葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を彷彿とさせるアイスクリーム。アイスクリームならではの涼やかさと波の力強さに惹きつけられます。舟に見立てたウエハースもたまりません。味はサイダーとバニラかしら? 波が溶けてしまう前にペロっと味見してみたい!
そんな思いに駆られましたが、うーむ、残念! このアイスクリームは樹脂製。レストランや喫茶店などの店頭に並ぶ食品サンプルの技術で作られたものなんです。
実は日本発祥!食品サンプルの技術
実はこの食品サンプルの技術、日本で生まれ独自に進化したものなのだそう。
冒頭の作品を生み出したのは、食品サンプルメーカー「株式会社岩崎」の職人さんたち。同社は1932年に創業し、食品サンプルのリーディングカンパニーとして数々の飲食店の食材や料理を製作してきました。
普段は実物に忠実な食品サンプルを生み出している職人のみなさんですが、年に一度、その技術を使って自由な創作ができる機会があります。発想力と腕を競う社内コンクールが行われるのです。先ほどの北斎アイスやこちらのポテチザウルスはその入賞作品の一例。
日本生まれ、独自技術…食品サンプルのこと、色々と気になってきました。
私たちが気軽にその歴史や技術に触れられる場所が浅草にあると聞き、訪ねてみることに。
驚きの詰まった「食品サンプルギャラリー 浅草店」
訪れたのは、株式会社岩崎が運営する「食品サンプルギャラリー 浅草店」。大きなお寿司の模型が目印です。
浅草のシンボル雷門や浅草寺にほど近い場所にある「食品サンプルギャラリー」。2018年7月のオープンから1年、海外からの観光客や修学旅行生も訪れる注目のスポットとなっています。
食品サンプルづくりの歴史やその技術の紹介、コンクール出品作品の展示、気軽に買えるお土産アイテムなどが揃うお店です。店内に一歩足を踏み入れると、さっそくインパクトのある作品が目に止まります。
はじまりは百貨店の食堂
食品サンプルづくりはいつから始まったのでしょうか?
食品サンプルが発明されたのは、大正末期から昭和初期の頃とされます。ちょうどその頃、百貨店内に大衆食堂が開店し大盛況。長蛇の列ができる中、時間短縮のために「あらかじめサンプルを見て食券を買っておく」というスタイルが生まれました。そこで活躍したのが、食品サンプル。
食品サンプルを日本で初めて事業化したのは岩崎の創業者、岩崎瀧三氏でした。同氏は、初めて食材の模型を目にした際、子どもの頃、ロウを水に落とし花のように咲かせる遊びに熱中したことを思い出し、それがロウで出来ていることを確信しました。製品もまだあまり市場に出回っておらず、種類も少なかったことから、この仕事を企業化し、日本全土に普及させることを決意したのだそう。こうして食品サンプルが浸透しました。
なぜ日本で独自進化?
食品サンプルギャラリーの店頭では、驚きの表情とともに訪日外国人観光客が次々と足を止めます。海外では、食品サンプルを見かけることはほとんどないのだそう。
「日本には四季があるので、季節によって食材も器も変わります。料理も目で楽しむ要素が多いんです。行事ごとの料理も様々です。どんな盛り付けで表現されるかはお店によって異なりますよね。それも食品サンプルを作ることにつながっているのではないかと思っています。また入り口を飾るなどの間の演出や、のれんの有無で店が営業しているかを伝える文化とも関連がありそうです」と、広報の黒川さんは語ります。
食品サンプルを使ったグッズはアメリカ生まれ?
岩崎が海外展開を始める際、飲食店の店頭にハンバーガーのサンプルを置いて8ドルと札を立てたら、サンプルの代金が8ドルだと勘違いするお客さんがいたというほど、馴染みのなかった食品サンプル。
アメリカの一般消費者に食品サンプルを知ってもらおうと作ったのが、こちらのキーリングだったそう。
こうして生まれたキーリングでしたが、現在は浅草のお店でも人気のお土産商品。様々な種類のものが棚を賑わせていました。外国人観光客はもちろんのこと、修学旅行生のグループがお揃いで買っていくなんてシーンもあるのだとか。
職人のアイデアが爆発?!ユニークな商品も
他には、こんな意外な組み合わせの商品も。
ハムのしおり?!
