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2019.08.27

【東京】全国各地の作り手を訪ね日本唯一の荒物雑貨問屋へ。谷中・松野屋インタビュー

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昭和の商店街には、必ずあった荒物屋。箒(ほうき)やちりとりなどの掃除道具、竹で編んだザルやカゴなどの台所道具、じょうろや長靴といった作業道具などの道具がほの暗く狭い店内にギュッと詰まっていました。多くの商店街からは、また商店街そのものとともに、荒物屋は消えてホームセンターやいわゆる100円ショップが代わりを務めるように。そこで売られているプラスチックのザルやバケツ、使い捨ての掃除具などは、とても便利な存在です。

だけど便利だけでは満足できないことも。そんなときに出向くのが、東京の下町・谷中にある「谷中松野屋」(やなかまつのや)です。馬喰町の荒物雑貨問屋「松野屋」が手掛ける店には、昔ながらのものづくりのよさをもつ日用品が揃っています。栃木の箒づくりのおばあちゃんから大阪のトタン工場まで、さまざまな作り手を見つけだして、ちょうどいい暮らしの道具として使い手に提案する、「松野屋」店主の松野弘さんにお話しを聞いてみました。


暮らしに必要な日用品がずらりと並ぶ「谷中松野屋」。

若者には珍しくて、年配者は懐かしい荒物雑貨とは?

ほうき草や棕櫚(しゅろ)でつくられた箒、トタン製ちりとりやバケツ、竹や藤で編んだカゴなどが並ぶ「谷中松野屋」。開店直後から谷根千(谷中・根津・千駄木)ぶらりの若い男女、ご近所の老夫婦、海外からの観光客一家と多くのひとたちで賑わっています。

「谷中松野屋」を手掛ける松野屋は、東京の問屋街・馬喰町にある荒物雑貨問屋です。荒物雑貨とは、箒やちりとりなどの掃除道具、ザルやたわしなどの台所道具、長靴やスコップなどの作業道具、と昔から暮らしのなかで使われてきた日用品のこと。

「荒物雑貨は、若いひとにとっては珍しく、年配のひとには懐かしい。そして海外のひとには、暮らしの道具だからわかりやすいでしょう。うちは、ひとつの世代を狙った横割りではなく、すべての世代に対応できる縦割りの商い。最近は世代だけでなく、国をも超えてきましたね」と、松野屋・店主の松野弘さん。


日本各地の作り手や工場を訪ね歩いて道具を仕入れ、またオリジナル商品を手掛ける「松野屋」の店主・松野弘さん。

店にある商品はすべて松野さんが国内外で見つけてきたもの。いろんな種類の道具が上に下にと並んでいるのに、不思議と調和しています。「扱っている道具は、大量生産商品ではなく美術工芸や民芸でもない、町工場や農村の職人がつくる素朴な日用品。なるべく石油製品ではなく自然素材で作られているもの、そして誰がどんな風に作っているのか、きちんと自分の目で確かめたものだけを置いています」。

しっかりとした実用品でありながら、どこか可愛らしさやほのぼのした温もりを湛えた道具たち。松野さんのモノの見方や考え方、さらには生き方まで、店に並ぶ道具に表れている気がします。

三代続く鞄問屋から荒物雑貨へと大きく転換

もともと松野屋は、1945年に松野さんの祖父がはじめた鞄問屋でした。それを荒物雑貨問屋へと転換させたのが三代目店主の松野さん。創業から続いた鞄問屋の商いは、流通の変化などにより少しずつ売り上げが落ち込んでいきます。「80年代は、文化屋雑貨店などの影響を受けて、ファッション雑貨文化が始まりました。実用の道具が好きなこともあり、鞄のほかに雑貨や道具を扱っていこうと決めたんです」。


鞄職人でもある松野さん。帆布のトートバックやリュックは、松野さんの手によるもの。

鞄から荒物雑貨へ、なかなか大きな方向転換! しかし高校時代は民芸やアメ横のサープラスモノに影響を受けて、大学時代は『メイド・イン・USAカタログ』のヘビーデューティーな世界観に浸り、山登りをはじめた20代は欧米のアウトドアブランドにはまっていた松野さん。自身がプロユースな道具を日々使っていたため、雑貨や道具を仕入れることはごく自然の流れだったそうです。


