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Culture
2019.03.22

結婚式で和装を選ぶカップルがじわじわと増えている背景には、挑戦者たちがいた!

この記事を書いた人

ここ数年、結婚式や披露宴で和装を選ぶカップルがじわじわと増えています。人気の背景を紐解くと、そこに見えてきたのは、「着物や袴をもっとオシャレで、身近なものに!」と奮闘し続ける人々の思い。

彼らが手がける花嫁着物や袴式和服には、単に“モダン”という言葉で一括りにできない魅力があります。伝統技術に対する深い理解とリスペクトから生まれる「新時代の和装」。その最前線を追いました。

斬新なコーディネートで大人気! 「CUCURU」の提案する新しい花嫁着物とは?

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
花嫁着物の専門店「CUCURU」。店内に一歩足を踏み入れると、鮮やかな色打掛や引き振袖、白無垢、そして沢山の小物が出迎えてくれます。

青山に店舗を構える花嫁着物の専門店「CUCURU」は、インスタグラムのフォロワー数が2万人を超す人気店。その人気の源泉は、現代的な美しさが打ち出された「CUCURU」独自のこだわりぬいたコーディネート。2016年に設立されて以来、「花嫁着物をもっと愉しんでほしい」というシンプルな思いから、伝統の技巧で作られた着物に、現代的なニュアンスを加わえたコーディネートを提案しています。専属のコーディネーターが花嫁一人ひとりに寄り添って、花嫁衣裳の販売、レンタルからヘアメイク、記念撮影まで和装ウェディングに関わるトータルなサービスを提供しています。

「ほとんどのブライダルショップは、ウェディングドレスをメインに展示し、白無垢や色打掛は店の隅のほうにある。そういう状況を変えたかったんです」と、CUCURUを立ち上げた同社代表の安東夏子さん。ご自身の結婚式で、自由度が低い婚礼和装の現状を知り、そこに一石を投じるべく花嫁着物専門店を立ち上げました。

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
人気の花嫁衣裳の一つ、青海波と金箔が目を引く色打掛。

こちらは、青海波(せいがいは)と金箔が目を引く色打掛に、ヴェール付きヘッドドレスをあわせたCUCURUの一押し。インスタグラムで発信しているひと癖あるコーディネートは、全てお店のスタッフが独自に考えているのだそう。

意外だったのが、CUCURUでは魅力的なコーディネートを次々と発信する一方で、自社に着物のデザイナーを置いたり、ビジュアル的なインパクトを求めて着崩すような提案はしないということ。その理由について、安東さんは次のように話してくれました。

「お着物のデザインには、何百年と大切にされてきた伝統があります。今から私たちが驚くほどすばらしい技法を生み出したり、優れた模様を発案できることはないと思うんです。CUCURUにできるのは、今の花嫁さんの体型やスタイルに合うように、職人さんと協力しながらバランスを整えること。手仕事によって生み出された着物を、美しく着こなしていただき、コーディネートの中に自分らしさを見つけていただきたいですね」

日本伝統の色が、花嫁着物の美しさを引き立てる

手機をはじめ、手染めや、手刺繍によって生まれる華やかさや着心地には、機械では決して真似できない魅力があります。その魅力をさらに引き立てるのが、CUCURUならではの「色遊び」のセンス。

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
花丸紋が美しい色打掛。CUCURUのこだわりが凝縮された着物です。

たとえば、こちらの着物を見てみましょう。色打掛の中でも最高級品のひとつ、手機(てばた)の着物。熟練の職人さんが織り機で一列ずつ、糸の色を変えながら、伝統文様の花丸紋(はなまるもん)を表現しています。

「お着物は、色も柄も基本的に全部足されていくんです。だからこそ、そこから何を引いてコーディネートを仕上げていくかが、私たちの腕の見せどころです」と、CUCURUディレクターの伊藤さんは語ります。

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
豊富にカラーバリエーションが用意された小物類。写真は婚礼用小物入れとして使われる「筥迫(はこせこ)」。桃色だけでもこれだけ種類が用意されています!

例えば桃色ひとつとっても、ニュアンスが異なる色を複数用意するのは、コーディネートしたときにうるさくなりすぎず、花嫁さんが一番きれいに見えるスタイルを提案するため。とはいえ、職人さんと二人三脚で進める色作りは、回り道の連続。糸を染める日の天候や気温、釜の違いなどで意図する色が出ないこともしばしばです。

しかし、その絶妙なゆらぎの中でしか生まれないのが「日本の色」であり、「花嫁さんに届けたい色」。色作りに妥協しないのは、「誰かがその魅力を伝えなければ、花嫁着物の伝統そのものがいずれ失われてしまう」という危機感があるからです。

実際に見て、触れて、まとった時にわかる本物の美しさ。そこに生まれる感動の輪が、きっと日本の伝統を守ることに繋がると信じて、これからもCUCURUの挑戦は続いていきます。

男性だってオシャレな和装を楽しめる! 「和次元 滴や」のサムライスタイルとは?

