Culture
2019.12.04

落合陽一さん総合監修!日本科学未来館「計算機と自然、計算機の自然」レポート

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私たちは、機械が作り出したものをはたして「自然」と思えるのでしょうか?
そんな面白い問いを生み出す展示が、日本科学未来館(以下、未来館)の常設展示へ加わりました。
それが、「計算機と自然、計算機の自然」です。
今回はそのプレス内覧会のレポートとインタビューをお届けいたします。

近代的な空間に、さまざまな日本文化が詰め込まれています。(画像提供:日本科学未来館)

「計算機と自然、計算機の自然」は、2019年11月14日にオープンした未来館の新しい常設展示です。
メディアアーティストで筑波大学准教授の落合陽一さんが総合監修とアートディレクションを務め、協力者には書家の紫舟さん、華道家の辻雄貴さん、樂焼の樂家十六代樂吉左衞門さんといった伝統文化に携わる方々も名を連ねています。
未来館は最先端の科学技術にあふれた施設ですが、そんな館の常設展示に日本の伝統文化を扱ったものが加わるのを不思議に思う方もいるかもしれません。
いったいどんな展示なのか、まずはその一部をご紹介いたします。

「計算機と自然、計算機の自然」の展示紹介

「計算機と自然、計算機の自然」では、機械、自然、日本文化をテーマにした29点の作品が見られます。

計算機と自然

自然物と人工物が調和した、この展示のシンボル的存在。生花や本物の蝶の標本といった自然物の中に、計算機や人工的に作られた蝶が入り込み、大きな存在感を生み出しています。

自然の花を用いたいけばなと、人間の作り出した機械が共に在る姿。(画像提供:日本科学未来館)

奥がモルフォチョウの本物の標本、手前が人工の蝶。本物のような美しさが再現できるのは、印刷技術の高さのおかげです。

計算機の自然

文字、人、猫、花、車など画面に映し出されるものはすべて、人工知能が作り上げたものです。人工知能は、たくさんの画像から特徴を分析して、まるで現実にあるものをそのまま撮影したような画像を新しく生み出してしまうのです。

既存の古文書をそのまま映しているのではなく、学習したデータから作り出されたくずし字。こういうとき、くずし字解読スキルが欲しくなります。

はじめに光あり

書家の紫舟さんの作品を立体オブジェにしたもの。この三つの図形は江戸時代の禅僧・仙厓の「○△□」画(出光美術館所蔵)から来ており、その作品は今日までにさまざまな解釈がなされています。

凹凸の質感がしっかりと確認できるので、ぜひ近くで見てみてください。

なお、展示タイトルの美しい書も紫舟さんによるもの。

浮世絵「語る壁画 飛鳥美人」

飛鳥時代の高松塚古墳内に描かれた壁画をもとにした作品。壁画自体は外の空気に触れたことで色あせてしまったものの、デジタル技術を使えば元の鮮やかな色彩を再現できます。
この飛鳥美人をはじめ、日本の歴史と技術を絡めたトピックが5つの浮世絵で取り上げられています。彼女の他に、武田信玄や馬、初音ミク、紀貫之が語り手となっています。

口調は結構ユルめ。この面白さは、展示室で実際に彼らの語りを聞いて確認していただきたいです!

総合監修者の落合陽一さんのコメント

展示オープンにあたり、総合監修者の落合陽一さんはメディアにこう語りました。

「今回の展示は、主体性を持って展示に向き合うと気づけるようなものにこだわっています。ひとつひとつ、何らかの意図があって置かれているものです。どのように課題を発見するかという視点で見てみると、それぞれの問いが見つかる展示になっています」

落合さんおすすめの展示のひとつが、天井近くに鎮座している「だるまは問い続ける」。このだるま、実はたまに動いているのでぜひ観察してみてください。

後述の解説では、だるま(達磨)が禅宗の開祖とされていることや禅宗の教えに触れています。

「他にポイントと言えば、各展示物のキャプションです。QRコードが添えられていて、そこから詳しい説明を見られます。デジタルの情報はいつでも更新できるし、そこにアクセスできる人も今後もっと増えていきます。展示のキャプション自体はスペースに限りがあるけれど、デジタルならいくらでも情報を増やせるし、更新もできる。印刷物は印刷した側から古くなってしまうけれど、それぞれの展示に添えられた詳しい情報を、未来館から家に持ち帰ることもできます」

キャプションに添えられたQRコード。

展示に込められた日本の心――内田まほろさんインタビュー

日本の美意識が独自の近代文化を作る

今回は、日本科学未来館 展示企画担当キュレーターの内田まほろさんより、さらに詳しいお話をお聞きする機会をいただきました。
まずは、なぜ最先端の科学技術を扱う展示で、これほどまでに日本の自然観や伝統文化が取り入れられたのかお伺いしました。

「総合監修を務めた落合陽一さんは、日本の文化や未来に強い関心を持ち、さまざまな場所で『日本』を意識した発言をされています。そんな落合さんの自然観や美意識が、おのずと日本的な価値観として、人工物と自然物を扱ったこの展示に反映された形です」

