妖怪というと、巨大な骸骨の「ガシャドクロ」や、頭がみょーんと伸びた「ぬらりひょん」など、ちょっぴり怖いイメージですよね。でも中にはこんな美女やイケメンの妖怪もいたのです!
姫から鬼、そして蛇に!? 「清姫」
奥州白河(現在の福島県白河市)の山伏、安珍(あんちん)は、熊野詣の際に紀州(現在の和歌山県)の真砂庄司の家に宿をとっていました。そして、その家に住む美しい娘・清姫(きよひめ)に、「嫁にして連れて帰る」などと戯れに言ってしまいます。しかし安珍は僧なので、妻をもてず結局逃げてしまいました。
待てども待てども戻ってこない安珍に、清姫の怒りは爆発。美しい顔は一変し、鬼のような形相で安珍を追ううち、いつしか蛇身に……。安珍は道成寺の鐘の中に隠れますが清姫に追いつかれてしまい、彼女の吐き出す火焔で鐘ごと安珍を焼き殺してしまいます。
安珍の軽はずみな行動で起こってしまった悲劇。考えなしの言葉で人を傷つける前に、安易な物言いをしないように気をつけましょう、ということでしょうか。少しやりすぎ? な気がしなくもないですが、清姫の美しさが豹変してしまうほどの悲しさや寂しさが安珍を待つ間に積み重なっていったんだと思うと切なくなります。それにしても無責任な言葉を放つ方っていますよね! ほんと! 翻弄されたくないものです!!
人魚の肉で不老不死に! 「八百比丘尼」
昔、若狭(現在の福島県)にある村で、浜で拾った人魚の肉というものが振る舞われることに。人魚の肉を食べると不老不死になるという伝説がまことしやかに囁かれていましたが、村の人々は気味悪がり食べるふりをして捨ててしまいました。ところがひとりの男だけが人魚の肉を持ち帰ってしまいます。そしてその家の美しい娘が父が持ち帰った肉を食べてしまうのです。その結果、娘は十代の美しい見た目のまま、老いることも死ぬこともできないまま八百年生き続けることになりました。
美しい娘を嫁にと望む声は多かったものの、夫は必ず先にこの世を去ってしまいます。いつまで経っても姿が変わらない娘に、周囲の人々も恐れ遠ざかっていき、世を儚んだ娘は諸国を巡り、若狭の地で入定(にゅうじょう)したと言われています。
愛する人を見送り、たったひとり残されて無限の時を過ごす。娘が望んで不老不死になったわけではないからこそ少し切ないですね。命あるものはいつかはこの世を去るということは、変えようのない事実。永遠の命を求めるよりも限りある命を大切に生きよ、ということでしょうか。
超絶ド級のイケメン妖怪!? 「桂男」
インドにあった説話が中国を経て日本に伝わったとされています。中国の古書『西陽雑俎(ゆうようざっそ)』によると、桂男(かつらおとこ)の姓は「呉」、名は「剛」といい、ある罪を犯したため、月にある月宮殿にそびえる桂(ここでは木犀-もくせい-を指します)の木を伐り続けるという罰を受けたそうです。日本の伝承では絶世の美男子といわれていた桂男。満月ではない夜にあまりにも長く月を眺めている人間を手招きすると言われています。そして招かれた者は寿命が縮まってしまうんだとか……!
月に住む美男子が見えたらずっと眺めていたい気分になってしまいますが、それだけで時間が過ぎてしまうのはもったいない。命が縮まる前にもっと特別なことをしてみよう! ということでしょうか。それにしても、「絶世の美男子」に手招きされたら身を乗り出してしまいそうです。危ない危ない。
参考:『日本の妖怪カード(専用日本語解説書付き)』(ヴィジョナリー・カンパニー)