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Craft
2020.01.28

伊万里焼ジュエリー「HiN」が美しい…ライフスタイルに合わせた伝統工芸の楽しみ方

この記事を書いた人

「HiN(ヒン)という、伝統工芸を取り入れたジュエリーブランドを、立ち上げようと思っているんです」

2018年の、とある夏の日。“日本の手仕事”をテーマとしたトークセッションイベントのあとの、参加者同志の交流会で、そう語る女性がいた。

その女性とは、ほんの少し言葉を交わした程度。でも、なぜか「HiN」という言葉が頭の片隅にずっと残っていた。

それからしばらくたったある日。ふとした瞬間に思い出して、ネットで検索をしてみた。

伝統技術を用いて作られた、伊万里焼の美しいジュエリーの数々。

WebサイトやInstagramをひととおりじっくり見たあと、店頭に足を運んで実物も見た。実物は写真よりもずっと美しくて、びっくりした。

そして、HiNのデザイナー・岡部春香さんに、取材を申し込んだ。

インタビュー場所は、清澄白河の「gift_lab GARAGE」。カフェ・ギャラリー・セレクトショップを併設している複合施設で、HiNのプロダクトが完成した際、最初に展示会を開催した場所だそう。

どうして伝統工芸をジュエリーに? 伝統工芸のどんな部分に魅力を感じたのか? 岡部さんにたっぷりと、お話を伺ってきました。

伝統工芸を現代のライフスタイルにマッチさせ、身近な存在にしたい

—今日はいろいろなお話を伺いたいと思って、楽しみにしてきました! まずは、岡部さんご自身について。「HiN」を立ち上げる前は、どんなお仕事をされていたんですか。

岡部春香さん(以下、岡部):インテリアショップで、デザイナーやメーカーの間に立って商品企画をする仕事をしていました。
元々は、学生時代にファッションデザインを学んでいたんです。1年間パリに留学もしましたが、そこで少し、違和感を覚えてしまって。

—違和感、というのは?

岡部:自分が作りたいものと、ファッションのサイクルやスピード感が、合わないのではないか? と。ファッション業界でデザインをやりたいとずっと思っていたけれど、いざ目の当たりにしてみたら、気持ちがついていかなかったんです。卒業後は地元の北海道で、ファッションと全く関係のない仕事をしていました。
でも、「やっぱりデザインをやりたいな」と思うようになって。それで、東京に戻ってきて、インテリアショップのデザイン企画の仕事に就きました。

—希望していたデザインの仕事に就いた一方で、「自分のブランドを立ち上げたい」と思ったのは、なぜなんでしょうか?

岡部:当時はデザイナーやメーカーの間に立って企画を進める立場で仕事をしていたんですが、「自分の思いを形にしたい」という気持ちがありました。元々ファッションデザインを学んでいたのも、同じ理由で。ずっとその思いを持ち続けていたんです。

そんな中、インテリアショップの仕事で伝統工芸に触れる機会がありました。末長く使い続けられるものを作る技術や素材って、素晴らしいなと。でも、日本には、そういった素晴らしいものが沢山あるけれど、今のライフスタイルに合うようにアップデートされていないんじゃないか? とも感じて。

そこで、私がもともと素地として持っている「ファッション」という表現方法と伝統工芸を掛け合わせて、ブランドを作ってみようと思いました。

—伝統工芸品を生活に取り入れるのは少しハードルが高く感じますが、ジュエリーになると手に取りやすくなりますね。

岡部:伝統工芸って、「高貴で特別なもの」というイメージですよね。でも、昔はもっと身近なものだったんです。
ジュエリーに落としこむことで、今のライフスタイルに溶け込むような形で、身近な存在になったらいいなと。そう思って、製作をスタートしました。

本質からぶれず、伝統工芸の良さをそのままジュエリーに

—「HiN」のファーストコレクションで、伊万里焼を選んだのはなぜなんでしょうか。

岡部:伊万里焼が作られている佐賀県伊万里市の周辺は、有田焼や波佐見焼など陶磁器の産地として有名なエリアで、産地に足を運んだ時に、ものづくりに対する熱量を強く感じたんです。

どの窯元さんも、ものすごく熱心に案内してくださって。どうしてこんなに熱心なんだろう? と思って聞いてみたら、「1人でも多くの人に産地のことを伝えていきたいから」と。
先祖代々伝わるものをなんとか後世に繋いでいきたい……という思いを強く感じて、この産地のものづくりを伝えるお手伝いができたらと思いました。

—その中で、畑萬陶苑を選ばれた理由は?

