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2023.04.07

能 狂言『鬼滅の刃』追加公演決定!若手出演者に舞台裏インタビュー!

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2022年に、東京と大阪で上演された「能 狂言『鬼滅の刃』」。原作ファンを中心に大きな反響があり、チケットが入手困難となるほどでした。

チケット争奪戦に負けた!という悲しみの声を至るところで聞きました……。

公演アンケートやインターネットに追加公演を希望する声が多く集まったことから、2023年5月より全国4か所の追加公演が決まりました。昨年に引き続き、シテ方観世流で人間国宝の大槻文藏が監修、狂言方和泉流の野村萬斎が演出を務め、それぞれ敵役の累(るい)や鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじむざん)などで出演もします。

私は、初日前日に行われたゲネプロを観劇して、原作のイメージを裏切らず、また能狂言のスタイルになっていることに驚きました。また竈門炭治郎(かまどたんじろう)役の大槻裕一さんと、我妻善逸(あがつまぜんいつ)役の野村裕基さんが、新しい試みに果敢に挑んでいる姿が、心に残りました。そこで追加公演に先駆けて、大槻能楽堂でお二人にお話を伺いました。

試行錯誤しながら作り上げた作品

ーーお稽古は、どのように進められたのですか?

裕一:通常の能狂言の公演では、申し合わせ※1と言って、一回しか合わせないのですが、今回は新作なので、お稽古を重ねました。台本の形を考えるところからですと、数か月前からになりますね。

裕基:古典が標識がある道路だとすると、新作は自分たちで標識を立てるようなものだと思います。ここで一時停止するとか、スピードはどれぐらいなのかとか、出演者で考えながら感覚を合わせる作業が大変でした。

ーー試行錯誤だったのですね。

裕一:伝統を守りながら新しい能狂言を作るというのがベースになっていますので。実は、ご覧いただいたゲネプロの一時間前までお稽古をしていました。本番が始まってからも、どんどん改良を加えていくような感じで。

左から野村裕基さんと大槻裕一さん
※1:能狂言のリハーサルのこと。各自で稽古をして、申し合わせの後本番となる。

動きで表現する炭治郎の成長

ーー裕一さんが苦労された場面はありますか?

裕一:最初に僕が演じる炭治郎と、裕基君が演じる錆兎(さびと)※2が剣で戦う立ち回りの場面があるのですが、萬斎先生から何度もダメだしがあって。

ーーそれは、どうしてでしょう。

裕一:普段の能では、型を守って演じています。能で刀やなぎなたを使う経験をしているため、上手に見えてしまうと言われました。最初の場面では、まだ炭治郎は修行前で強くないので、後に出てくる立ち回りの場面とは違っていなくてはいけません。下手に見えるように演じるのは、初めての経験でしたね。萬斎先生は、身体の使い方を熟知されている方なので、炭治郎の成長の過程をどうやって動きで表現するかを、学ばせていただきました。

ーー炭治郎の最初の敵「手鬼」との対決も印象的でした。複数の鬼が絡み合う表現が面白いですね。

裕基:あの鬼の装束は、『まちがいの狂言』のややこし隊※3と同じで、武悪4※の狂言面をつけています。演出を務めた父(野村萬斎)のアイデアなのですよ。

竈門炭治郎役 大槻裕一  手鬼
※2:炭治郎の兄弟子。
※3:NHKEテレ『にほんごであそぼ』で、黒装束のキャラクターが「ややこしや ややこしや」と謡いながらコミカルに動くことで知られている。元は『まちがいの狂言』の一節。
※4:目尻の下がった大きな目で、こっけいな表情をしている。鬼・閻魔(えんま)などに用いる。

善逸のキャラクターになりきる

ーー善逸は女性好きという設定ですが、客席の女性に向かって声掛けされてましたよね。あれは、アドリブですか?

