Culture
2019.09.19

蛙や雨を音で演出する「鳴物」って? 歌舞伎を盛り上げる効果音のディープな世界

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一風変わった楽器がたくさん!鳴物の種類

効果音を作り出すことによって、歌舞伎の舞台により臨場感を与える役割を担う鳴物。では、具体的にどのような楽器を使っているのでしょうか?
鳴物の主役は先ほどご紹介した四拍子ですが、今回は7つのユニークな楽器をご紹介します。

蛙(かえる)

写真:東京都江戸東京博物館 / 撮影者:瀬尾直道

蛙の鳴き声を表現し、河原での場面や梅雨季節などを効果的にアプローチするための鳴物。アカガイの貝殻を2枚使って、表面の溝をこすり合わせるようにして音を鳴らします。

雨うちわ

写真:東京都江戸東京博物館 / 撮影者:瀬尾直道

雨の音を演出するために用いられる渋団扇(しぶうちわ)。片面にビーズが付けられていますが、元来は小豆や小石などを使用していたのだそうです。うちわを左右に傾けるようにして振ると、昔の板屋根や番傘に雨粒が打ち付けられるような、パラパラという雨音をリアルに再現できます。

松虫


その名の通り、松虫の鳴き声を表して秋の情景を効果的に演出するほか、刀鍛冶の音や寺院の場面などでも使われる楽器。仏具の一種である伏鉦(ふせがね)と呼ばれる2枚の鉦を、撞木(しゅもく)と呼ばれるバチで鳴らして演奏します。

オルゴール


まろやかに響き渡る幻想的な音色で、蝶が舞うシーンをはじめ、天界の雰囲気を表現したり、美しいお姫様が登場したりするシーンなどで使われる鳴物。垂直にならんだお椀型の鈴(りん)を、バチで叩いたり擦ったりして音を鳴らします。

きしみ


きしみは、二枚の板を支柱に擦り付けるように動かして音を鳴らす楽器です。櫓音(ろのね)とも呼ばれます。キィーッと響く鋭い音は、まさにものがきしむ音。船をこぐ櫓の音や戸の開閉の音のほか、怪談話で不気味な雰囲気を出す時にも使われます。

ガリ時計


持ち手を軸にして勢いよくクルクル回して使うもので、ガリガリという大きな音が印象的。江戸時代、庶民は基本的に街に設置された時の鐘で時間を把握していましたが、大名など富裕層の邸宅には、ゼンマイ式の大名時計というものがありました。ガリ時計は、そのゼンマイを巻く音を表現したもので、大名屋敷のシーンなどで聴くことができます。

駅路(えきろ)


大ぶりのドーナツ型の鈴が3~4個ついた、ずっしりとした重さのある楽器。江戸時代、当時の主要な交通手段のひとつである馬には、首もとに鈴が提げられ、車のクラクションのような役割を果たしていました。この駅路はその音を模したもので、歌舞伎においては馬が行き交う宿場町の場面などを演出する際に使用されます。

音で感じる歌舞伎の世界

写真:東京都江戸東京博物館 芝居小屋・中村座(正面部分)

普段歌舞伎を観に行っても、なかなか目にすることができない鳴物ですが、舞台を構成するうえでは欠かせない名脇役でもあります。観劇する際は、ぜひ効果音にも耳を傾けてみて、新しい歌舞伎の楽しみ方を体験してみてはいかがでしょうか?

また、今回ご紹介した鳴物は、すべて東京都江戸東京博物館のふれあい体験教室で実際に触れることができます。歌舞伎に関する体験以外にも、藍染めやガラス工芸、着物の着付け体験など、さまざまなプログラムが用意されているので、興味のある方はぜひ参加してみてください!

東京都江戸東京博物館ふれあい体験教室
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/event/class/
※事前予約が必要なものもあります

東京都江戸東京博物館

住所:東京都墨田区横網1-4-1
営業時間:9:30~17:30 (土曜日は9:30~19:30)※入館は閉館の30分前まで
休業日:毎週月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日)、年末年始
公式サイト:https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/

書いた人

広島出身。ライター&IT企業会社員&カジュアル着物愛好家。その他歌舞伎や浮世絵にも関心がアリ。大学卒業後、DTMで作曲をしながらふらふらした後、着物ムック本の編集、呉服屋の店長を経て、現在に至る。実は10年以上チロルチョコの包み紙を収集し続けるチロラーでもある。