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Craft
2019.08.27

お店の隣に工場!?清澄白河の隠れ家スポット「ten」で職人の世界に触れる【東京】

この記事を書いた人

普段あまり見ることのできない職人の技術やものづくり。職人さんと聞いて思い浮かぶのは黙々と作業していて話しかけづらそう、ちょっぴり怖そう…というイメージでしょうか?
そんな職人のイメージを覆すのが、清澄白河(きよすみしらかわ)のセレクトショップ「ten」に常駐している金物職人、河合広大さんです。お店に併設する工場で、河合さんに知られざる職人の世界を教えていただきました!

ショップの隣で内装業を営む金物職人・河合広大さん

tenは、日本の職人や作家のプロダクトをとり扱う一方、隣には工場を併設。ものづくりの現場をみることができる環境になっています。

以前、清澄白河界隈のお店紹介記事で取材させていただいたのですが、工場側に入るのは今回はじめて。

こちらはtenのお店。カウンターに立つのは店主・山本沙枝さん。
(山本さんのインタビュー記事はこちら

お店の奥にある扉を開けると…普段あまり見ることのできない職人の世界が広がっています。

工場の扉を開けると、河合さんの姿が。今、何をやっているところですか?

掃除しています。ここ最近作業続きで綺麗ではないので掃除しなければと思い…。

サササッ…。

普段製作をしていると、すぐに汚れてしまいます。

一度はじめるととことん集中する姿はまさに職人です。では、掃除を終えたようなので早速お話を伺いたいと思います。こちらでは、どんなことを行っているのですか?

主に内装業をやっています。デザイナー・建築士に頼まれた什器、階段、ドアなどをつくっています。これからつくるのはオフィスのカウンターで、ここに鉄などの材料があるのでそれを切ったり、溶接したりしてつくっていきます。

カウンターをつくるのに必要な材料が置かれている。

材料を見るとなんだかすごい大きいものをつくっているようです。

ここでつくったものは、トラックで現場まで運ぶのですが、トラックに乗らない大きさのものもあります。大きな階段などはここで分割してつくり、現場でパズルみたいに合わせたり、現場ではじめからつくるときもあります。

河合さんは、シェイク・シャックなどの大手飲食店、airbnbの民泊施設、オフィス、店舗やカフェなどの内装施工、什器製作を企業・個人を問わず行っています。益子の人気家具店「pejite 青山」の扉や、新木場にあるショップ・カフェ・ギャラリーの複合施設「CASICA」の什器や階段、扉も河合さんが製作をしたもの。デザイナーや建築士からも直接仕事を引き受けることが多いそう。

tenお店にある、スロープ、窓、扉なども河合さん作。

実際に作業しているところを見せていただきました!

鉄を使ってつくるものは多様だと思うのですが、どんな工程でつくっているのでしょうか?

1番多いのは、鉄を切って、溶接してつける作業ですね。今からやってみますね。

切断機を使って、鉄を切ります。

切った部分の断面は荒くなっているので(これを“バリ”といいます)、サンダーという機械で磨きます。

溶接機からは直接は見ることのできないレーザーが出ます。アルコンガスを噴射しながらレーザーを出し、鉄を溶かしてくっつける。溶接棒というものを使って、溶かしながら一体化させていきます。

くっつけたところは溶接焼けがあるので、目が細かいサンダーで磨きをかけて綺麗にします。

このように、鉄をパズルみたいに組み合わせて、扉や什器など様々な製品をつくっています。

はじめて見ました、飛び散る火花!

職人のイメージを職人目線で変えたい

職人になる前は、不動産で営業職を3年間勤めていたという河合さん。その後、金物の問屋をしている父親の影響から、板金屋での工場勤務を経て金物職人になりました。

営業職のときは、アプリ開発を行うIT企業のオフィス仲介など、当時とても勢いのあった企業様に関わらせてもらいました。毎日スーツを着るサラリーマンから職人になったので、10時・12時・15時に休憩するという職人のルーティンも不思議で、先週までスーツを着ていたのに次の週から屋根の上でお茶をする。そのギャップがすごかったのですが、職人になってから新たに気づいたことや仕事に対する疑問がそこで生まれました。

一体、それはどんな気づきや疑問なのでしょうか?

