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2019.10.30

なぜ傘は進化しないのか? 傘の歴史4000年を遡って考察してみた!

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雨が降るたびに思います。手を使わず靴がびしょ濡れにならない傘がほしい! 電話は短い年月で飛躍的な進化をしたのに、なぜ傘は進化しないの? 調べてみると、なんと約4000年前に生まれてから形状に大きな変化がありません! なかなか進化しない理由を考察するべく、傘の歴史を辿ってみました。

傘の歴史を辿ってみる

古代の傘は開きっぱなしだった

傘が最初に登場したのは約4000年前。古代エジプトやギリシャ、ペルシャなどの彫刻画や壁画に描かれています。この頃の傘は棒に天蓋(てんがい)のように布が張られたもので、現在のように開閉できませんでした。開閉式の傘は、13世紀頃、イタリアで作られたといわれています。

雨の日にさすと笑われていた

18世紀に入り、ようやくイギリスで現在の構造に近い傘が開発されました。日よけのために開発された傘だったため、ひとりの紳士が雨の日に傘をさしたところ、周囲の人々に笑われたなんてエピソードが残っています。しかし時が経つと、その紳士の行為が広がり、次第に雨の日の必須アイテムとして傘が知られるようになったのです。

前原光榮商店 高級紳士用雨傘」16本の親骨を持つオーソドックスなスタイルの紳士用雨傘。

江戸時代にかけて和傘も発展

傘が日本への伝わった時期については不明ですが、日本書紀に「百済聖王の使者が552年に欽明天皇へ仏具の傘を献上した」と書かれていることから、1400年以上前に伝わっていたと考えられています。

和傘は竹を使った軸と骨に柿渋、亜麻仁油、桐油等を塗った油紙を使ってつくられたもの。江戸時代になると分業制が広まり普及し、失業した武士が副職として和傘を製作することもありました。しかし明治時代以後の洋傘の普及により、和傘は急速に利用されなくなってしまいます。

折りたたみ傘とビニール傘の登場

1900年代、傘は進化を遂げます。1928年、ドイツのハンス・ハウプトが折りたたみ傘を発案したのです! 世界的に大ヒットをおさめた折りたたみ傘は、現在世界でもっともメジャーな傘のスタイルとなっています。その後、浅草の傘メーカー「ホワイトローズ」が、1958年にビニール傘を発明。国内で人気を博したビニール傘は1964年の東京オリンピックを機に世界へと名を馳せ、その後2000年の北野武監督「バトルロワイヤル」の上映でも一気に注目を集め、世界市場に踊り出ました。

ビニール傘「かて~る16桜」大人に似合う3色展開。全色防水加工生地の傘袋が付く。安っぽさとは無縁の本格仕様。商品名は、選挙候補者の依頼で製作したため「勝てる」から命名。選挙に「勝てる」傘と政治家にも好評。

傘をさすほうが、実は少数派!?

その後も、傘はよりコンパクトで軽く、壊れにくいものが発明されましたが、画期的な形状や劇的な進化は起こらず、現在に至ります。ここで疑問が湧くのは、近代に入るまでは日傘としての利用がメインであったこと(そういえば英語の「umbrella(アンブレラ)」の語源も、ラテン語の影を意味する「umbra」…)。つまり、雨傘としての進化の歴史は、たった2,300年しかないのです!

では雨傘としての利用が始まる以前、人々は雨の日どのように生活していたのでしょう? その答えも非常に明快です。雨のたびに傘を持ち歩くのは非効率。雨が降ったら走る!外に出ない!コートのほうが濡れずに効率的だ! こういった考え方が、メジャーだったのです。たしかに、わざわざ傘をさして手を塞ぐのも、あらかじめ持って出かけることも、面倒くさいですよね…。

実はこの考え方は、世界的に見ると今でも多く見られます。例えば、バケツをひっくり返したようなスコールが降るメキシコでは、雨が止むのを待って外出することが多く、傘はほとんど使わないのが一般的。1年中雨が降るイギリスも、傘を持たない人のほうが多いというから驚きです。

傘の進化は日本の技術と熱量にかかっている!?

しかし日本人の雨に対する考え方は、海外と少し異なります。たとえどんなに面倒くさくても、濡れることを嫌う意識が、根強くあるのです。2014年の調査データ(※)では、日本の年間降水日数は世界ランク13位ですが、傘の所持数は世界1位!

雨に濡れるのをどのくらい気にしているかの調査では「とても気になる」と回答した人の割合が世界平均18%だったのに対し、日本では25%の人が「とても気になる」と回答していることから、雨に濡れるのが苦手な国民性が明らかになりました。また世界の主流は「折りたたみ傘」にも関わらず、日本ではなぜか「長傘」が人気というデータもあります。

小雨でもすぐに傘をさしてしまう、日本人。
※株式会社ウェザーニューズ「世界の傘事情調査」より(調査期間:6月15日(日)~18日(水) 参加者数:37663人 参加国数:35ヶ国)

傘がなかなか進化しない理由、それはもしかすると世界がまだまだ傘の必要性や可能性に、気づいていないからかもしれません。では傘はこれからどのように進化していくんでしょうか? 最後に、あーだこーだと考えてみました。水に濡れると巨大化する超薄型の傘、ドローンのような追従型の傘(既にありそう?)、洋服の上からスプレーする傘(もはや傘じゃない!?)…ついSF映画に登場しそうなものを考えてしまいましたが、世界で1番雨が苦手で、傘をよく使う日本から、斬新で画期的な傘が生まれることを期待しています。

参考:日本洋傘振興協議会 公式サイトhttp://www.jupa.gr.jp/