Culture
2021.11.13

ビールなのに健康に良さそう!6種の沖縄野草を使用した「ムイヌグスージ(森のお祝い)」に込められたもの

この記事を書いた人

沖縄に移住してきて「月桃(げっとう)」という馴染みのない言葉をよく目や耳にするようになりました。月桃とは沖縄に自生する野草の一種。緑色のつやつやとした大きな葉が特徴で、公園や庭先、そして道端などいたるところで思う存分その葉を広げています。

月桃の香りは、スパイシーで甘やか。その独特の芳香成分には抗菌や防腐作用、抗酸化作用などが期待できるため、虫よけ、整腸剤などといった薬草としてや、カビ除けなどとして古くから使用されてきました。

驚くのはその使用幅がとても広いこと。月桃茶や月桃の石鹸、月桃クッキーにアイスクリームなど沖縄では様々な場所でその名前を見かけます。

沖縄の人々のくらしのすぐそばにある月桃ですが、その姿を最も目にするようにするのは旧暦12月8日の「ムーチ―の日(邪気払いや健康祈願の年中行事)」にかけて。この日は月桃に包んだ餅「ムーチ―(鬼餅)」を食べるので、ムーチ―だけではなく、ムーチ―を作るための月桃の葉がスーパーなどにも大量に置かれるようになり、あちらこちらで月桃が主役になるのです。

月桃など6種の沖縄野草を使用したビール

そんな月桃はクラフトビールにも使用されています。そのビールの名前は「ムイヌグスージ(森のお祝い)」。沖縄県沖縄市のブルワリー「クリフビール」が造る、月桃をはじめ、リンゴアザミ、アシタバ、桑の葉、長命草、センダングサという6種の野草を使ったビールです。

月桃が入っているということは、あの独特の香りがするのだろうか?野草が6種も入っているということは、やはり苦みがあるのだろうか?

少し身構えながグラスに注いでみると、漂ってくるのは柔らかでフルーティな香り。口に含むと、優しいあまみがゆっくりと広がっていきます。麦のあまみに、おそらくリンゴアザミ由来であろうフルーティなあまみ。それらが幾重にも重なり、ストンと喉の奥へと滑り落ちていくのです。そして一拍置いて現れるのは、腹の底から湧きあがってくるような不思議なパワフルさ。これはまさしく「森のお祝い」!

野草とは摂取することで、身体の中からこんなにも力強く主張してくるものなのか……。

「ムイヌグスージ(森のお祝い)」の余韻に浸りながら野草について考えていると、沖縄に来て以来、月桃以外にも様々な野草と出会うことが多かったことに気づきました。ソバや、ジューシー(沖縄風の炊き込みご飯)にたっぷりと入ったフーチバー(ヨモギ)。道の駅に行けば、棚にずらりとならぶ長命草やニガナ等。

いままではなんとなく見ていたそれらは、「ムイヌグスージ(森のお祝い)」を飲むことによって一気に身近な存在として色づき始め、「もっと野草のことを知りたい!」という想いへと変わっていきました。そこで沖縄野草について知るべく「ムイヌグスージ(森のお祝い)」醸造に関わったお二人、クリフビールのオーナーである宮城クリフさん(以下クリフさん)と、沖縄野草の第一人者であり、やんばる野草の宿経営ややんばる野草酵素シロップを作っている森岡尚子さん(以下尚子さん)にインタビューをさせていただきました。

野草と向かい合い、1年かけて造り上げた味わい

ーーはじめに「ムイヌグスージ(森のお祝い)」が生まれたきっかけを教えてください

クリフさん:オーガニック専門店の「てんぷすさん」からの企画で、沖縄野草を使ったビールを造ろうということになったのがきっかけです。野草に詳しい尚子さんが野草を選定、そしてそれらを使用してわたしがビールを醸造するということになりました。

宮城クリフさん(真ん中)

尚子さん:野草はわたしがはじめに12種類ほど選定をし、その香りや味わいを確認しながらクリフさんが6種類ほどに厳選した形です。

森岡尚子さん

ーー「ムイヌグスージ(森のお祝い)」に入ってる6種の野草、月桃はわかるのですが、それ以外のイメージがつかないので詳しく教えてください

尚子さん:まずセンダングサ(タチアワユキセンダングサ)ですが、これは外来の繁殖力の強い雑草です。この野草は厄介もの扱いされていますが、実は薬効が強くカルシウムや鉄分、ケイ素を豊富に含みます。セリや三つ葉のような味わいで、おひたしやてんぷらにしてもおいしいですよ。桑の葉は抗酸化作用が強いスーパーフード。お茶などでよく見かけると思います。リンゴアザミは、その名の通り見た目がアザミのようで、リンゴの香りのする野草。ヨーロッパでは熱さましなどに使われますね。

