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2020.07.07

夏におすすめの収納アイテム、桐箱。3つのすごい効果と専門店に教えてもらった活用法を紹介

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日本の夏の湿度といったら、ジメジメムシムシうっかりするとお米に虫がわいたりするから油断できません。
でも実は、そんな日本の気候にぴったりの頼れる収納アイテムがあるんです。しかも、奈良時代からあるんですって。トラディショナル!
素材はサスティナブルです、その名は「桐箱」。
知らないなんて損でしょという桐箱のいろは、試したくなる活用法を福岡の増田桐箱店3代目、藤井博文(ふじいひろふみ)さんに聞きました。

へその緒から棺桶まで、日本人と桐箱

桐箱と聞いて思い浮かべるのはどんな箱ですか?
床の間に置いてありそうな花瓶が入っていたりする、あの木の箱。着物がしまってある、横長の収納ケース。
お歳暮やお中元のお酒やお菓子、素麺なんかが桐の箱に入っていることも。もしかしたらあなたの家にもひとつやふたつ、桐箱があるんじゃないでしょうか。

桐箱の歴史はとっても古くて、奈良時代に遣唐使が中国から持ち帰った仏具などとともに、日本に入ってきたと考えられているそうです。
桐は軽くて10年20年経っても歪みにくいことから重宝され、美術品をしまったり、着物をしまったり、大切なものを保管するためにずっと使われてきました。

そういえば赤ちゃんのへその緒をしまう小箱、棺桶にも桐は使われます。日本人と桐箱の縁の深さを感じませんか?

知っていた? 桐箱のすごい効果

ところで桐箱って、実は驚くほど高機能なんです。

1.天然成分で防虫

桐の木には「タンニン」という虫がいやがる成分が多く含まれています。いやーなダニ、お米の虫、大切な着物やカシミアのセーターに穴を開ける衣類の虫除けにも効果ばつぐん。

2.呼吸をするように調湿

あくまでもイメージですが、「桐は呼吸をする」といいます。桐の木は湿度が高いときには空気中の水分を吸い、乾燥すると水分を放出。だからジメジメしているときでも箱の中の空気はさらっと調湿されて、防カビ効果もあるんです。

さらに、桐箱が湿気を吸うとわずかにふくらみ、中が密閉に近くなります。気密性の高さによって、より高い防虫効果が得られるのだそう。

3.火災や水害でも中身は無事…?

桐箱の気密性の高さが、意外な場面で力を発揮することもありました。
火災の消火や水害で水浸しになったとき、桐の木が水を吸ってふくらみ箱がぎゅっと密閉されるのです。箱が乾くと蓋が開くようになり、中に入っていたものは無事だったということがあるのだそう。
昔から大切なものが桐箱にしまわれてきたのも納得です。

道具と桐箱の深い関係

しかし増田桐箱店の藤井さんは「桐箱は昔からあるものだけれど、いつも中に入れるものが主役で、ひとつの製品としては成立してこなかった」と話します。わたしはこの言葉に興味を惹かれました。
それはつまり、日本の文化のなかで桐箱が中に入れるものに添いすぎた、中のものと一体化しすぎたということなのかもしれません。

桐箱の役割は、単なる入れものにとどまりません。たとえば茶道の世界では、箱が中身を保証するという重要な役割を担います。
茶入れや茶碗をしまう箱を共箱(ともばこ)といって、中身を片側に寄せたときのすき間が6㎜、高さのゆとりは1.5cmとピッタリのサイズに作るのが決まり。
だから箱とサイズが合っていない骨董品などは、中身が入れ替わっている疑いがあるのです。また、箱に「銘(めい)」といって道具の名前が書かれることがありますが、その箱書きを書いたのが誰かによって価値がぐんと上がることもあります。
つまり箱と中身は切っても切り離せない、ふたつでひとつのものになっていきます。おもしろいですよね。

増田桐箱店では九州国立博物館の美術品をしまう箱や、人間国宝の作品が入れられる桐箱も手掛けています。でも、中に何が入るのかわからないまま作ることも多いのだそう。
「今は単なる入れものにすぎない桐箱も、長い時間をかけて中のものと対になっていく。だから中身に恥ずかしくない洋服を着せるような気持ちで、10年20年経っても歪んだりせずに、蓋がすっと開いてぴたっと閉まるような箱を作ります」と藤井さん。

それはやはり、職人の手仕事なのでしょうか? 桐箱作りについて詳しく聞きました。

妥協しない技術と、量産のスキル

増田桐箱店では現在、国産の丸太、アメリカ産の丸太、板に加工された中国産と3種類の桐を仕入れて桐箱を作っているそうです。
桐箱作りの工程にはざっくり、木を切る、組み立てる、仕上げの3段階あります。木を切る工程では機械を使うことが増えてきていますが、1日に1000個以上作るような量産のものでも、組み立てと仕上げはすべて手作業です。