日本に伝わる伝統の「色」使いで、一人ひとりの花嫁にフィットした斬新でモダンなコーディネートで花嫁衣裳をプロデュースするCUCURU。でも、こういった斬新な衣装は、女性だけではありません。男性だって、こだわりの和装ウェディングを演出することができるのです。

和婚スタイルの結婚式で男性が着る衣装といえば、黒紋付羽織袴(くろもんつきはおりはかま)。和装では、必ず紋入りであることが礼装・略礼装の条件とされています。

もちろん、その場にふさわしい正装を心がけることも大切です。しかし、例えば披露宴やカジュアルな結婚パーティーなどのシーンで、男性も女性みたいに、バリエーション豊かな装いを選ぶ楽しみがあったらいいなと思いませんか。

そんなことを考えながら、いくつものお店を調べていくうちに、見つけてしまったのです。あっ、と驚くようなデザインの羽織袴を。続いては、「和次元 滴や」の「袴式和服」をご紹介します。

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
実店舗があるのは、京都・鴨川のほとり。外国人観光客の来訪も多いのだそう。

店主の宗裕(そうゆう)さんが、「和次元 滴や」を立ち上げたのは2005年のこと。洋裁と和裁、その両方を同時進行で勉強したという稀な経験が、新しい袴の着想に繋がったといいます。

かつては侍たちの誇り高い生き様と、美意識の象徴であった袴。その文化が失われつつある今、どうすればその美しさに気づき、着てみたいと思う人が増えるのか。思案を重ねた末に生み出したのが、現代人の体型に合わせ、着付けの煩わしさをなくした「袴式和服」です。

袴の男らしいシルエットはそのままに、現代の生活にあわせて前開きのファスナーを設置。着用しやすいよう紐部分に改良を加え、誰でも5分程度あれば一人で着脱できる仕様にたどり着きました。

さらに、袴のコーディネートを広げるアイテムを次々と発表。その中のひとつが、大きな羽の様な袖を持つ羽織(はおり)、名前を「和慈羽袖」(わじはそで)といいます。
今回は、結婚式のパーティーなどにおすすめのコーディネートを、宗裕(そうゆう)さんに選んでもらいました。

羽織の進化系「和慈羽袖」が、優美なサムライスタイルを叶える!

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
宗裕さんイチオシのコーディネート「したたり」。「黒」を貴重としたモダンな雰囲気ですね。

和次元 滴やを代表するレーベル「したたり」のコーディネート。モーニング用コールズボンの縞(しま)の「袴」、まだらな箔ラメの黒い「小袖」、小袖と同じ生地の「和慈羽袖」の組み合わせ。ここで特に注目してみたいのは、同社の特許製品である「和慈羽袖」です。ボタンを外して袖を肩に回し掛けることで、プレーンな羽織形態から変形し、様々な着こなしを楽しむことが可能な遊び心満載の製品なのです。洒脱な雰囲気をにじませつつ、黒で統一することでフォーマルな印象に仕上がっていますね。

ところで、なぜ結婚式などの礼装には「黒」を用いることが多いのでしょうか。

「現在、和の礼装とされている黒紋付羽織袴は、西洋のブラックフォーマルに倣って明治に制定されたものです。袴に縞模様の仙台平(せんだいひら)が選ばれたのも、フロックやモーニングに合わせるストライプのズボンに似ていたからなんです」と、宗裕さんが説明してくれました。

明治以降の急激な洋装化により、変化したり、失われてしまった様々な和服の文化。しかし、それを嘆いているだけでは何も生まれません。ウィットに富んだアンチテーゼとして、宗裕さんは、モーニング用コールズボンの生地を、あえて「袴」に使用しているのです。

結婚式の和装に新風を! 着物や袴の伝統を守りながら進化させる挑戦者たち
和慈羽袖と袴の生地をお揃いにしたり、ゴージャスな異素材を組み合わせたり、オシャレの幅は無限大です!

例えば、黒以外の色で華やかにキメたいという方には、こんなコーディネートがおすすめ。
和慈羽袖はショールやマントのようにもなれば、シンプルな羽織にもなる変幻自在のアイテム。そこにオシャレな羽織紐(はおりひも)を組み合わせれば、自分だけのオリジナルコーディネートが完成します。

実は、ここでご紹介したアイテムは、和次元 滴やの中でもかなり落ち着きのあるデザイン。他にも、まるでジェダイの騎士のようなフード付きのアイテムや、スーパーヒーローさながらのマントなど、和装の概念を打ち砕くアイテムが満載です。気になる人は、ぜひホームページをチェック!

ちなみにレンタルのアイテムはなく、すべて販売のみ。借り物ではなく、自分だけの本物の一着で、ハレの日を祝うというのもなんだか粋じゃありませんか。

いかがでしたでしょうか?和装ウェディングと聞くと、どうしても「野暮ったい」「時代遅れ」的なイメージがあるかもしれませんが、本日紹介した「CUCURU」「和次元 滴や」のように、伝統的な和装に現代的なセンスを融合させ、新しい「和装ウェディング」を提案するお店も増えてきているのです。今回の記事でご紹介したアイテム以外にも、まだまだ面白いデザインの衣装は沢山用意されています。下記にお店のホームページを掲載してありますので、興味がある方は是非チェックしてみてくださいね。

CUCURU

和次元 滴や

文/水鳥るみ
写真提供/CUCURU・和次元 滴や

書いた人

都内在住のお散歩マニア。好きな場所は日本庭園・公園・神社仏閣・動物園・水族館。全て歩き回れるところが良し。水鳥という名に託すのは、鳥のように羽ばたきたいという思い。しかしどういうわけか、飛べないペンギンが大好きで、いつか南極に行きたいという夢がある。