囲炉裏の中、シュンシュンと湯気を出す、黒々とした鉄瓶……。どこかで一度は見たことはある光景ではないでしょうか。鉄瓶とはその名の通り、鉄製の容器。火に直接かけて使うことができます。電気ポットやケトルが安価で手に入る現代。かつてはどこの家庭でも見られた鉄瓶も滅多に見られないものになりました。
しかし鉄瓶には約350年、日本で愛されてきた歴史とそれだけの理由があるのです!「気になっていた」という方、ぜひこの機会に歴史や良さを知って、鉄瓶を使ってみませんか?
始まりは茶の湯から?鉄瓶が産まれて、伝統的工芸品になるまで
鉄瓶の歴史は古く、その原型は茶の湯の釜とほぼ同時期に産まれていたようです。室町時代の絵巻物『掃墨物語絵巻』(徳川美術館所蔵)でも、既に存在が描かれています。14世紀~15世紀ということは、大体600年ほど前でしょうか。当時の名前は「手取り釜」。まさに釜に取手をつけ、底に三本足があるものを薬用に使っていたようです。
岩手県で作られる「南部鉄器」の誕生は18世紀、1750年ごろのこと。鉄瓶と言えばまずこれが思い浮かぶ方も多いのでは?良質な鉄が取れた南部藩では、茶の湯に造詣が深かった藩主のもと、京都から職人を招きました。その釜職人・三代小泉仁左衛門が作ったものが南部鉄器の主だったはじまりと言われています。
鉄瓶はその後日本全国に広がっていきました。今も時代劇や歌舞伎の舞台で鉄瓶の姿は欠かせないですよね。明治や大正時代まで来ると、鉄瓶のある風景はすっかり日常となっていたようです。鉄がなく、製作もほとんどできなかった戦時中を経て、戦後、生活の洋式化が起こるまで、鉄瓶は人々に常に寄り添った存在でした。
鉄瓶の主な生産地
有名な鉄瓶の生産地はいくつか点在しています!先ほど説明した「南部鉄器」は、三代が造りだし、四代仁左衛門によって発達していきました。現在では中国やフランスなどで評価が高まり、何年も予約待ちしている人もいるのだとか。盛岡市のほか、水沢市でも作られていて、「伝統的工芸品」として認定も得ています。
「山形鋳物」はその名の通り山形の鉄瓶。平安時代、山形市内の川から鋳物に向く土が採れることを鋳物師が発見したことから始まりました。江戸時代は修験道で知られた出羽三山への参詣人向けのお土産である仏具や日用品を作り、職人を優遇。明治時代には鉄瓶や茶釜など、茶の湯と縁ある鋳物が作られるようになったそうですよ。
「三条釜座」は、今も名を残す京都市「釜座通」に住んでいた鋳物師たちによる鉄瓶のことです。このあたりには平安時代から釜師と呼ばれる鋳物職人がいたのだとか。鐘や擬宝珠といった神社仏閣にちなんだ鋳物を作っていましたが、茶の湯の発展と釜の製作でも一躍有名に。
「龍文堂」という、今はほとんど失われた鉄瓶の種類もあります。京都の職人が蝋型鋳造を発案して作られた鉄瓶のことです。呼び名はそのまま、お店の屋号。蝋で原型を作ってから石膏などで鋳型を作ることで、より滑らか華やかな装飾が可能になりました。
夏目漱石の『吾輩は猫である』にも登場するんです!明治や大正時代、高級品として愛されていたようで、そのぶん、骨董品の偽物も出回っています。現在は主に「龍文堂」を写したものが作られていますよ。
お手入れが面倒くさい?実はサビが生えていいんです!
興味があるけれども鉄瓶って手入れが大変そう……と思われた方、実は鉄瓶は意外と「ズボラ」で大丈夫です!むしろ洗剤などで洗わないほうが良いのだそうですよ。というのも、鉄瓶は大抵、サビ止め処理が施してあります(※)。洗剤やたわしなどでごしごしこするとはげてしまい、サビの原因に。昔から鉄瓶の内部は洗ってはいけないと言われています。湯垢で内部が真っ白になるくらいがおいしいお湯が飲めるのだとか……!
沸かしたお湯を入れておくのは避けましょう。残ったお湯は保温びんなどに移し替えるのがおすすめです。空にしたあとふたを開けて乾燥させておけば充分だそうですよ。ほんの少し空焚きをして内部の水分を飛ばすとより◎火から離れないようにしてくださいね。しまう場合は、新聞紙でくるんで日陰に保存するのが良いようです。
最初に使うときは2~3回すすぎ、一度お湯を沸かして捨てましょう。また、使ううちに赤サビが生じる場合も多いですが、こちらも心配ご無用です。沸かしたお湯が赤くならない限りは問題なし!どうしても気になる場合は、お茶をお茶パックに入れ、一度煮ましょう。タンニンがサビ止めになってくれますよ。ちなみに薬草やお茶を急須のように直接入れるのはお湯がにごってしまうので避けたほうがベター。
鉄瓶でわかすお湯のここがスゴイ!まろやかでおいしいお湯を飲む生活
鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかでおいしい!一度飲んだ人は驚き、白湯生活にはまる人も続出するそうですよ。実は私も、半年前から鉄瓶生活を始めました。最初は「そんなに違いなんてないでしょう」と半信半疑でしたが、水道水でもこっくりした味わいに。緑茶や紅茶の味もぐっと変わるので、お茶ライフが益々楽しくなりました。
鉄製なので、わずかに溶けだした鉄分を摂れることも人気の秘密。とりわけ女性は鉄分が不足しがちと言われていますし、お湯を沸かすだけで栄養が摂れるなんて嬉しいですよね。電気で使うポットやケトルに比べれば沸かすのに時間がかかりますが、湯気が加湿器代わりにもなってくれます。空焚きだけは注意してくださいね。私一回やりました……。
沸かしたお湯でおみそ汁を作るのもおすすめ。さましたものを、お米を炊くのにも使ってみました。鉄分が入っているせいか若干固めな仕上がりになったので、次回はお米をふっくらさせると噂のはちみつを入れてトライしたいと思っています。
あれはどうかな?これも合いそう!と活用法を考えるのも楽しいですよ♪
鉄瓶の使い方として、ストーブの上に置いて湯気を楽しむこともよくおすすめされています。昔の日本人も鉄瓶越しに会話を楽しんだのかしら?と歴史に思いを馳せるとのもまた幸せな時間。
鉄瓶ライフ、ぜひ始めてみてください♡
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