Craft
2019.08.16

プラレールが漆と合体したらこうなった!伝統工芸とおもちゃのコラボレーション~後編~

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青森県の伝統的工芸品「津軽塗」とタカラトミーから発売されている玩具「こえだちゃん」のコラボレーション作品をご紹介した前編に続き、伝統工芸とおもちゃの気になるコラボ後編をお届けします!

後編は、同じくタカラトミーの鉄道玩具「プラレール」と伝統工芸が織りなすアート プラレールをご紹介。「江戸切子」「箱根寄木細工」「京都竹工芸」「漆塗り」という、日本人の生活の中で深く関わりながら継承されてきた4つの伝統工芸と、2019年に60周年を迎える人気のおもちゃプラレールが融合した芸術品のような作品をご覧ください!

「伝統工芸×プラレール」の4作品を一挙ご紹介

「東京おもちゃショー2017」では、4つのうち漆塗りを除く3つが展示、その後、2018年に開催された「プラレール博 in OSAKA」では4つがそろって展示されました。「箱根寄木細工」「京都竹工芸」「漆塗り」は実際に青いレールの上を走行することもできるそう。なんと美しい電車なのでしょう!

プラレール制作の際、職人さん達に共通して出されたテーマは「花火」

それぞれの解釈で「花火」が表現されたプラレールは、どれも技と魂のこもった作品に仕上がりました。ではひとつずつじっくりと見て行きたいと思います。

江戸切子:伝統工芸士が作るブルートレイン

江戸切子の繊細で美しい技術はいつも私たちを楽しませてくれます。そんな江戸切子がプラレールと出会い、完成したのがこちらの「伝統工芸×プラレール」江戸切子です。本体の重量は4つの中で最も重い564g/3車両。唯一、走行が難しいプラレールになりました。

職人さんは、2014年に日本の伝統工芸士(江戸切子)に認定されている高野秀徳さん

高野さんは「花火」というテーマから「夜空」を連想し、車体の青い色から夜行列車「ブルートレイン」を思い浮かべたそう。側面には列車が駆け抜ける山々、夜空に輝く星、天面には夜空にきらめく天の川をイメージし、そこに江戸切子の代表的な紋様である“麻の葉”、“六角篭目”、“八角篭目”が組み合わさっています。

今回の制作では、きれいなブルーを残しつつ柄を見せることができた点が気に入っているそうで、余白の美しさが充分に伝わってきます。

箱根寄木細工:カラフルで綺麗な模様でアピール!

箱根のお土産としてお馴染みの箱根寄木細工がプラレールになった「伝統工芸×プラレール」箱根寄木細工。こちらを制作した石川裕貴さんは、約200年続く寄木細工の元祖とも言えるお店で働く職人さんです。プラレールとのコラボを聞いたときは素直に「え! 」と驚かれたそうです。しかし、果たして上手くできるのか? という不安はすぐに「目をひく印象深いものを作りたい! 」という思いにかわりました。

作品は「花火」という鮮やかな色彩のイメージから、さまざまな色を使いカラフルに、そして綺麗に見せることでアピールできるように工夫されています。模様は花火が上がったときの花開く様子を見事に表現しており、彩りあふれるプラレールが誕生しました。窓やパンタグラフなどの構造には予想以上に苦戦したそうですが、モダンで可愛らしい模様には寄木細工の新たな一面を見たような気がします。

京都竹工芸:雪・月・花に見立てた打ち上げ花火

「伝統工芸×プラレール」京都竹工芸を制作したのは、数多くの出展実績を持ち、京都で工房を営む小倉智恵美さんです。竹工芸とは、割った竹または筒のまま素材の表情を生かして器物を作る工芸で、制作を担当した小倉さんは、その中でも竹ひごを編んでカゴなどの細工物を作る編組加工と呼ばれる分野に取り組んでいます。

3両とも色の違う車両はカラフルな打ち上げ花火をイメージし、それぞれ雪・月・花に見立てられています。車体は菊の模様を持つ3種類の編みで構成され、さらに車両の前後部分は“ござ目編み”が施されています。小さな車体にいくつもの技法が用いられ職人技が光ります。

作品を作る際には、車両の中の網目の美しさを出すために細かい材料が必要となり、普段はアクセサリーなど小さいものを制作している職人さんでもその材料作りに苦労したと言います。また、電車を形作る際には新しい技法にも挑戦したそうで、繊細な美しさに宿る職人魂を感じることができます。

漆芸:漆黒の車体に輝く蒔絵の朝顔

漆工芸の技法のひとつである蒔絵で表現されるのは、朝顔を花火に見立てた丸紋のデザインです。蒔絵とは、漆器の表面に漆で模様を付け、それを接着剤替わりにして金や貝などの粉を「蒔く」ことで装飾する技法。日本独自の伝統ある技法で、かつては公家や武家の身の回りの品々にも蒔絵の装飾が施されていました。

「伝統工芸×プラレール」漆芸の制作に携わったのは、漆芸作家の室瀬祐さん。漆芸作品の制作に携わるほか漆芸文化財の保存修復や東京・目白にある漆の学び舎「目白漆學舎」で広く漆芸の教育普及にも取り組む作家さんです。見どころは、間を意識してちりばめた朝顔紋の鮮やかな金と、漆の深い黒のコントラスト。眺めていたくなる芸術品のような車体です。

2017年~2018年に展示がおこなわれた「伝統工芸×プラレール」は、今のところ次回展示の予定はないそう。ぜひ、この芸術品ともいえる職人の技をまたお披露目して欲しいです。

◆伝統工芸×プラレール 特設サイト

4作品そろってお披露目された世界最速美術館「現美新幹線」

ところで、アート プラレールが4つ揃った初めてのお披露目は、プラレールのお披露目にふさわしく、世界最速の芸術鑑賞ができる走る美術館「現美新幹線」だったそうです。


13号車のキッズスペースでお披露目されたアート プラレール

現美新幹線は、新潟駅~越後湯沢駅間を結ぶ新幹線。この列車のために制作した現代アートが各車両に展示されるという“走る美術館”です。「伝統工芸×プラレール」と「アート×新幹線」という親和性の高さからこのイベントが実現したそうで、車内にはプラレールの線路をモチーフに描かれた床や壁のプリントが目を引くキッズスペースが設置されています。

伝統工芸とおもちゃのコラボレーションに感動!

「伝統工芸×プラレール」の誕生に至った背景には「日本のものづくりの魅力を再発見してもらえるものを形にしたい」という強い思いがあったそうです。前編の「こえだちゃんと津軽塗」を合わせた「伝統工芸とおもちゃ」という異色のコラボレーションに共通して見られたのは、職人たちの技と丁寧な仕事、そして新しい挑戦への数々でした。

子ども達がおもちゃを通して伝統工芸を知り、大人は工芸品の魅力を再発見する。企業や地域の人びと、そして職人の想いが重なりあうコラボレーションを通して、日本のものづくりや伝統工芸に触れてみるのも良いかもしれません。

書いた人

関西と中部の両文化が入り乱れる伊賀地方の出身。1年間の放浪生活を送ったオーストラリアで良き日本を再認識。広く浅い知識を頼りに活動中。子のためなら鬼にでもなると2人の男児を溺愛するも、その子どもから鬼と呼ばれている。好きなものは道具、模様、コーヒー、プリン、深夜ラジオ。