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2020.07.04

「梔子」ってどんな花?花言葉や季節、初夏の香りを楽しむレシピも紹介!

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「香りは、記憶と深く結び付いている」

この言葉を聞いて、どんな香りを思い出しますか。

私が真っ先に思い出したのが梔子(くちなし)の香り。道端などでクチナシの甘くて濃い香りに触れると、夏の思い出がふわりとよみがえり、今年も暑い夏がやって来たなと感じます。

初夏の香りとしても知られるクチナシですが、花だけでなく実も古くから人々に親しまれてきました。特に実には「疲労回復効果」が期待され、東海道の名物料理や漢方薬として使われてきた歴史もあるんです。

ではさっそく、ちょっと不思議なクチナシの魅力をお届けしていきますね。

独特の香りと幸運な花言葉

6~7月にかけて白い花を咲かせるクチナシは、アカネ科の常緑性低木。漢字では「梔子」と書きます。

クチナシの独特のエキゾチックな香りには、興奮した神経を鎮める「リラックス効果」などが期待されています。この香りのファンは多く、香水やシャンプーなどにもよく利用されています。花から香料を取ることは非常に難しいため、香りを調合したもの使うことが多いのだとか。

結婚式のブーケや贈り物などにもよく使われる、クチナシ。花言葉は「私は幸せ者」「喜びを運ぶ」「洗練」「優雅」。祝いの席を彩るのにもぴったりですね。こうした幸運なイメージは、あの甘くて濃い香りと結び付いているようです。

ちなみに、香りの強い花を代表するものとして「春はジンチョウゲ、夏はクチナシ、秋はキンモクセイ」とも言われ、これらは「三大香木」とも呼ばれています。いずれも街路樹や公園などでもよく使われており、花の咲いている時期に近くを通ると、その香りに思わず振り返ってしまうほどです。

不思議な名前の由来は?

それはそうとして。クチナシという名前には、何だか不思議な響きがあると思いませんか。

この名前の由来には諸説ありますが、一説としては「果実が成熟しても実が開かないから」と言われています。その様子は、歌にも詠まれています。

「山吹の 花色衣 主や誰 問へど答えず くちなしにて(秋が過ぎて冬がやって来たのに口を開けようとしない)」

この歌にもあるように、クチナシは花だけでなく、実にもまた独自の存在感があります。続いては、この実に注目してみましょう。

11月の終わりから12月頃になると、実が色付いてくる。

鮮やかな色付けに欠かせない実

クチナシの実を使った料理と聞いてすぐイメージするのは、おせち料理の一品「栗きんとん」ではないでしょうか。クチナシの実を使うことで、お正月らしい鮮やかな黄色に仕上がります。

また、昔は「たくあん」や「高菜」など漬物の色付けとしてもクチナシの実がよく使われてきました。現在は、より簡単な方法として、クチナシ以外の着色料を使うことが増えてきています。

一粒の実を加えるだけで、鮮やかな色にパッと変化するのはとても不思議ですね。

というのも、クチナシの実は染料としても使われてきた歴史があります。日本の伝統色のひとつに「梔子色」があることからも、その古い歴史がよく伝わってきます。

以前にクチナシの実でハンカチを染めてみたことがありますが、手軽に染物が体験できます。スカーフやTシャツなどを染めてみるのもいいかもしれません。お子さんのいるご家庭では夏の自由研究にもぜひおすすめです。

旅人の疲れを癒した「瀬戸の染飯(そめいい)」

東海道を行き来する旅人たちに人気のあった名物料理のひとつ「瀬戸の染飯」。クチナシの実を使って炊いたおこわのことで、鮮やかな黄色に染まっています。浮世絵などにも、この染飯がたびたび登場しています。

小林一茶は、柏の葉で包まれた染飯の美しさに心を惹かれて、こんな歌を詠んでいます。

「染飯や 我々しきが 青柏(私たちまでも青い柏の葉で包まれた染飯がいただけるとはありがたい)」

もちろん染飯の魅力は、その色合いだけではありません。

冒頭でも少し触れたとおり、クチナシの実は古くから漢方薬としても使われており、「消炎」「鎮痛」「解熱」などの効果が期待されてきました。長距離を歩く旅人たちの間では「足腰の疲れを取る」と評判を集めていたようです。また、クチナシの実には防腐効果もあるとされ、携帯食としても使われていました。

つまり、クチナシの実を使った染飯は、目から口から私たちを癒してくれているんですね。ちなみに、現在も東海道の一部の地域では、おめでたい席などにこの染飯を炊く習慣があるのだとか。

カレーにもぴったり「クチナシの黄飯(きいはん)」

染飯にもよく似たものとして、私の暮らす愛知県名古屋市では「黄飯」というものがあります。

黒豆が上に乗っていて、端午の節句に食べる習慣があります。この黄色には魔除けや邪気払いの意味が込められているのだとか。ご縁日などには「染飯」を振舞う屋台が出店するなど、時を超えて人々に愛されています。

さらにこの黄飯は、カレーなどに合わせるのもぴったり。カレーに添える黄色のごはんと言えば「ターメリックライス」が定番ですが、ターメリックと同じくらい、食欲をそそる色に仕上がります。

その他にも、ビビンバや混ぜごはんなどに合わせるのもおすすめ。お弁当のごはんにすれば、パッと目を引く色合いになります。とても簡単に作れるので、食欲が落ちがちな梅雨~夏にかけての食事づくりにも活躍すること間違いなし!

以前に開催した教室の様子。クチナシの黄飯の上に、野菜のおかずを乗せてビビンバ風に。

では、作り方をご紹介しますね。

クチナシの黄飯を作ってみよう!

〈材料〉作りやすい分量
・米 2合
・クチナシの実 1~2粒
・水 2カップ

〈作り方〉
1.米は研いでザルにあげておく。
2.クチナシは実を割って、水とともに鍋に入れる。
3.鍋を火にかける。沸騰したら弱火にして、2~3分煮出す。実を濾して、粗熱が取れるまで冷ます。

煮出すことでしっかりと色が出ます。後で濾すので、実が割れてしまっても大丈夫。

4.米に3の液体と水(足りない分)を加えて、普通に炊く。

炊きあがったごはんにカレーを添えれば、できあがり!

まるごと、自然の恵みを満喫しよう

甘くて濃い香りだけでなく、実も美味しく食べられて、植物全体まるごとを楽しむことのできるクチナシ。季節を心地よく健やかに過ごすための、自然からのギフトとも言えそうです。

道端でクチナシの香りを感じたら、少しだけ立ち止まって、先人の知恵や暮らしを思い出してみるのもいいかもしれません。

自然の恵みを身体いっぱいに味わって、健やかで幸せな日々が過ごせますように。

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/