「うちは、国宝を入れるような最上級の桐箱を手掛けることができます。でも実はそれと同じくらいに、不可のないきちんとしたものを大量に作ることができる、というのも大きな強み。それができなくては企業として生き残ることができません」と藤井さんは話します。

とはいえやっぱりすごいと思うのが、その手仕事の細やかさです。
たとえば最近では桐箱を使う人が高齢になってきているため、以前よりもほんの少しだけ蓋をゆるめに仕上げているといいます。手に力の入らない人でも開けやすいようにとの配慮、しかもその差は1㎜にも満たない手感覚の仕事だというから驚きます。

また桐箱を作る日が雨で、納品日には晴れそうなら木がふくらむことを考慮して蓋を少しきつめに仕上げます。そうすると天気の回復とともに木が少しやせて、納品したときにちょうどよく開け閉めができるのだそう。この微妙な加減は、人だからこそできる仕事にほかなりません。

伝統とは、変わり続けること

ちょっと意外だったのが、最上級の桐箱にはアメリカ産の桐を使っているというお話。取材の前、わたしはなんとなく国産の桐で、すべて手作りされたものこそが良い桐箱なのだろうと思っていたのです。

「だって昔は当然、国産の桐で作っていたんですよね、桐箱って」そう尋ねるわたしに、「伝統というのは、昔と同じものを作り続けることではないと思っているんです」と藤井さん。

アメリカの桐を使うのは国産のものよりも木目が細かくて、箱にしたときにより美しいから。木目というのは年輪、木が成長するときに刻まれる模様です。日本とアメリカでは気候風土が違うため、同じ桐でも成長の速度が異なり、木目の出方が変わるのだそう。
また木の硬さも産地によって少しずつ違います。アメリカ産は硬くて字が美しく書けるのも、桐箱に適した特長。

実は今、増田桐箱店の製品が日本から世界へ羽ばたいて、ヒットの兆しを見せています。
それが桐の米びつ。
防虫効果があって気密性の高い桐箱は、もともと米びつにぴったり。キッチンに出しっぱなしにしておけるデザイン、蓋には四方桟という伝統技法を使いつつ透明なアクリルで中が見えるようにし、開けた蓋は箱のふちにひっかけられるようにしました。お米を計る付属の升が、蓋の裏にマグネットでくっつけられる工夫も大好評。使い勝手にもとことんこだわったオリジナルの桐製品です。

藤井さんがおじいさんの後を継いで社長に就任したのは25歳のとき。周囲には、「桐箱って何?」いう人が多かったそうです。
自分の仕事を知ってほしい。若い人にも桐箱の良さを知ってほしいという思いから生まれたという増田桐箱店の米びつ。実験的に輸出をしてみると、なぜかアメリカ、カナダ、アジア、ヨーロッパ…お米を食べる国だけでなく、世界中から反響がありました。

「米びつだと海外では通じないから、フードストッカーの名前で輸出したんです」と理由を教えてくれました。
そうしたら、シリアルを入れたりナッツを入れたり、お茶やコーヒーを保存したりと、いろいろな桐箱の使い方をユーザーが考えてくれたのだそう。

声が集まって次世代の伝統工芸品になる

「昔から変わらないことが伝統なんじゃなくて、今の生活とか使う人のニーズによってぼくらが工夫できること、変わり続けることを伝統と呼ぶんじゃないかな」
だから売って終わりではなく、使う人の声を集めることで桐箱がもっと進化して、次の世代の伝統工芸品になっていくと考えているのだそう。

「もし桐箱に入ったギフトをもらったら、この空き箱に何を入れようかなって考えてみてほしいんです。
お酒が入っていた桐箱におせんべいやポテトチップスを入れてみたら湿気なくていいとか、乾物やハーブの収納にもぴったりだねとか、そんなふうに再利用してもらえたら環境にもいい。そしてこう使いましたとか、こんな桐箱が欲しいという声をもっとメーカーに届けてくれたらうれしい」と藤井さんは笑います。

脱プラスチックが課題となっている今、海外からも注目されはじめている桐箱。
ジメジメする日本でこそ愛されてきたその実力と恩恵を、わが家のキッチンやリビングでも試してみたくなりました。

増田桐箱店 基本情報

社名:株式会社 増田桐箱店
住所:福岡県古賀市青柳町100-1
公式Webサイト:http://www.kiribako.jp/

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書いた人

岩手生まれ、埼玉在住。書店アルバイト、足袋靴下メーカー営業事務、小学校の通知表ソフトのユーザー対応などを経て、Web編集&ライター業へ。趣味は茶の湯と少女マンガ、好きな言葉は「くう ねる あそぶ」。30代は子育てに身も心も捧げたが、40代はもう捧げきれないと自分自身へIターンを計画中。