夏の気配を色濃く感じ、涼を求める季節となりました。夏の和装といえば浴衣。今年の夏に、浴衣を着ようと考えている方も多いのでは?
東京・六本木の泉屋博古館分館では、2019年5月28日(火)から7月7日(日)まで、「ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし」と題し、浴衣が江戸時代以降、人々にとってどのような存在であったのかを紐解く展覧会を開催中です。
浴衣初心者の方も上級者の方も、各時代ごとの工夫がこらされたデザインを見ているうちに浴衣が着たくなる! そんな展覧会の様子をお届けします。
江戸以降の浴衣(ゆかた)の歴史やデザインを楽しく学べる美術展!
浴衣は日常着だったことや、着古したらおむつに仕立て直して使用したり、そのまま廃棄されることが多かったため、古いものはあまり残っていないそうです。そのため、浴衣をテーマにした展覧会は珍しく、本展はなかなかお目にかかれない作品を楽しむことができる貴重な機会! では、どんな内容なのか、さっそく見ていきましょう。
浴衣とは? 実は江戸時代から続く文化だった!
浴衣が夏の外出着として用いられるようになったのは江戸時代から。
浴衣の原型は湯帷子(ゆかたびら)といって、平安時代の上流階級が着用していた麻製の裏地のない着物である、単衣(ひとえ)です。当時は蒸し風呂に入ることが一般的で、やけど防止・汗とり・裸を隠すために着用していたのです。
それが江戸時代前期、現在のような裸で湯につかる銭湯が普及するとともに、入浴後に銭湯の室内で着用するくつろぎ着として使用されるようになり、江戸時代中期以降は銭湯への往復時にも着られました。その後、江戸時代後期には夏の気軽な外出着としても着用されるようになったのです。
この展覧会では、肉筆浮世絵や版画浮世絵などから浴衣を当時どのように着ていたのか、うかがい知ることができます。
(左)「浴衣美人図」 江戸時代 19世紀前半 個人蔵 [通期展示]、(右)岩崎如水 「湯上がり美人図」 江戸時代(19世紀前半) 個人蔵 [通期展示] 女性の浴衣は裾を引きずって着用するスタイル。そのため、外を出歩く際は裾を持って歩いていたそう。
江戸時代の浴衣は町娘のファッションアイテムに!
浴衣が室内で着用する湯上り着として定着するにつれ、通常の外出着には見られない、独自の大胆なデザインが多数誕生しました。例えばこちら。
白麻地紅葉筏(いかだ)模様浴衣 江戸時代(18世紀前半) 個人蔵 [前期展示]白麻地槍梅(やりうめ)若松模様浴衣 江戸時代(18世紀後半) 東京国立博物館蔵 [後期展示]
画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
どちらもインパクトの大きい柄と、斜めに入った直線が清々しさを感じさせるデザイン。麻製で、お風呂上がりに着ると涼しく、リラックスできそうですね。ちなみに槍梅とは、槍のようにまっすぐ伸びた枝に梅の花や蕾の柄を配した文様のことです。
浴衣の「粋」を支えた圧巻の職人技!
浴衣を着用する機会が増えるにつれ、見る人を楽しませることも意識した自由で繊細な図案が生み出されます。
それを可能にしたのが、布地に型を置いて模様を染める「型染(かたぞめ)」や布の一部を絞った状態で染液に浸して模様を作る「絞り」など。染色技法が発達したことが大きく関係しています。
本展は、江戸から明治時代の型紙や、型染・絞りの浴衣の「粋(いき)」な表現を味わえるのも特長です。
華やかでキュートな図柄がたくさん! この細工ひとつひとつが、何種類もの形をした刃を使って、手で彫られています!
白と藍のコントラストが美しい、意匠を凝らした型染の浴衣を多数展示。ここに写っているのは明治時代から大正時代(20世紀前半)にかけてのもの。
江戸時代に作成された型染の見本帳。江戸時代は既成品を買う文化はなく、呉服屋で注文する場合はこのような本を見ながら決めていたそう。
近代日本画の巨匠がデザインした浴衣もステキ!
昭和になると、江戸時代後期の流れを受け継いだデザインとは異なる自由でモダンな雰囲気をまとった浴衣が登場します。こちらの浴衣は朝顔と麻の葉文様をリズミカルに配し、見るだけで楽しくなるような、遊び心にあふれています。
白紅梅織地朝顔麻葉模様浴衣 昭和時代(20世紀前半) 東京都江戸東京博物館蔵 [後期展示]
また、風俗画や美人画を多数描いた近代日本画家、鏑木清方(かぶらぎきよかた)がデザインした浴衣も注目したいもの。ちなみに夏の風物である浴衣姿は、清方が最も描きたいと思った題材のひとつだそうで、展覧会に出品するような大きな作品から、雑誌の口絵などの小さなものまで、幅広く制作していました。
さらに私の心を鷲掴みにしたのが、「長板中形(ながいたちゅうがた)」の高度な技術を背景に自身の中にある美意識や大地のような大らかさと力強さをあわせ持つ浴衣! 前に立った途端、「こんなステキなオーラを放つ作品があるんだ!」 と、目が釘付けに。しばらくその前から動けませんでした。
ちなみに、「長板中形」とは、江戸時代以降、浴衣の模様として発達し、江戸時代中期から明治時代前半期まで大流行した型染の技法。約6.5mの長い板の上に布地をはり、小紋と大紋の中間程度の文様が彫られた型を用いて糊を引き、藍甕(あいがめ)で染める染色方法です。通常の着物は表だけですが、こちらは両面を染めるため、表と裏の柄がぴったり重なるようにしながら表と裏別々に糊(のり)を置く高度な技術が必要とされます。
本展では、江戸時代から受け継がれている長板中形の繊細な作業の様子を収めた映像も流されていて、「長板中形」に対する理解も深めることができます。
そして、会期中はこどもや赤ちゃん向けの鑑賞会や、トークイベント、コンサートなど多数のイベントも開催! 現代とは一味違った魅力をもつ浴衣を通して、夏の涼を感じてみてはいかがでしょうか。
展覧会情報
展覧会名 ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし
会場 泉屋博古館分館
住所 東京都港区六本木1丁目5番地1号
会期 2019年5月28日(火)~7月7日(日)
[前期:5/28~6/16 後期:6/18~7/7] ※前後期で大幅な展示替えがあります
開館時間 10時~17時(入館は16時30分まで。月曜休)
公式サイト