2017年12月16日から、MOA美術館で「暮らしの中の伝統工芸」が開催されます。MOA美術館学芸員の米井善明さんにみどころを解説していただきました。
「美・和・心」を満たす展覧会
陶磁、染織、ガラス、漆工、金工、木工など、ひと口に「伝統工芸」といっても、その素材や技法は多岐にわたります。高度な技術で発展し続けてきた伝統工芸は、現代においては、身近なものというよりは、美術品として、ガラスの向こうに鎮座しているイメージかもしれません。
「しかし、その本質は、日々の生活をより豊かに彩るための器です。それが同時に、人々の心を慰めたり、高揚させたりする、鑑賞の対象となったのです。今回の展覧会では、伝統工芸の本質と魅力を再確認していきます」(米井さん)
たとえば、江戸期から350年続く「色鍋島今右衛門窯」14代今泉今右衛門の器。一子相伝の秘法として伝えられた赤絵は、国の重要無形文化財保持団体の認定を受けています。
14代今泉今右衛門「色絵薄墨墨はじき四季花文器揃」
「ろくろで成形した後に、型打ちという、型をかぶせて余分な部分を削り落とす有田焼の古い技法を使っており、伝統的な技法によって、現代的な花形の造形が成立しているところに注目です。橘、石榴、桜、秋草など、四季折々の草花が装飾されているので、季節に合わせて楽しむことができます」(米井さん)
美術品でおなじみの蒔絵を全面に施した室瀬和美による重箱には、作品名のとおり、側面に春風に揺れる垂れ桜が表現されています。
室瀬和美「蒔絵飾箱 春風」
「この桜は、秩父の清雲寺にある樹齢600年を超えるエドヒガンザクラだそうです。桜の花びらひとつひとつを、色や大きさの異なる金粉を使い分ける絵梨地という伝統技法で表現しており、ところどころに使われている螺鈿とも相まって、美しい立体感をつくり出しています」(米井さん)
貝のような形をした金色に輝く「金彩銀器」は、純銀の板を金槌で打ち絞って成形したもの。槌目の表面には、金彩の小さな方形の文様が施されています。金工家・前田宏智の作品です。
前田宏智「金彩銀器」
「3作品とも、伝統工芸の技を駆使しながら、料理の器として使ったときにこそ映える、用と美を備えています。こうした多様な工芸技法を集約し、現代の生活に起伏を与えるという視点から、食器、酒器、茶道具など暮らしの中にあるものを展観します」(米井さん)
ほかにも、琳派の硯箱や掛物、着物、桃山時代の志野や織部といったMOA美術館のコレクションもあわせて展示。伝統工芸を身近に感じることのできる、貴重な機会となりそうです。