日本独自の価値観のひとつに、内田さんはロボットとの接し方を挙げています。

「ロボットを単なる『モノ』とみなす国が多いなか、日本人はロボットに対して『友達』という扱いをします。現代的には、漫画やアニメの影響も強いのですが、まずは万物に神が宿るという価値観が根底にあって、その上にロボットやアニメーションといった近代的な文化が芽生えていると言えるのではないでしょうか」

古くより受け継がれた技術と最新テクノロジーの出会い

「文化というのはどんどん変わりながらつながっていくもの」と内田さんは語ります。

「今回は『若い表現者と若い監修者が日本の未来を担う』という意味で、伝統文化にかかわる人のなかでも比較的若い世代のアーティストにご協力いただきました。元号が変わって迎えた新しい時代、令和元年にふさわしい展示になったのではないでしょうか」

そのなかの一人、樂家十六代樂吉左衞門さんの展示制作中のエピソードもお聞きしました。

「十六代の樂吉左衞門さんは今年襲名なさいましたが、その前からこの展示制作にご協力いただいていました。樂家では先代のときに、初代長次郎の作品のレプリカを、アルミで制作した例があるそうです。ただ、土とアルミという素材の違いから、そのときは重さの再現が難しかったそうです。今回制作した複製品は、解像度の高いCTスキャナーでデータを取り、最新の3Dプリンタで出力しています。このプリンタではアルミの粉の密度まで設定できるので、元となった十六代の作品とほぼ同じ重さを再現できました」

「デジタルにオーラは宿るか?」では、実物の茶碗とアルミで出力した茶碗、その解析データが見られるので比べてみましょう。

十六代樂吉左衞門さん自身、想像した以上に質の高いレプリカに感心したそうです。

「樂家の茶碗を簡単に触れる機会は、なかなかありません。やはり、茶道でお茶を頂きながら茶碗を眺めるように、手で触っていろいろな角度から見てほしいですよね。何代にもわたって伝統をつないできた方たちが、これまでにない表現や挑戦のきっかけとして、新しい技術での実験に積極的に参加してくださって嬉しかったです」

借景が生み出す空間の美しさ

「計算機と自然、計算機の自然」のひとつひとつの展示物だけでなく、展示空間にも日本文化の要素があります。そのひとつが日本や中国の庭園に見られる「借景」、庭園の外にあるものを風景の一部として取り入れる技法です。

「未来館のシンボル展示の地球ディスプレイ『Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)』、それを取り囲むように三階と五階を繋いだスロープ『オーバルブリッジ』との関係は、最初から重視していました。展示ゾーンの中からGeo-Cosmosがどう見えるかはもちろん、オーバルブリッジからGeo-Cosmos越しに展示を眺めても美しい空間を目指しました」


展示越しに見える未来館のGeo-Cosmos。どこから撮っても映えます。

「計算機と自然、計算機の自然」には、華道家の辻雄貴さんがいけばなで参加されており、これもGeo-Cosmosを借景にすることを前提に制作されたものだそうです。

「通常の博物館でいけばなを展示すると、文化財の大敵である虫や湿度が問題となります。未来館は、その点では制約が少ないですね。最先端の技術を展示する科学館の中心に、いけばながあるのは面白いと思います。生花である以上、いずれ枯れていきますので、枯れ方も楽しみつつ、年に何回か入れ替える予定です。季節に合わせた花から四季を感じる、とても日本的な展示と言えるのではないでしょうか」

機械が演出する「見立て」

内田さんは、今回の展示を語るうえでのキーワードとして、「見立て」を挙げています。見立てとは、何かをそれと似た別のもので表現することで、枯山水の庭で小石や砂を使って水の流れを再現したり、落語家が扇子を煙管や箸のように扱ったりと、日本のさまざまな場面で見られます。

「テクノロジーの進化で、機械が現実の自然と区別がつかないほどのものを作り出すことが可能になりました。人の手で作られた、本物を写したものに触れて、見る側の想像力が働いていく……バーチャルな世界も見立ての一種だと言えますし、日本の美意識に通じるのではないかと思います」

こうしたお話を伺うと、最先端の科学技術と伝統文化の取り合わせを不思議に思った人も、だんだんと今回の展示の中にある「日本」を感じてくるのではないでしょうか。
皆さんもぜひ、未来を感じる最新技術に満ちあふれた館内で、過去から受け継がれてきた日本文化を感じてみてください。

日本科学未来館基本情報

住所:東京都江東区青海2-3-6
開館時間:10:00~17:00 ※入館券の販売は閉館30分前まで
休館日:火曜日(火曜日が祝日の場合は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)
観覧料:大人 個人630円 団体(8名以上) 500円
    18歳以下 個人210円 団体(8名以上)160円
※6歳以下の未就学児は無料
※土曜日は18歳以下無料
※障害者手帳所持者は本人および付き添いの方お一人まで無料
※企画展は別料金
公式webサイト https://www.miraikan.jst.go.jp