岡部:畑萬陶苑は、海外のブランドとコラボ商品を作るなど、現代のライフスタイルに合うような提案を積極的にしている窯元なんです。ブランドを立ち上げる前から知っていて、「面白い取り組みをいろいろとしているな」と気になっていました。
HiNが今後目指していきたい方向性をまさに体現していて、ぜひ一緒に商品を作りたいと思い、企画をご一緒するに至りました。

畑萬陶苑

—伝統工芸をジュエリーに落とし込む中で、どんな点に気をつけましたか。

岡部:「本質を損なわないこと」を大切にしました。
いい物を見ると、感動しますよね。感動を感じた部分が、その物の本質なんじゃないかな、と思っていて。「何に感動したのか」を自分の中で明らかにして、本質からぶれずに、良さをそのままジュエリーに落とし込みたかったんです。
そのためには、産地の素材や技術をなるべく生かしたほうがいいと考えました。桔梗皿、木瓜皿など既存の製品をモチーフにデザインを考え、絵付のシリーズには、伊万里焼の伝統的な紋様「牡丹」を取り入れています。

—実物に触れてみて軽さにすごく驚いたのですが、これは実用性を考えて素材を変えたわけではないんですね。

岡部:そうなんです。軽くて形がシャープなのが、畑萬陶苑の陶磁器の特徴で。そこがジュエリーにうまくマッチしました。
でも、素材や技術をそのまま使ったとはいえ、普段作っているのとはまったく違う物なので、なかなかうまくいかないことも多くて。

—うまくいかないというのは、たとえば?

岡部:形によっては、焼いたあと変形してしまうこともあるんです。最初にジュエリーの型を作る前段階で、こんなデザインにしたいと職人の方に相談して、「この形だと焼いたときにゆがんでしまう」「ここの厚みは取ったほうがいい」など、細かくやり取りをしながら形にしていきました。

左:「桔梗/Kikyou Necklace」の型/右:完成品

職人は、背中で語る。作業に打ち込む畑萬陶苑の職人

思い通りにならないのが、伝統工芸の良さ

—「HiN」のWebサイトでは、商品の写真とあわせて、職人の方の写真も多く使われていますよね。産地のものづくりを伝えたい、という思いを感じます。

岡部:産地の風景も見ていただきたい気持ちはすごくありますね。
gift_lab GARAGE」でHiNの初めての展示会をした時には、ジュエリーと一緒に産地の写真も展示したんです。カメラマンの写真展も兼ねようと思って、インスタレーションのような感じで。
そうしたら、意外と男性も関心を持ってくれて。ただ物を見せるだけではない切り口で、産地のことを伝えられたんじゃないかと思います。

清澄白河「gift_lab GARAGE」にて開催した、「HiN」展示会の様子

—伝統工芸のどんな部分に、魅力を感じていますか?

岡部:物に時代ごとのストーリーが詰まっているところです。今は伝統工芸だけど、できた当時は新しいものだったはずで。時代の流れとともにいろいろなストーリーをまとって、今に続いている。そこが素敵だなと思います。

あとは、写真よりも実物のほうが格段に美しいのも魅力です。今って、画像の加工技術が上がっているので、どんなものでもそれなりに見栄え良く見せることができますよね。でも、伝統工芸品を目の前にすると、どうやっても実物の良さにはかなわないんだ……と改めて感じます。

—私も「HiN」の実物を見た時、感動……と言うと大袈裟ですけど、それに近いような感情が湧いたんですよね。「うわぁ〜〜すごい!」みたいな。語彙が乏しくて恐縮ですが(笑)

岡部:そう言っていただけるのは嬉しいですね。商品開発で伝統工芸と向き合う中で、物が持つエネルギーや、物から受ける癒し……みたいなものをすごく感じました。これって、今の時代ではなかなか得られないものだなと。

—「物が持つエネルギー」って、どこから来ているんでしょうね?