アシタバは漢字で明日葉と書くのですが、その漢字が示すよう、葉を摘んでも翌日には新しい葉がでてくるくらい、生命力の強い野草です。最後に長命草ですが、「食べれば長生きできる」と言われている野草です。これは沖縄ではなじみのある野草で、薬味として使用したり、煮込み料理に使用したりしますね。

ーーそれぞれいろいろな特色があるのですね!これらをまとめてビールに使用するなかで苦労はありましたか?

クリフさん:どのようなビアスタイルにするかが一番難しかったですね(※ビアスタイルとは―原料や醸造方法によるビールの種類のこと)。ビアスタイルによっては野草の特徴が出なかったり、逆に青臭さが全面に出てしまったりしました。使用する野草について尚子さんに相談し、試行錯誤しながらその配合や使用方法を細かく決めていきました。最終的に「これだ!」というものに行きつくまでに1年程かかりましたね。

ーー1年ですか!あの柔らかな味わいはそのようにして生まれたのですね。「ムイヌグスージ(森のお祝い)」では野草はどのように使用しているのでしょうか?

クリフさん:乾燥させ、粉にして調合したものをビールに入れています。麦汁を造る際に入れるのですが、煮沸終わると野草のいい香り、特に月桃とリンゴアザミのあまい香りがいっぱいに広がります。そのまま飲んでもすごくおいしくて、健康になりそうな味わいです。

ーービールを飲むと、野草そのものを身体の中に取り込むことができるということなのですね!お二人は野草と関わる中で、「野草の力」のようなものを感じることはありますでしょうか?

尚子さん:そうですね、野草は身近にあるものであり、その生命力の強さをつねに感じています。

クリフさん:醸造工程で野草の香りが醸造所内に充満するのですが、その時が一番エネルギーを感じますね。あとはおそらく野草によるものなのだと思うのですが、とてもクリーンなビールが出来上がります。

ーー最後に、「ムイヌグスージ(森のお祝い)」の名前の由来やラベルに込めた意味があれば教えてください。

尚子さん:今回のビールのテーマは「ヌチグスージサビラ」(戦後に使われた、命のお祝いをしましょうという言葉)。※ヌチは命、グスージはお祝い、サビラは~しましょうという意味
この言葉からインスピレーションを受けたクリフさんが、「ムイヌグスージ」という名前を付けてくれました。※ムイヌは森の、グスージはお祝いの意味

クリフさん: ラベルはわたしがデザインをしているのですが、野草の冠をかぶったキジムナーの男の子が笛を吹いている様子を描いています。ちなみに冠はビールに入っている6種の野草で出来ています。

「ムイヌグスージ」という名前に込めたのは、森に生えている野草や豊かさが永遠に続くことのお祝いという意味。やんばるの自然に想いを馳せるように飲んでもらえたら嬉しいです。

自然の恵みや森の豊かさをビールに込める

野草文化は世界各地にあります。その中でも沖縄は野草がより人々の生活に入り込んでいる、と尚子さんは話してくれました。

沖縄の自然は力強く、そして優しくわたしたちを包み込むように存在しています。そして沖縄にくらす人々もそこに宿るエネルギーを柔らかに紡ぐように生きているような気がします。

あたりまえにそこにあるようで、決してあたりまえでない数々の美しき恵みたち。やんばるでぐんぐんと育った野草たちを溶かしこみ、宴のような味わいの「ムイヌグスージ」は賑やかなエネルギーで、わたしたちにやんばるの自然を伝えてくれるのです。

クリフビールHP
やんばる野草の宿HP

書いた人

お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター(ただの転勤族)。アルコールはきっちり毎日摂取します。 お酒全般大好物ですが、特に好きなのはクラフトビール。ビール愛が強すぎて、飲み終わったビールラベルを剥がしてアクセサリーを作ったり、その日飲む銘柄を筆文字でメニュー表にしています。 居酒屋の店長、知的財産関係の経歴あり。お酒関係の記事のほか、小説も書いています。