裕基:登場してすぐの時ですね。通常の能狂言の公演ですと、あり得ないのですが(笑)。善逸のキャラクターを、お客様にわかっていただくには、ファーストインプレッションが大切なので。ほとんどアドリブで、毎回変えていました。

我妻善逸役 野村裕基

能舞台で演じてきた関係だから実現した場面

ーー能と狂言は、それぞれ別の演目に分かれて演じるイメージがあったので、お二人が共演する場面は新鮮に感じました。

裕一:能では、ストーリーの進行に、狂言方が関わる演目もあります。『船弁慶』※5では、船の船頭役で登場人物の一人として出てきますし。ですから、全く新しい試みという訳ではないのですよ。

裕基:能のシテ方※6と会話をする間狂言(あいきょうげん)をアシライ間(あい)と言いますが、キャリアを積んだ役者が担当することが多いので、僕はまだ経験がありません。前の場面をセリフで説明をする、語り間(あい)という間狂言※7を演じることが多いですね。

ーー三人の場面では、炭治郎は能の発声と表現方法で、善逸と嘴平伊之助(はしびらいのすけ)※8は狂言の発声と表現方法でしたが、難しさはなかったのですか?

裕基:三人は共に鬼と戦う仲間という設定なので、それを表すための場面だと思います。能のシテ方の型を壊さないようにと、そこは注意しました。狂言方同士だと、激しい動きもしたりしますが、そうすると能の形ではなくなってしまうので。

裕一:それぞれ、能楽師と狂言師で能舞台を踏んでいる間柄だから、微妙なニュアンスが、わかり合えたのだと思います。

竈門炭治郎役 大槻裕一 我妻善逸役 野村裕基 嘴平伊之助役 野村太一郎
※5:義経との別離に舞う静御前と、嵐を起こして船を襲う平知盛の亡霊を対比させた内容の演目。
※6:能の主役。
※7:間狂言は、能のなかで狂言方が演じる部分、またその役柄。「語り間」は、能の場面で前シテが退場すると、代わって登場。前場で起こった出来事や、物語の設定や背景などを語る役割。
※8:炭治郎や善逸と同期に鬼殺隊に入隊した剣士。

お囃子の迫力を感じて欲しい

ーー裕一さんが、今回の公演で、特に注目してもらいたい所はどこでしょうか?

裕一:それは、お囃子(おはやし)ですね。楽器で囃子たてて盛り上げることから、お囃子と言うのですが。

ーーおひな様の五人囃子でしか見たことがない人も多いかもしれません。

裕一:五人囃子の原型になったのは、能楽なのですよ。

ーーそうなのですか、知りませんでした。

裕一:大鼓(おおつづみ)、小鼓(こつづみ)、太鼓(たいこ)、の三つの打楽器と笛で構成されています。悲しい場面では笛が演奏するとか、舞台を一緒に作る役割です。

ーー裕一さんは、竈門炭治郎と竈門禰󠄀豆子(かまどねずこ)の二役を演じられましたが、禰󠄀豆子の場面にもお囃子がありましたね。

裕一:あの場面は、禰󠄀豆子が夢うつつで箱から出て来て、過去の家族との平和な暮らしを、夢の中で見る場面です。そのなかで、一瞬鬼になってしまった自分に意識が戻ってしまいます。舞の動きや面(おもて)の角度などで表現していますが、基本となる世界観は、お囃子が構築してくれています。今回の公演では、大鼓方葛野(かどの)流家元の亀井広忠さんが作調(さくちょう)※9を担当して下さっていて、そこも注目してほしいですね。

竈門禰󠄀豆子役 大槻裕一
※9:囃子の奏法を定めること。

能 狂言『鬼滅の刃』で、650年前の観客と同じ気持ちを体験

ーー新作の作品であって、古典のようにも感じました。

裕一:作品のなかに古典の要素も入っていますからね。ただ能も狂言も、その当時流行っていたものを取り入れてきました。650年前は源氏物語や平家物語は、皆が知っているものだったので、それを題材に作品にしていたのです。ですから今この作品を見て下さっている方は、『鬼滅の刃』の原作をご存知なので、当時と同じ感覚を味わっておられるのだと思います。

裕基:狂言も当時流行っていたお茶を題材にしたものがありますし、流行病を敵とみなして退散させる作品もあります。 

ーー裕基さんは、今回の作品で、見どころの場面はどこだと思われますか?

