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Culture
2019.11.27

ツツジが咲いたらサバの食べごろ!「自然暦」でニッポンの暮らしを取り戻せ!

この記事を書いた人

日本で暦が公式な形で使われるようになったのは推古天皇の時代(604年)からだそう。江戸時代初期まで使われていた「中国暦」は明治になると「旧暦」と呼ばれ、その後のグレゴリオ暦への改暦は、日本が中国文明から西洋文明へ切り替えたということでもある。

さらに古い時代。日本人は、ささやかな季節の移ろいを把握し、日々の生活に役立てる「自然暦」があったことをご存じだろうか?

日本人の自然観が生み出した「自然暦」

おそらく、もっとも最初期の暦は月の満ち欠けから時間の経過を見てとることだったろう。
やがて稲作など農耕が生活の主軸になると、自然の中にあらわれる「しるし」や「きざし」が肝心になってくる。田植え、野菜などの収穫…どれほどの努力をして畑を耕しても、大自然の恵みなくしては、すべては水泡に帰してしまう。できるなら太陽がよく照り、夜風が吹き、豊な年であってほしい。

自然暦は、樹々の葉の色月や冬の雪解け、降雨、鳥の鳴き方や微妙な飛び方のちがいなど周囲の自然環境の周期的な変化を観察することから始まる。そうして周期的に巡ってくる自然の「指標物」の経験を、暮らしに活かすことで自然暦は出来上がっていった。農民にとって、自然界の暦を読むことは未来の収穫を予測することでもあった。

暮らしにかかわる季節のしるし

農耕牧畜などにたずさわる人の経験値から作り上げられてきた自然暦は日本の地域ごとにさまざまな形で伝承されている。その記述は膨大で、すべてを紹介することはできないのが残念だけれど、記されているのはとても単純な内容だ。
今回は、自然暦の中にあるたくさんの分野から、現代人にも親しみやすい「植物」を窓口にして自然暦の例を紹介しよう。

「植物」の自然暦

花や木などの植物は、私たちにとって季節の移り変わりをもっとも分かりやすく伝えてくれる手掛かりになるものだ。

「一番ザクラが咲いたら畑キビの苗代を作り、二番ザクラが咲いたら山キビの苗床をつくる(高知県)」という伝承は、植物の成長が人の営みと固く結びついていることを示している。
「栗の花が盛りになると梅雨になる(新潟県)」は気候と植物の関係を記した例だ。「スモモの花が咲いたらゼンマイの盛り(青森県)」などは、一つの植物が別の植物が発生することを予見しているもので、実りの季節には誰にとっても嬉しい知らせになる。「ツツジの盛りはサバの盛り(長崎県)」の自然暦は、覚えておくとツツジの花が咲いたのを目安に、サバの食べ頃を覚えておけるかもしれない。

また、植物は翌年の天候を語ってくれることもある。
「南天の実が枝先に実ると次の冬は雪が少ない(新潟県)」「マイタケが多く採れると次の冬には雪が多い(岩手県)」と伝えられている地域もある。

あなたも自然暦を生活に取りいれてみよう

旧暦のカレンダーを使う

自然暦には「自然の移り変わりを目安とするもの」と「旧暦=自然暦とみなすもの」二種類ある。

旧暦記載のカレンダーは店頭やネットでも人気だから見かけたことのある人も多いはずだ。
「新暦・旧暦カレンダー」「月と季節の暦」と種類も豊富で、見るだけでも十分楽しめる。「月の満ち欠けカレンダー」は、その名の通り月の満ち欠けを記載したもの。新月や満月の日に出産が多いなど、女性と月の周期は関係が深いし、美容のために参考にしている方も多いだろう。

季節の恵みを楽しむ


ハロウィン、クリスマス、バレンタインデーなど海外初のイベントがいつの間にか国民的行事となっている日本。人が季節行事を大切にしてきたことが影響しているのかもしれない。日本人の生活の根っこには、いまでも春夏秋冬の季節感覚が残っているようだ。あなたもまた、季節の変化を暮らしの指標としていないだろうか?

たとえば、季節ごとの衣替え。その時期の旬の食材を食べること。サクラエビの漁解禁日も、新茶の発売日を待つのすべて自然の状態が目安になる。季節の循環に沿いながら生活することは日本人にとって特別なことではない。むしろ日本人は自然の示す季節変化に日々の暮らしや生業のリズムをあわせてきたとさえ言えるのではないだろうか。

「自然暦」は季節感覚を今に伝えてくれるもう一つの暦

寂しいことに、最近では自然の移り変わりを情報として日々の生活に使う場面は少なくなってきている。
流通システムの発展、町中に溢れるインスタント食品、冷蔵庫にいつまでも食べ物を備えておけること…技術の進化は便利な反面、自然の恵みに感謝し、旬の食物を味わう楽しみを奪いつつある。密室空間の空調設備は快適だけれど、風の感触は何にも代えがたい心地よさがある。

もしあなたがスマートフォンばかり見ているなら、時々は顔を上げて人の表情や息づかいに目を向けてみてはどうだろう。ヘッドフォンを外して虫の音に耳を傾けてみてほしい。季節の移ろいを伝える自然暦はあなたの五感を磨いてくれるはずだ。

書いた人

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。