一万年サステイナブルの秘密②なりわい
縄文人の季節にあわせた自然とのおつきあいは、「豊かな自然あってこそ」であったのは、間違いありません。しかし、彼らの定住を支えたのはそれだけではありませんでした。そこには縄文人の驚きの叡智、大自然との共生の技が働いていたのです。
この項では、縄文人のサステイナブルな定住生活を支えた、自然の声を聴く力をご紹介します。
狩猟採集だけじゃない! なんでもこなす「縄文的マルチプレイヤー」な生業術
縄文時代の「なりわい」といえば「狩猟採集」というイメージですが、近年の研究により、彼らがヒョウタン、クリ、エゴマなどの栽培、植樹も行っていたことが明らかになっています。
東北の「縄文の銀座」こと、青森県三内丸山遺跡。(青森県三内丸山遺跡センター)三内丸山の縄文人は、クリの木を大量に栽培していたとか。
また、縄文時代には「分業」という概念がありません。もちろん住む場所によってなりわいに制限はあったはずですが、特定のなりわいを専業に行う人はほとんどいなかったと言われています。逆を返せば、全ての人が漁師であると同時に猟師であり、農民であり、ギャザラーであり、土器職人でもあったのです。
「縄文人の世界」秋の広場より(新潟県立歴史博物館)
海も山もひと繋がりの自然界は、非常に有機的です。一つのなりわいに依存していては、いつ食糧がなくなるともわかりません。まさしく縄文人は、なんでもこなす「マルチプレイヤー」だったからこそ、変わりやすい自然の中に人間社会を組み込んで生きることができたのです。
縄文人の道具箱(鹿児島県上野原縄文の森)石鏃(せきぞく)、磨石、黒曜石・・・縄文人は石を加工して多種多様な生活道具を作りました。
人間社会持続の秘訣は、自然の声をよく聴くこと!
土地を切り拓き、灌漑設備を作り、大量の人員や牛馬を使って農道を築く「農耕」とは、言うなれば「自然を人間社会に合わせる」スタイルです。そこでの主導権は、多かれ少なかれ人間側にあります。一方縄文人が採った「マルチプレイヤー方式」は、「人間社会を自然に合わせていく」スタイルに他なりません。そして自然のほうに主導権がある以上、人々の生活は自然の変化を知らずには一日たりとも許されるものではありませんでした。
たとえば、季節を知り、また動植物の旬を知るには、太陽と月の動き、その法則を熟知していなければいけません。また、雲や風向き、花や鳥の微妙な様子を感じとることによって、雨や津波、雷、地震などの自然災害を予想することができます。またそれらの連関を知ることによって、目先の利益にとらわれることなく、持続可能な自然環境を維持していたと思われます。今ここで、木を切るべきかどうか、どれほどの数のイノシシを捕るべきか、そういったことは全て、自然にお伺いをたてて決めることなのです。
特に日本列島は自然が豊かである反面、災害も多いため、自然の声を聴けるか否かは死活問題です。「縄文的サステイナビリティ」は、生を与え、また奪いもする自然への畏怖があってこそ、成り立っていたのです。