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Craft
2019.10.08

空き缶、ギター、ホッケー? 斬新すぎるほうきを作る「OPEN STUDIO」ってなんだ【熊本】

この記事を書いた人

とある事務所で使用されていたほうきが忘れられなかった。柄がホッケーで使用されるスティックになっていて、掃くとホッケーをしているかのようで面白い。熊本県の「OPEN STUDIO」という、親子で運営している工房で作られているものだと知り、念願だった工房を訪ねて、店長の高光太郎さんにお話を伺った。

一風変わった工芸家のもとに生まれて

熊本県の市街から少し離れた場所にある「OPEN STUDIO」は、彫金、鍛金、木工、ガラス、和紙などのあらゆる素材と技法を扱う工房。昭和54(1979)年に工芸家の高光俊信・幸子さんにより設立。平成12(2000)年より息子の太郎さんが加わった。

工房でお話を伺った店長の高光太郎さん

熊本県で生まれ育った太郎さんは、福岡県の高校のデザイン科へ進学。卒業後すぐにアメリカへ留学し、金属を学ぶ。日本に帰ってきて何をしようか?と思う頃にはすでに「OPEN STUDIO」に加わっていた。

太郎:父は環境に慣れないように10年ごとに素材を変えるんですよ。もともとペーパークラフトを10年やって、吹きガラスを10年やって、金属10年やって、ほうき10年やって、今は教育に力をいれています。今まで扱った素材の組み合わせでデザインし、製作しています。

自由奔放なモノづくりから生まれたほうき

今や「OPEN STUDIO」の代表作となっているほうきは、金属工芸で薪ストーブを作っていたところ、薪ストーブに必ずほうきが必要だったことがきっかけとなっている。

太郎:父が作っていた薪ストーブは、一般家庭では置くことが難しいデザインの薪ストーブでした。僕がアメリカから帰ってきて、父からお前何かつくれと言われた時、スタンダードな薪ストーブを作りました。

高光俊信さんが作っていた薪ストーブにはトゲが沢山ついている。今も作業場の前に設置されている

太郎さんが一般家庭にも置ける薪ストーブを作る中、父の俊信さんは様々な柄がついたほうきを作り始めた。

工房内にはホッケーの他にもサイズ、素材ともに様々な柄のほうきが沢山ある。空き缶、ギター、三味線で作られたものも。

売れ始めたホッケーほうき

「OPEN STUDIO」のほうきが注目されるきっかけとなったのが、ホッケーで使用されるスティックを柄にしたホッケーほうきだった。

太郎:ホッケーほうきはスタイリストの岡部文彦さんが取り上げてくれて、爆発的に売れるようになりました。それまでは一年間で数えるくらいしか売れなかった。
最初に作っていたのはホッケーのスティックの長さをそのまま生かしたフルサイズですが、長過ぎて掃除できないし、半分に切ったら2本できるし、切ってみてはどうか?と岡部さんに言われて、そこから今の定番サイズになった。
ホッケーのスティックはグラフィックが命なのですが、父は容赦ない場所で切ろうとするので、それは僕がデザインが活きる場所で切るようにしています。

父と息子で作り続ける金属工芸

ほうきの他にも、鉄、銅、錫などの金属工芸も広く制作している。特に銅の四角い花器や錫の酒器などが人気だ。

左:銅の花器 右:錫の酒器

太郎:錫はもともと父が作っていました。10年程作ってその後、僕に作れと言ってきたので作り始めました。父に言われたのものを作っていても僕の感じがなくなるので、継いでいるというより、別でやっている、という感じです。

錫工芸の制作工程

今作ってみましょうか?とその場で錫の加工を見せてくれた。
板状になった錫の上にカップの型紙を置き、カット線をひく。

「すごく柔らかいんですよ、バシバシ切れる」と言いながら、その線に沿って大きなハサミで切っていく。カップの大きさに合わせた型にカットした板を巻きつけ、金槌で打ちつけながら型に沿わせて成形していく。

板の端同士の隙間を溶接する。
太郎:錫は熱に溶けるので、切れ端は貯めて一気に溶かせば、また板にして再利用できます。

冷たい飲み物を冷たいまま、長時間保つことができるのが錫の魅力だが、熱には弱くすぐに溶けてしまうので、扱いにはご注意を。

錆を味わう銅の皿

「食器ではなく、観賞用として花を飾ったりしてほしい」と太郎さん。和室、洋室ともに合うような風合い

太郎:銅の器は2018年から制作していて、好きな作品の1つです。
銅の錆である緑青(ろくしょう)で柄を作っています。独特の青色は薬品で色付けし、赤色は酸化防止の液体を塗ってから焼いて色付けしています。溶けたりしてしまうので、なかなか難しい技術なんです。

やりたいことがありすぎて整理がつかない

この先挑戦してみたいことを聞くと、即答で「やりたいことがいっぱいありすぎて、頭の中の整理がつかない」と返ってきた。

太郎:最近の仕事で、熊本県の島田美術館で開催された企画展「勝って兜の緒を締めよ」で使用されたカブト作品の展示什器制作は、新しい挑戦でやりがいがありました。どのように作れば美術作品を綺麗に見せられるのかを考えて制作していくことが楽しくて。
店舗什器や一般家庭の内装、外装などの仕事は多いのですが、美術館内の作品展示什器は初めてだったので、この後も制作していきたいです。

つたの絡まる工房が目印。普段は隣に併設されている鉄工所のような作業場で制作している。
自由奔放で才能溢れる父の高光俊信さんと、職人気質でまっすぐな息子の高光太郎さんが、親子で刺激し制作し合うこの工房から、この先どんな作品を生み出していくのか?
制作意欲は互いに止まないようです。

今後の展示販売予定

■「artifex」展
開催期間:2019年10月4日(金)~10月8日(火) 
開催場所:GALLERY KAI 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-21-4
営業時間:11時~18時30分(最終日は16時まで)
(高光太郎さん在廊日は10月5日(土)錫作品の展示販売)

■TACOMAFUJI POP UP STORE
開催期間:2019年11月16日(土)、11月17日(日)
開催場所:Plain 山口県山口市後河原37-1 ウッズビルⅠ 1F
営業時間:11時~18時
(高光太郎さんが在店。錫、銅、ほうき作品の展示販売)

■ニッポンいいもの展2019
開催期間:2019年11月20日(水)~11月26日(火)
開催場所:ジェイアール名古屋タカシマヤ 10階催会場 愛知県名古屋市中村区名駅1丁目1−4(JR名古屋駅直通)
営業時間:10時~20時(最終日は17時まで)
(高光俊信さんが在店。ほうき作品の展示販売)

OPEN STUDIO 店舗情報


営業時間:9:00~18:00(定休なし)
住所: 〒860-0816 熊本市中央区本荘町672-2
公式サイト:http://openstudio.eco.to
インスタグラム:https://www.instagram.com/openstudio_kumamoto/

撮影/田中慎一朗

書いた人

商品の企画やらデザインやら相談やらを受けている他、おもいでのはとばコレクションを運営している。そんな経歴上、絵を描くことが得意と見られがちだが、新聞記者の最終面接で敗戦した過去を引きずる。人、場所、ものに興味があって、繋げることを企てる。 http://omoide-no-hatoba.com