進むべき方向に迷ったときや何かにつまずいて悩んでいるとき。占いの本やWebを開いたり、神社でおみくじを引いたりするという人は少なくないのではないでしょうか。
それは、何百年も前の日本人も同様だったのでしょうか?
おみくじのルーツのひとつ!「歌占」ってなんだ?
「歌占(うたうら)」という和歌のおみくじがあります。「歌占」という言葉を初めて聞いた方も少なくないかもしれません。歌占は江戸時代まで広まったものの、その後廃れてしまって一般的なものではなくなってしまったからです。
現代のおみくじは吉凶を占うものがほとんどですが、おみくじのルーツの一つとされる「歌占」は、もともと神様のお告げとしての和歌を示すものでした。
古来、日本の神様は和歌を詠むと考えられていたのです。『古今和歌集』仮名序には、最も古く歌を詠んだ神様がスサノオノミコトであることが記されています。
2015年に「歌占」は、室町時代から伝わる、弓から一枚の短冊を引く形式で蘇りました。
現代に復活した「歌占」は、「ときわ台天祖神社」と成蹊大学平野多恵教授との共同プロジェクト。おみくじの中身は新しく作られたものではありますが、その引き方は室町時代~江戸時代の歌占を踏まえています。
2020年12月26日には、歌占に新しい神様が加わって奉納が行われました。
その場に訪れ、平野教授にもお話を伺ってきました。
室町時代の人は占い好きだった!
日本における占いは、卑弥呼の時代からあったとされます。その後、平安時代には陰陽道が盛んになったことはよく知られている通りです。
さらに時代が下って室町時代になると、日本最古の学校施設「足利学校」が開校し、そこで教えられる学問には、易学も含まれていました。易学を学んだ者たちは戦国武将に仕えて戦況を占ったようです。
また、室町時代の人々は、日々の行動を占いに頼ることが多かったともいわれています。
医学も気象学も発達していなかった時代、人々が占いなどに頼っていたことは想像に難くありません。易学や、平安時代から続く陰陽道、また風水のようなものが用いられていたようです。
その中で、歌占がどのように使われていたのかは、専門家による研究が進められているところです。
歌占の形式を知るには能楽『歌占』がオススメ
占いの「歌占」はどういう形式で行われていたのか?
これを知るための史料となるのは、世阿弥の長男、観世元雅(かんぜもとまさ)作の能『歌占』です。
能『歌占』のシテ(主人公)は、歌占を行いながら諸国をめぐっています。その腕を聞きつけたとある里人が、父親を捜している幼子を連れてシテの元を訪ねます。里人は、自分自身のことと、幼子の父親のことを歌占で占ってもらって……という話。
このシテは、複数の短冊を付けた弓を携えています。里人の問いは、各短冊に記された神様の詠った和歌で判じられるのです。
「能の『歌占』と同じ様子が、江戸時代に出版された本に描かれており、弓の短冊に記されたという和歌も伝わっていますので、実際に弓と和歌の短冊を用いて占われていたのだろうと推測できます。葛飾北斎も、歌占の絵を残しています」と、平野教授。
歌占を体験できる「ときわ台天祖神社」
ときわ台天祖神社は、東武鉄道東上本線のときわ台駅から徒歩1分。深い緑に囲まれて静かなたたずまいを見せています。
この神社がいつできたものなのかは記録がないそうですが、伝承では鎌倉時代、御深草天皇の頃に伊勢神宮でお祭りされている天照大御神を勧請したという説と、現在の天祖神社周辺に天照大御神が現れた「影向跡(ようごうあと)」があり、そこに伊勢神社を勧請した説があります。
ときわ台天祖神社には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)、豊受姫命(とようけひめのみこと)、大山咋命(おおやまくいのみこと)が祭られています。
その歴史ある神社に歌占が復活したきっかけは、天祖神社の小林美香宮司と平野教授の出会いでした。おみくじ研究の第一人者大野出氏が代表とするおみくじの共同研究に、女性神職の研究者でもある小林宮司と平野教授がメンバーとして参加されていたのだとか。
天祖神社と平野教授の成蹊大学プロジェクト型授業のコラボレーションで、まずは天祖神社の御祭神と天祖神社が所蔵する大絵馬「天岩戸開」をもとに13首。その翌年には3首加わり…と追加されていき、昨年12月に2首加わったことで、今は20首がそろっています。
歌占はどのように引くの?
1. 神様のご加護を祈り、呪歌(じゅか)を唱えます。
「ちはやぶる 神の子どもの集まりて
作りし占(うら)ぞ まさしかりける」
2. 占いたいことを具体的に思い浮かべながら、弓の短冊を1枚選びます。
引いた短冊に記された神様は、守り神の名前です。その神様の歌占を受け取ります。
3. 歌占に記された和歌と説明から、神様のメッセージを受け取ります。
歌占はここで終わりではありません。
4. 歌占によって縁が結ばれた神様に参拝します。
それぞれの神様が祭られた場所は、天祖神社の公式ウェブサイトで確認できます。いずれも天祖神社内またはその近辺にあるので、歌占を引いたら必ずお参りして行ってください。
平野教授によると「最初に呪歌を唱えるのは、神様に祈りの気持ちを伝えるのと同時に、これから占うことを自分の気持ちに寄せる働きもあるんじゃないかと思っています。そうすることで、占いの内容もより深く自分に響くのではないでしょうか」。
2020年に新しい神様が加わった!
玉串を捧げる平野教授
冒頭でもお話しましたが、昨年12月26日に、歌占に新しい神様が加わりました。
歌占プロジェクトでは、天祖神社側で神様を選定し、小林宮司と相談しながら、平野教授とプロジェクトメンバーの大学院生とでその神様にふさわしい和歌をつくって解説をつけます。この作業には、1枚あたり2カ月を要したとのことで、「神話などの関連資料をじっくり読み込み、古典和歌のデータベースを調べながら、ご神徳にふさわしい和歌を考えるので時間がかかります」と平野教授。
奉納では、宮司が祝詞をあげて和歌を読み上げ、平野教授らが玉串を捧げました。
歌占は、ここで人間の作ったものから神様のものになるのです。
奉納祭で供えられていたお花は、「随想花家 千花物語」主宰の奈良美代子さん作。天岩戸神話で芸能の女神アメノウズメがたすき掛けにしていたヒゲノカズラや、太陽の神を創造させるユズなどが
今回新しく加わった神様は、「大日孁貴(おおひるめのむち)」と「大宮売神(おおみやのめのかみ)」。天照大神とその侍女です。それぞれの神様のメッセージは、ぜひ歌占を引いて確認を!
東京まで行けない……そんなときは
ときわ台天祖神社まで足を運ぶことができない人にもできる歌占の疑似体験ありませんか?と、平野教授に尋ねてみました。
「歌占のサイトが今年1月1日にリニューアルしたので、そのページから神様のメッセージを読んでみてください。それから、近くの神社でおみくじを引いたときは、吉か凶かで一喜一憂するのではなく、神様からのお告げである和歌もよく読んでみていただければ……」。
ときわ台天祖神社 基本情報
神社名: ときわ台天祖神社
住所:174-0072 板橋区南常盤台2-4-3
受付時間:9:00~17:00
公式webサイト: https://www.tokiwadai-tenso.com/