今にも聞こえそうですね。
縦139.0cm、横78.9cmという大画面に、こんなに愛らしい絵を描いた絵師こそ、鶏をはじめとした花鳥画や水墨画などで才能を開花させた、伊藤若冲です。若冲の彩色画の特徴は画面のすみずみまで神経が行き届いていること。この絵では、メジロ以外にも、画面上部の海堂(かいどう)の花と、下部のシデコブシの花が咲き競っているところが見ものです。
海堂目白図(全図)
▼伊藤若冲の作品が気になる方はこちらで代表作をご覧いただけます
伊藤若冲とは? 代表的な作品と人生の解説、展覧会情報まとめ
泉屋博古館の魅力
青銅器のことを知らなくても大丈夫! 青銅器にまつわる解説がぎっしり!
泉屋博古館の展示室に入ると多くの青銅器に出迎えられます。でも青銅器ってどう見たらいいの? と不安をいだく方もいらっしゃるかもしれません。泉屋博古館では、中国の青銅器の歴史的背景や、青銅器の種類、記された銘文の意味など、詳しい解説が用意されています。青銅器の名称や役割をイラスト付きで解説しているものもあり、初めて青銅器を見る方でも理解しやすく、楽しむことができます。
緑豊かな庭や、可愛いオリジナルグッズ
泉屋博古館の庭の借景になっている如意ヶ嶽(大文字山)の自然は、まるで絵画のよう。「こんなに静かなところがあるなんて!」と感動しながらのんびり過ごせます。また、オリジナルグッズで注目したいのは、老舗「塩芳軒(しおよしけん)」の干菓子。「虎卣」を再現した形が超キュート!。
干菓子 2個入り800円(税込)
泉屋博古館ならでは!企画展にあわせたワークショップも
泉屋博古館ではワークショップも開催しています。2019年6月には、「鋳物体験ー古印をつくろうー」と題し、方印を錫で作るワークショップが行われました。奈良時代や平安時代には日本でも青銅で印章が鋳造されていて、青銅器のコレクションで有名な泉屋博古館ならではのワークショップと言えますね。また、2019年9月・10月には、企画展に合わせ、彫刻や絵画修復のワークショップが行われるそうです。
住友春翠って、こんな人!
住友春翠(1864〜1926年)は、明治25(1892)年、相次いで家長の死に見舞われた住友家へ養嗣子として入家。翌年に住友家15代当主となり吉左衛門を襲名し、住友家の江戸時代以降の家業の中心だった別子銅山経営の立て直しをはじめ、住友銀行の創業、住友合資会社を設立など、住友財閥確立を導きました。
春翠は、茶の湯や能楽といった日本の古典芸能をたしなみ、日本家屋で日本画を鑑賞するといった伝統的な数寄者の生活を送っていました。そのいっぽうで、当時としては先進的な西洋風の洋館を建て、洋画をはじめとする近代美術にも深い理解を見せており、さらに中国文人に由来する、青銅器や文房具に囲まれた書斎で篆刻(てんこく)を嗜んでいました。東洋と西洋、新旧を問わず、自身の美意識にかなったものを蒐集したことから、現在の幅広いコレクションに繋がっているのです。
2019年8月以降の展覧会情報
京都・泉屋博古館の展覧会
次回の展覧会は、2019年9月6日(金)〜10月14日(月・祝)。「住友財団修復助成30年記念特別展 文化財よ、永遠に -古都の美をまもる-」。古代から近世の彫刻、絵画、文書など、住友財団助成が修復した古都ゆかりの名品が展示されます。
また、青銅器館では、「中国青銅器の時代」特集展示 神秘のデザインが行われます。
泉屋博古館(京都)の利用案内
住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
開館時間:10時~17時 (入館は16時30分まで)
休館日:月曜日 (※祝日・振替休日の場合は翌日)
入館料:一般 800円 高校・大学生 600円 中学生 350円(小学生以下無料)
駐車場:車10台可
泉屋博古館へのアクセス
■京都市バス
◎(5)(93)(203)(204)系統 「東天王町」下車、東へ200m角
◎(32)(100)系統「宮ノ前町」下車すぐ
■その他駅から
◎JR・新幹線・近鉄電車 京都駅より
(5)(100)系統
◎阪急電車 河原町駅より
(5)(203)(32)系統
◎京阪電車 三条駅より
(5)系統
◎地下鉄烏丸線 丸太町駅より
(93)(204)系統
泉屋博古館のそばで立ち寄りたいスポット
紅葉の名所、禅林寺(永観堂)
紅葉の美しさは『古今和歌集』でも詠まれ、「もみじの永観堂」ともいわれるくらい名高いお寺です。正式名称は禅林寺といい、「永観堂」という名称は高名であった「永観律師」にちなんでつけられた通称です。
南禅寺
国宝の方丈をはじめ、アーチ状に積まれた赤煉瓦がレトロな水路閣や三門、狩野派の襖絵に枯山水の庭園など広大な寺域に見どころが多くあります。
▼南禅寺を歩くならこちらが参考になります
南禅寺を3時間で歩く。 金地院から水路閣までのおすすめルート
参考:泉屋博古館ホームページ(https://www.sen-oku.or.jp/)
※本記事は、雑誌「和樂」2016年8・9月号別冊付録、2018年4・5月号を元に作成したものです。