岡部:うーん……人の思い、ですかね。あとは、自然と向き合いながらひとつひとつ手で作っているものなので、そこから来ているのかな、とも。
たとえば「青磁(せいじ)」は、灰と土石を混ぜた釉薬「青磁釉」で色付けをした陶磁器のことを指しますが、産地や窯の温度、季節など、条件が変わると色が異なるんです。

こちらが青磁。美しい青緑色

岡部:「この色にしたい」と思ってもそうなるかわからないし、全く同じ色を作るのも難しいそうで。工芸って、思い通りにならないんですよね。そこも含めて受け入れて、ものづくりをされていて。すごくいいなと思いました。

—機械で大量生産されて安価で売られている物との違いは、そういったところから来ているのかもしれませんね。

岡部:HiNの商品も、商品によって釉薬の塗り具合が少しずつ違うんです。偶然の出会いを楽しみながら、手に取っていただけたら嬉しいですね。

塗りむらは手仕事の味。量販品にはない風合いを楽しんで

日本の素晴らしい技術を、海外にも伝えたい

—次回以降のコレクションの予定は決まっていますか?

岡部:織物でジュエリーを作る予定です。産地もほぼ決まっていて、今製作を進めています。
詳細が決まったら、公式サイトFacebookInstagramでお知らせしますので、ご興味を持っていただけた方はぜひチェックしていただけると嬉しいです!

—陶磁器とは全く違った雰囲気のジュエリーになりそうですね! ブランドとしての今後の展望や目標は、どのように考えていますか?

岡部:今後は海外にも商品を展開していきたくて、新しい商品の開発と並行して進めていく予定です。日本の素晴らしい技術を、海外にもっと伝えていきたいと考えています。
その一環として、「COREDO室町テラス」に日本1号店をオープンした、台湾発のカルチャー体験型店舗「誠品生活日本橋」と一緒に商品を企画しました。個数限定で2019年12月末より展開しています。

HiN×誠品生活 コラボ商品(個数限定、売り切れ次第終了)

—既存の商品とはまた雰囲気が違いますね。台湾っぽさが出ていて、こちらも素敵です!

岡部:「誠品生活日本橋」は、日台交流の場になるような売り場づくりをしたい、という思いがあるそうです。他国の文化との交わりから新しいものが生まれるって、いいですよね。
海外の方にもHiNを通じて、日本の伝統工芸を知っていただけたら嬉しいです。

—「HiN」の今後の展開、楽しみにしています。本日はありがとうございました!

「日本のモノの品格」を伝えるジュエリー

「HiNのジュエリーを付けると着物を着たような感覚になる、とお客様に言っていただけたことがあって」

と、嬉しそうに語る岡部さん。HiNを購入したあるお客様から、着物を着た時のように、背筋がピンと伸びる気持ちになる……と感想をいただいたそう。

ブランドネーム「HiN」には、「日本のモノの品格」という意味が込められています。岡部さんの「日本の品格や日本人としての美意識を表現したい」という思いがHiNのジュエリーを通して人々に伝わり、伝統工芸が多くの人にとって身近な存在になったらいいなと感じました。

ひとつひとつ違った表情を見せる、美しい伝統工芸ジュエリー。写真だけでは良さをお伝えし切れないので、ぜひ実物を見ていただきたい……!
取扱店舗は公式サイトからチェックできますので、お近くに店舗がある方はぜひ一度足を運んでみてくださいね!

HiN 基本情報

公式サイト: https://hin-design.com/
Facebook: https://www.facebook.com/jewelry.hin/
Instagram: https://www.instagram.com/hin_jewelry/

書いた人

浅草出身のフリーライター。街歩きや公園でのんびりするのが好きで、気が向くとふらりと散歩に出かけがち。趣味はイラスト、読書、写真、純喫茶めぐりなど。 レトロなお出かけスポットを紹介するWebマガジン「てくてくレトロ」を運営しています。