福島のガラス工場製、飲み屋の厚口グラス。熱燗を入れても熱くない、ワインを入れてもキマる。

足で探すアナログスタイルで新たなモノや作り手につなげていく

まずは鞄問屋で人気があったカゴを増やそうと、国内の産地めぐりをはじめます。「今はスマホで調べれば何でもわかるけれど、当時は県事務所で名産品を調べるところから。住所を頼りに福島や岩手の作り手を訪ねたりしました。旅行中に道の駅でカゴを見つけて、直接電話をかけたことも。店の定番となった市場カゴやカゴバックはそうやって見つけたものばかり。いや大変だったねえ」と、笑います。


しなやかな篠竹で編まれた市場カゴ。「風通しがよくて水に強い。たくさん入るしね」と松野さん。

もちろん山村や農村だけではなく、町なかの道具も見逃しません。大阪の商店街で「いい!」と思ったトタン製バケツを購入すると、商品に貼られたシールから工場に電話をかけてすぐに訪ねたそう。「作りがしっかりしていて、掃除からアウトドアまで、手荒に使っても壊れない。いいものづくりをしている工場でね」。当然、バケツひとつでは終わりません。生産途中の柄杓(ひしゃく)を見つけ、オリジナルの豆バケツを開発! なんとそれが、世界的な超一流ブランド銀座店のショーウィンドウを飾ったというから、その眼力たるや推して知るべしなのです。


花器やグリーンポットなど、インテリア小物としても使える豆バケツ。

ひとつのモノを探していると、おもしろい作り手や思いがけない道具へとつながっていく。全国各地の作り手を訪ねているうちに、日本で唯一の荒物雑貨問屋となり、いつからか荒物雑貨の目利きと呼ばれるようになります。

箒やカゴ、手仕事を残すために問屋としてできることを続ける

手仕事の作り手と付き合いを重ねるなかで、需要こそが技術を伝承させるのだと実感するように。松野さんは一度取引をはじめると、10年、20年と細く長くお付き合いしていきます。そして農山村の職人には、無理なく作れる数量を注文しています。「長年、栃木県の80代のおばあちゃんがつくる箒を仕入れています。高齢だからと心配をしていたけれど、定年退職した60代のお婿さんが弟子入りして、今はふたりで箒作りをするように。うちの仕入れ先には、定年後から職人となるひとが増えてきています。需要があることで次の世代へ手仕事がつながる、嬉しいことです」。


昔から作られてきた手工業品。次の代へと技術をつなぐために問屋の存在は大きい。

地場産業を盛り上げ、技術を伝承させる、そんな役割を担えるのは、まとまった数量を注文できる問屋だからこそ。ほかにも松野屋では作り手を招いたイベントやトークショーを開き、作り手と使い手をつなげることに力を入れています。

丈夫で長持ち、買いやすい、サスティナブルな暮らしの道具

ここ数年、ライフスタイル誌やライフスタイルショップの影響もあり、昔ながらの暮らしの道具が注目されています。「深夜や早朝に掃除機を使うとご近所迷惑ですが、箒とちり取りがならばいつでも掃除ができます。外食に疲れてランチを弁当にするならば弁当箱には、調湿性が高く冷めてもごはんがおいしい、曲げわっぱのお弁当箱がいい。夕食の残りを詰めても映えるでしょう。電気ポットは便利だけど、鉄瓶で沸かした湯はまろやかでお茶に旨味が出る。そういうことを大切にする人が増えてきましたね」。


カゴやザル、竹かごや曲げわっぱのお弁当箱など。

便利な暮らしは捨てがたい。でも、時には心や体に心地いい暮らし、さらに環境にやさしい暮らしについて考えたいもの。「プラスチック製ゴミ処理問題をはじめ、大量生産商品や使い捨てへの嫌悪感を持つひとは多い。できるだけ石油製品を使わない、なるべく使い捨てになる商品を扱わない、そんな提案をする問屋がひとつぐらいあってもいいでしょう」。


トタン製のチリトリは、いろいろな仕様アリ。

丈夫で長持ち、買いやすい、昔ながらの荒物雑貨。これからの時代に再び取り入れたい、普段遣いにちょうどいい道具です。


アルマイト製のマッコリカップはアウトドアにおすすめ。

店舗情報

谷中松野屋
住所 東京都荒川区西日暮里3-14-14
電話 03-3823-7441
営業時間 11時~19時(土日祝は10時~19時)
定休/火曜日(祝日は営業)
www.yanakamatsunoya.jp

暮らしのなかに荒物を

「松野家の荒物生活」(小学館刊)には、「暮らしの道具 松野屋」を営む松野弘・絹子夫妻の荒物とともに過ごす日常風景が描かれています。ベターでもベストでもなく、ナイスな道具たちとともに営む、こよみを大切するす東京の下町暮らし。日々の暮らしがちょっとナイスになる荒物生活いかがですか。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09307009

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書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。