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2019.05.22

板谷波山、近代陶芸を革新した巨匠の「目からウロコ」の展覧会 茨城県天心記念五浦美術館

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まるで絵画のような板谷波山の陶芸作品

端正で格調高い芸術的作品を数多く手がけた陶芸家・板谷波山(いたやはざん)。

アール・ヌーヴォーをいち早く取り入れ、日本の伝統を洗練させ、陶芸家として初の文化勲章を受けた巨匠の展覧会が6月7日~7月15 日、茨城県天心記念五浦(いづら)美術館で開催されます。

近代日本の陶芸をリードした作品の魅力から人となりまで、板谷波山をじっくり味わうことができる絶好の機会です!


「葆光彩磁赤呉須模様鉢」 大正5(1916)年 茨城県陶芸美術館蔵

陶芸家で最初に文化勲章を受けた、
板谷波山とは

明治5(1872)年、茨城県下館市(現・筑西市)に生まれた板谷嘉七(波山)は、明治22(1889)年に東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻科に入学。校長であった岡倉天心から創造性を、高村光雲から彫刻を学びます。

卒業後は、西洋の窯業技術を取り入れ実験や研究を行っていた新設校・石川県工業学校の彫刻科主任教諭となり、新しい釉薬の研究などに着手。明治36(1903)年に東京・田端に築窯したことを機に、故郷の筑波山にちなんで波山と号し、陶芸家としての活動を本格的に始めたものの、経済的な理由から東京高等工業学校窯業科の嘱託教師を兼務。教え子には民藝運動で名をなした河井寛治郎や濱田庄司らがいました。

やがて完成した初窯の作品により、波山はたちまち陶芸界の寵児(ちょうじ)となります。その特徴は、アール・ヌーヴォーや東洋の伝統意匠を踏まえた独創的な図案と、釉薬の下の素地に直接絵の具をしみこませる「葆光彩磁(ほこうさいじ)」の手法にありました。

独創的な図様の「葆光彩磁」

「葆光」とは光沢を隠し、物の輪郭をやわらかく薄く描くことを意味する言葉で、独特のつや消し釉を用いて淡く幻想的な色彩を描き出した作品は、まさに画期的なものたったのです。

以後も波山は「芸術作品としての陶芸」の創造に全身全霊を捧げ、かずかずの公募展への出品・受賞を重ね、昭和28(1953)年には陶芸家としては初の文化勲章を受章。創作と陶芸に情熱を傾けた人その生は、昭和38(1963)年に幕を下ろしました。


「葆光彩磁孔雀尾文様花瓶」 大正3(1914)年ごろ 茨城県陶芸美術館蔵

板谷波山の美しき陶芸にふれられる「近代陶芸の巨匠 板谷波山展」

伝統的な技法を洗練させ、新たな表現方法の研究によって、端正で格調高い作品を数多く手がけ、近代日本の陶芸界において指導的な役割を演じた板谷波山。国内外の人々を魅了した、典雅な美しさに満ちた作品を目の当たりにすることができるのが本展の第一の魅力です。

さらに、作品のみならず、東京美術学校時代の課題画とともに当時の授業内容がわかる展示や、波山の同窓で卒業後は国宝の仏像修理保存に携わった新納忠之介と交わした書簡などで、親友との交流の様子や当時の生活の一端を垣間見ることができるのも特徴です。


「青磁鳳耳花瓶」 昭和19(1944)年 茨城県陶芸美術館蔵

「近代陶芸の巨匠 板谷波山展」

会期 2019年6月7日(金)~7月15 日(月・祝)
会場 茨城県天心記念五浦美術館 展示室A
住所 茨城県北茨城市大津町椿2083
休館日 月曜(7 月15 日は開館)
開館時間 9:00~17:00(入場は16:30まで)
入場料 一般310円、満70 歳以上150円、高大生210円、小中生150円
茨城県天心記念五浦美術館 公式サイト


「彩磁延壽文花瓶」 昭和11(1936)年ごろ 茨城県陶芸美術館蔵

書いた人

昭和のころからファッション雑誌の編集に携わり、重ねたキャリアだけは相当なもの。長らく渋谷の隣駅(池尻大橋)近くに住んでいたが、諸事情により実家(福岡県飯塚市)に戻る。以後もライターの仕事に携わることができ、現在2拠点生活中。LCCの安さに毎回驚きながら、初めて住んでみた人形町・日本橋エリアでの生活が楽しくて仕方がない!