まず、『職人』という仕事に対して、油汚れの服で工場で働くイメージだったり、俗に言う“3K”というイメージが世間にあると、私は思いました。それによって、若い人が職人の世界に興味をもって入ってくれることも少なく、入ったとしてもなかなか長続きせずにやめてしまうのです。そういった職人のイメージ、実際の仕事環境のイメージを職人目線で変えたいと思いました。また、職人はずっと工場で作業をしているため、工場と現場の往復。その閉鎖的な環境を少しでもオープンにしたいと思うのです。

工場側はシャッターで締め切られていますが、今後は中が見えるようにガラスの扉を製作していくそう。

不動産営業という仕事から職人になり、10年続けてきた中で、この業界特有の環境をどうにかできないかと思い続けてきた河合さん。職人が不特定多数の人と出会い、工場や職人が近しい存在として感じられるtenは、その思いを体現した場所だったのです。

人との出会いで広がるものづくり

河合さんは以前、足立区にある「kikkake(キッカケ)」という開放的な工場で、建設業者、内装施工管理会社、花屋といったメンバーとチームを組み、職人やモノづくりの魅力をワークショップなどを通して伝えていたのだとか。

職人は閉鎖的環境にいるので、例えば違う場所に事務所をつくる、海外に工場をつくるなど、会社が職人の道筋を広げない限り、外にでることはありません。それで、職人として何か新しいビジネスができないかと考えはじめました。

本業の仕事は続けつつ、空いた時間を使って個人でものづくりの幅を広げる河合さん。一体どんなところから仕事が生まれているのでしょうか。

工場勤めの時から、廃材などを利用した商品をフリーマーケットに出店したり、友人から受注していたりしましたが、大きな変革としては、民泊の運営管理代行会社「zens」の立ち上げに参画し、2年ほど宿泊施設の部屋をつくったり、運用サポートとして動き回ったことです。それが職人としての新しいビジネスでした。その後、SNSなどを通して認知してくれた方々からご依頼をいだだけるようになり、いろんな人との繋がりの経て今日に至ります。

自分がつくったものやそこで出会った人から仕事がどんどん生まれていったのは、河合さんの気さくな人柄もあるのだと思います。

今こうしてものづくりの幅が広がっているのは、人との繋がりのおかげです。一生懸命やって、そこで出会った人と一緒に楽しいことをやる。それこそ、山本さんに出会っていなかったらこのお店もないと思います。一見声をかけづらそうな職人を、世間と繋いでくれるのがこのお店でとても大切な場所です。

お店がオープンしてから、環境の変化などはあったのでしょうか?

お店に来店される方が工場に興味を持って工場側を見に来てくれることが増えました。建築士さんなどの来店も多く、ここでの出会いが仕事に繋がりはじめています。

ものづくりは自分の好きな世界に連れて行ってくれる

あまり若い人が育たないという業界特有の問題があると聞きましたが、最後に何か届けたいメッセージなどありますか?

材料でしかない金属が、手を加えることで、店や什器、家の一部に変化する。残るものを作れることの楽しさや、誰かの生活の一部を担っていることにやりがいを感じています。
ただ、金属加工を行える職人は高齢化が加速しています。若い人材が少なく、需要と供給のバランスが崩れてきています。若い世代がモチベーション高く、この業界で活躍できるような環境を、小さな力ですが自分から少ずつつくっていけたらと考えています。
ものづくりも多様です。望めば自分の好きな世界に連れて行ってもらえるので、いろいろとつくり、試してみれば道が開けるのではないかと思います。

今回取材をしていて、自分の好きな世界で活躍する河合さんは、とても輝いて見えました。普段味わうことのできない職人の世界に触れられるtenは、その魅力を体感できる場所。美容師や俳優みたいに、いつしか職人も憧れの職業になっていくのかもしれません。

撮影/とま子・白方はるか

「ten」 DATA

営業時間:13時〜19時/不定休(オープン日はInstagram@10_tokyoにて)
住所:東京都江東区佐賀2-1-17
アクセス:東京メトロ半蔵門線 水天宮前駅2番出口から徒歩5分,​東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅A3出口から徒歩14分
※入り口正面は工場です。店舗へは工場横通路を通り裏へまわってください。
公式サイト