裕基:やはり最後の炭治郎と累の対決の場面ではないでしょうか。序破急(じょはきゅう)※10の急の急、最後のクライマックスで、原作のなかでも人気が高い場面です。能『土蜘蛛』※11の手法を使って戦いを表していて、蜘蛛の糸の放物線の美しさが際立っていますし。ワキ方※12やお囃子、全ての演者が勢揃いで見応えがあると思います。ひょっとしたら、この作品も650年後に上演されているかもしれませんね。

竈門炭治郎役 大槻裕一 下弦の伍 累役 大槻文藏
※10:能狂言の演出理論の1つ。構成・演出・速度などを3段階に分けた考え方。
※11:源頼光(みなもとのらいこう)が、土蜘蛛の精と対決する内容の演目。
※12:シテ方と応対し、シテの演技を引き出す役割。現実に生きている大人の男性を演じる。面をつけることはない。

お客様の反応が励みに

ーー昨年の公演は、能狂言を初めて見る人が多かったようですが。

裕一:客席の空気から、それは感じました。でも初日からずっと集中して見て下さって。

裕基:お客様が相づちをうたなくても、演じている方には伝わるのですが、すごい集中力でした。狂言方として、ほっとリラックスしていただく笑いの場面も、とても演じやすかったですね。

裕一:能楽堂の独特の雰囲気も、影響していると思います。開演前のシーンとした緊張感から、すでに能の世界が始まっているのですが、「能 狂言『鬼滅の刃』」のお客様もその空気を作って下さっていました、橋がかり※13などの舞台構造も興味深く思われたのではないでしょうか。

ーー長文のアンケートも多かったそうで。

裕一:はい。皆様好意的な感想をたくさん書いて下さって、イラスト入りもありました。楽屋で演者全員で読んで、励まされましたね。中には、こうした方がというアイデアを書いてくれているものがあって、文藏先生(大槻文藏)が発案して、シテ方で相談して演技に取り入れました。今回の追加公演でも、より進化したものがお見せできればと思っています。

左から野村裕基さんと大槻裕一さん
※13:能舞台で、本舞台と鏡の間をつなぐ橋のような部分の名称。単なる通路ではなく、演技や演出の重要なポイントとなる場所。

大槻裕一・野村裕基プロフィール

【大槻裕一】
1997年9月2日生まれ。大阪府出身。能楽師シテ方(観世流)準職分。2000年に『老松(おいまつ)』で初舞台。2005年に『俊成忠度(しゅんぜいただのり)』にて初シテ。2013年に『翁 父之尉延命冠者(おきな ちちのじょうえんめいかじゃ)』にて初面(はつおもて)※14。同年に大槻文藏の芸養子となり、大槻裕一を襲名。自主企画公演『大槻裕一の会』を主宰し、『乱』を披(ひら)く※15。歌舞伎やクラシック音楽など、能以外のジャンルとの公演でも活躍している。

【野村裕基】
1999年生まれ。東京都出身。能楽師狂言方(和泉流)野村萬斎の長男。祖父・野村万作及び父に師事。2003年に『靭猿(うつぼざる)』で初舞台。2017年に『三番叟(さんばそう)』、2020年に『奈須与市語』、2022年に『釣狐』を披く。2023年3月に野村萬斎演出の『ハムレット』で、タイトルロールのハムレット役を演じるなど、活動の場を広げている。

※14:初めて面をかけて能を演じること。
※15:能楽師が、ある曲の重要な役を初めて演ずること。難曲や大曲の時に用いる。

能 狂言『鬼滅の刃』公演情報

京都 金剛能楽堂:2023年5月24日~27日
福岡 大濠公園能楽堂:2023年9月13日~17日
愛知 名古屋能楽堂:2023年9月27日~28日
神奈川 横浜能楽堂:2023年9月30日~10月1日

[チケット料金]全席指定 S席11,000円/A席 9,900円(税込)
詳しい情報は、公式サイトhttps://kimetsu-nohkyogen.com/ 
公式ツイッターhttps://twitter.com/kimetsu_nohkyoから

アイキャッチ画像:竈門炭治郎役 大槻裕一

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。