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Craft
2020.02.19

シーボルトもうっとり!伝統工芸士に聞いた、箱根寄木細工ができるまで

この記事を書いた人

なかなか開かないひみつの箱。緻密で複雑な模様を描いていて、ぬくもりのある手触りで…。女心のことではないんです、今回は箱根の寄木細工のお話。

寄木細工に魅せられて、箱根・畑宿へ

美しい幾何学模様の描かれた箱には、一見ふたがありません。でも手で探っていくと、側面がほんの少しだけ動きます。手がかりになる場所は模様にカムフラージュされていて目ではちょっと分かりません。手の感覚を頼りに反対側を数ミリ、上側を数センチ…とちょっとずつ動かしていくと、するりと開きます。不思議!
これは日本の伝統的工芸品、箱根の寄木細工を代表する「ひみつ箱」。手の込んだからくりと美しい幾何学模様があいまって、江戸時代から日本人の心をひきつけてきました。

日本の美術品や工芸品を多く海外に持ち帰ったシーボルトも、江戸参府紀行の中で「日本人の本当の趣味を表している」と記した箱根の寄木細工。
その歴史は今から200年ほど前の江戸時代後期にさかのぼり、旧東海道の畑宿で石川仁兵衛(いしかわにへえ)という人がはじめたと伝えられています。
畑宿にある寄木細工の工房「浜松屋」を訪ね、7代目にあたる伝統工芸士の石川一郎さんにお話を伺いました。


お店の2階が「見える工場」になっていて、寄木細工がどんなふうに作られるかを見せてもらうことができます。

箱根の寄木は無着色って、知っていた?


工房でまず目を引かれたのは、鍵盤のように並んだ色とりどりの木々。
実はこれが箱根の寄木の特徴その1。白、茶色、黄色、こげ茶、紫…天然の木の色合いをそのまま使って、美しい模様を描き出しているんですって。これは箱根の山々がいかに多種多様な木々に恵まれていたかという証でもありますね。

ただし、現在では箱根の山は国立公園に指定されているため、勝手に木を切ることはできません。そのため日本中から、また海外からも材料となる木を集めているのだそうです。

変わった名前の木を発見!
「けやき神代」のように木の名前に神代がついているものは、川の底などから見つかった何百年も前の埋もれ木のことなのだそう。寄木細工にそんな貴重な木が使われているなんて、知りませんでした。

手品のように描かれる幾何学模様

箱根の寄木細工の特徴その2は、木を長いまま寄せてくっつけ、模様を作る技法です。
「薄い板を斜めにのこぎりで切って、裏返しにして同じ角度で切ると二等辺三角形の細い棒ができる。これを2つ接着剤でくっつけるとひし形ができる。3つくっつければ三角形にもなる。」
石川さんの手の上で細い棒がどんどん形を変えていくその速さは万華鏡のよう。

「これをひもで巻いて、接着剤が乾いたら3センチくらいの長さに切る。そうすると金太郎あめみたいに同じ模様がいくつもできる。これを並べれていくとほら、箱のような大きな模様を作ることができる」と石川さん。


この大きな模様材のことを種木(たねぎ)というのだそう。

紙のように薄く削る技術「ズク貼り」

箱根の寄木細工の最大の特徴はここから。
この3センチほどの厚さの種木からそのまま箱などを作るのではなく、幅の広いかんなで紙のように薄く削って、貼り付けて使うのです。

「こんなに薄くけずるんですかとよく驚かれるけれど、硬さの違ういろいろな木を寄せているから厚く削るとかえってバラバラになったり、反ったりする。この薄さのものを貼るからこそ、二度と離れない強度が出せる」と石川さんはいいます。

薄く削った寄木を「ズク」といい、木の箱などに貼りつけて使うことから「ズク貼り」とよばれる技術です。

寄木細工は気の遠くなるような手間と、高度な技術で作られていた!


この美しい模様…木で描かれていると知ってはいたけれど、まさかこれほど細やかな技術で作られていたとは!
ちなみに寄木の模様には「麻の葉」や「鱗」、「亀甲」のような和の伝統模様もあれば、工房ごとに代々受け継がれる模様、職人が工夫したオリジナルの模様もあるのだそう。木の色づかいにも好みが出るので、見る人が見れば模様だけで作った人か分かることもあるといいます。

戦後に生まれた新しい寄木「無垢」

箱根の寄木にはズク貼りのほかに、もうひとつ「無垢」という技術があります。
これは寄木の塊からそのままお皿などを削り出していく方法で、戦後の接着剤の進化とともに実用化されたそう。

ロクロを使って種木から削り出す無垢の作品は、外側だけでなく内側にも美しい模様が出るのが特徴。ズク貼りとはまったく違う表情を見せてくれます。
写真の下側が削り出す前の状態。上のお皿のように削り出すと、半分以上が削りくずになってしまいます。そのためズク貼りより無垢の作品のほうがどうしても価格が高めになってしまうのだそう。

「木象嵌」も箱根うまれ


また、厳密には寄木の一種ではないものの、明治になって木工ミシン(糸のこぎり)が登場してから箱根で生まれたのが木象嵌(もくぞうがん)という技術です。これは種類の違う木を木工ミシンで切りぬき、はめ込むという方法で作られているのだそう。

石のひとつぶ、髪の毛ひとすじ、細い文字もすべて木を切り抜いてはめ込まれていると聞いて、思わず2度見してしまいました。

お土産物から日本の伝統的工芸品へ

江戸時代後期に箱根でうまれ、温泉客や旅人のお土産として評判になった寄木細工。約200年の伝統があり、現在では日本の伝統的工芸品に指定されています。
伝統工芸士の石川さんは、「昔は模様がちょっとずれているようなものも売られていたけれど、今ではそういった商品は見かけなくなった。伝統的工芸品の指定を受けて、近年、箱根の寄木の技術がより高まっていると感じている」と話します。

一方、最近は寄木の模様をプリントした安価なお土産物も多く販売されています。
石川さんは作品を手掛ける傍ら時間の許すかぎり工房に座って、訪れる人に伝統的な寄木細工の作り方を話し、見てもらうようにしているのだそう。
わたしが伺っているときにも、お子さんにはやさしく、また工芸の知識がある方にはくわしくお話をされていたのが印象的でした。

箱根の寄木細工発祥の地、畑宿には今も工房が並び、歴史のある作品やほかではあまり見られないような大きな作品、凝った作品を見ることができます。
浜松屋にはA4サイズの大きなひみつ箱や、もっと大型のからくり箪笥もありました。

「からくりの説明は店員にお尋ねください」と書かれていたからくり箪笥。実用品としてセキュリティに配慮されているんだなと気がついたのは、お店を出た後のことでした。
美しくって手が込んでいて、見ているだけでわくわくします。いつか欲しい!

浜松屋 基本情報

店舗名:浜松屋
住所:〒250-0314 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿138
営業時間:9:00~17:30
定休日:年中無休
公式webサイト:http://www.hamamatsuya.co.jp/

書いた人

岩手生まれ、埼玉在住。書店アルバイト、足袋靴下メーカー営業事務、小学校の通知表ソフトのユーザー対応などを経て、Web編集&ライター業へ。趣味は茶の湯と少女マンガ、好きな言葉は「くう ねる あそぶ」。30代は子育てに身も心も捧げたが、40代はもう捧げきれないと自分自身へIターンを計画中。