平安時代というと遙か彼方で、その時代の人たちをリアルには感じられない! そんな風に思っていました。ところが大河ドラマ『光る君へ』では、主人公のまひろ(紫式部)をはじめ、登場人物が悩み苦しみ、恋をする姿が描かれているので、感情移入して親近感がわくようになりました。 まひろと交流する和泉式部は、特に自分の気持ちに正直に生きた女性だったようです。ドラマでは泉里香が演じていますが、和歌を学ぶ場所にシースルーの着物で現れ、意表を突く登場に視聴者の注目が集まりました!
宮仕えで紫式部と出会う
歌人や『和泉式部日記』の作者として知られている和泉式部は、紫式部より数年遅れて中宮彰子に仕えたと伝えられています。彰子の父である藤原道長が、一条天皇の寵愛を娘が受けられるようにと、紫式部や赤染衛門(※1)、和泉式部などを集めた、文化的なサロンのようなものだったようです。これは、一条天皇が愛を注いだ中宮定子のもとに、清少納言など才女が仕えていたことから必要性を感じたのだと想像できます。
紫式部は最初、日本で最高の家柄の人々が集まる宮中の暮らしに馴染めなかったそうです。同じく中流階級の和泉式部には、ひょっとしたら親しみを感じたかもしれませんね。
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紫式部を3分で解説! 実は『源氏物語』作者は苦労人だった?
宮中を騒がせた2人の皇子との恋
和泉式部といえば、恋多き女の印象が強いと思います。それは、数々の優れた恋の歌の作者であると共に、実際の自分の恋愛についても詳細に書き記しているからでしょう。橘道貞(たちばなのみちさだ)、藤原保昌(やすまさ)という2人の男性と結婚していますが、夫以外に2人の親王と熱烈な恋愛をしたことが特に有名です。
最初の相手・為尊(ためたか)親王との熱愛の時は、まだ道貞の妻だったので、いわゆる不倫だった訳ですね。夫との仲は破綻して離婚となり、父の大江雅致(まさむね)からは勘当をされてしまいます。しかし、為尊親王は若くして亡くなり、この恋は終わりを告げます。
ところが、この後意外な展開が待っていました! 失意の和泉式部に、弟である敦道(あつみち)親王が言い寄ってきたのです。なんというスキャンダラスな!! やがて2人は恋に落ち、親王邸に和泉式部は移住します。すると怒った正妻は出て行ってしまったそうです。現代なら肉食系の略奪婚という感じでしょうか……。この恋の顛末を赤裸々に書いたのが『和泉式部日記』なので、善悪や世間体などを考えない、自分の気持ちに正直な女性だったのかもしれません。まあ、巻き込まれる周囲の人たちは大変ですね。
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平安時代の女性・和泉式部が書いたスリリングな逢瀬
求婚者にとんでもない無茶振り!!
正妻との恋のバトルに勝利した和泉式部でしたが、敦道親王も若くして亡くなり、この恋も終わってしまいました。こうして2人の親王との恋愛を繰り広げた和泉式部でしたが、道長家に仕えていた藤原保昌と結婚することになるのです。恋愛遍歴に疲れてしまったのでしょうか……?最初は、和泉式部に一目惚れした保昌が何度も恋文を送っても知らん顔で対応。その後、本気度を試すために、内裏(だいり・天皇の住む御殿)の庭に咲く紅梅を一枝折って持ってきて欲しいと無茶な要求をします。保昌は警護の武士に矢を射かけられながらも、なんとか成功! こうして晴れて和泉式部と結婚したとのエピソードが残っています。モテる女は強気ですね!
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まるでかぐや姫のような生き方をした平安の美女・和泉式部とは。モテモテだった人物像に迫る!
夫の愛を取り戻そうとした切ない和歌
これほど熱烈なアプローチを受けて結婚した和泉式部でしたが、後に夫婦間にすきま風が吹いていたのでは? と伝えられています。それは、こちらの物悲しい和歌を残しているからです。
物思へば 沢の蛍も わが身より あくがれ出づる 魂(たま)かとぞ見る
物思いをしていると、沢を飛び立っている蛍の火も、自分の身から離れ、さまよい出た魂ではないかと見えたことだ
夫である保昌から忘れられていると感じた和泉式部は、貴船神社を参詣し、川を飛ぶ蛍を見て詠んだとあります。当時は、ひどく思い悩むと魂が身体から抜けて遊離すると信じられていました。
恋に貪欲な強気の女性かと思いきや、こんな弱々しい繊細な面もあったのですね。最初の結婚で授かった娘は、小式部内侍(こしきぶのないし)と呼ばれる優れた歌人でしたが、若くして亡くなっていて、その悲しみを込めた和歌も残しています。和泉式部の和歌が現代にも伝わっているのは、このような波瀾万丈な人生を送り、その時々の心情を込めたからなのかもしれませんね。
参考書籍:『紫式部と源氏物語』メディアソフト、『日本大百科全集』小学館、『世界大百科全集』平凡社
アイキャッチ:『錦百人一首あつま織』勝川春章 画 安永4年出版 国立国会図書館デジタルコレクション