こちらは実用的(かもしれない)「単語帳ウエハース」。勉強が楽しくなりそうです。
躍動感溢れる、つまみ寿司のマグネット。ちらりとワサビが覗いているのがニクい。
こうした商品の開発は、職人のアイデアから始まります。店頭での反応など現場の声とすり合わせながら、食品サンプルを一般客が楽しめる商品を日々生み出しているのだそう。
技術応用で製作。ティラノザウルスの頭骨模型
これらの技術の使い道は食品にとどまりません。博物館などに置かれるレプリカにも、その技術が生かされています。
かつて「職人の技術を使って可能性を広げたい」という考えのもとシーラカンスのレプリカを作ったところ、岐阜県博物館で展示されることになったという経緯がありました。その後、骨格模型や実物大のザトウクジラなどの制作に発展していったのだそう。高い再現能力が活用されています。
作ってみたい!をかなえる
食品サンプルを見ていると、自分でも作ってみたくなりませんか?ギャラリーには、そんな思いを叶えてくれる商品もありました。
夏休みの自由研究にぴったり!食品サンプル製作体験キット
食品サンプル職人が開発した、自宅で製作の体験ができるキット「さんぷるん」。
このキット、ただパーツ組み立てるだけではありません。お湯に浸けて素材を柔らかくし、形をリアルに変形させたり、具材を本物らしく見えるようカットしたり、職人さんが普段行なっている工程を自宅で体験できるんです。リアルなオリジナル作品が作れそうです。
小分けにした麺をお湯で温めて柔らかくし、丸めて盛り付けていきます。
具材を柔らかくしてカットし成形。ソースを塗った麺に盛り付けていきます。まるでお料理をしているよう。
こちらの動画で製作の様子が見られます。本物のように美味しそうに見えるコツが紹介されていて、「ピーマンは、かもめ型になるように」など形作りのアドバイスも興味深いです。
作りがいのある製作キットは、小学生のお子さんの夏休みの自由研究に選ばれることも。
夏休みの自由研究に活用できるワークシートもありました。食品サンプルの歴史について店内で調べたり、食品サンプルづくりの実験レポートづくりに活用できます。
プロに教わりながら製作体験できる店頭ワークショップ
また、姉妹店である「元祖食品サンプル屋 合羽橋店」では、食品サンプル製作体験も開催されています(要予約)。
職人さんの実演を間近に見られるワークショップ。天ぷらやパフェ、ワッフルなど様々なメニューで開催されています。
スカイツリーで最新コンクール作品を間近に(会期終了)
本記事冒頭でも紹介した社内コンクール作品。技術の向上、開発を目的に1968年から毎年開催され続けています。普段は飲食店のオーダーに忠実なものづくりを目指している職人が「自身が作りたいものを思いっきり作る」ことを許される場。みなさんが気合いと情熱を注いでいることが作品からも伝わってきます。この活動が、新技術や新しい表現方法の発見、新商品の開発へもつながっているのだそう。
過去の作品、金魚の泳ぐ桶。透き通る水と心地好さそうに泳ぐ金魚が涼しげです。透明な液体を作るのは難しいのだとか。
2019年度のコンクールのテーマは「伝える」。いったいどんな作品が生まれたのでしょうか。最新作を私たちが直接目にできる機会が8月下旬にやってきます。
「おいしさのアート展2019」(会期終了)
会場:東京スカイツリータウン内 東京ソラマチ
イーストヤード4階12番地 特設会場
期間:2019年8月21日(水)~9月1日(日) ※会期終了しています
開場時間:10:00~21:00
内容:社内審査による受賞作品を中心に、数十点を展示。
詳細:https://www.ganso-sample.com/news/11061/
食品サンプルの歴史や技術を学び、実際に作ってみる。作った経験があるからこそわかる職人技の凄さを展覧会に見に行く…この夏、そんな風に親子で食品サンプルの世界をどっぷりと楽しむのも良いかもしれません。
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食品サンプルギャラリー浅草店
*店名:食品サンプルギャラリー浅草店
*住所:東京都台東区浅草1-32-7
*電話:03-5811-1900
*営業時間:10:00〜17:30
*定休日:年中無休
*公式webサイト:https://www.replicafoods-gallery.com/