「海外の赤ちゃんは、何を、どんなふうに食べているんだろう?」
自身に子どもが生まれ、離乳食を食べるようになった頃、そんな疑問をよく感じるようになりました。例えば日本の離乳食は「生後5~6ヶ月を目安に」「10倍のお水で炊いたお粥から」などなど、いろんな決まりごとがあります。もちろん、その決まりに従って慎重に進めていくのですが、思うように赤ちゃんが食べてくれないと「あー、もう疲れた! 」と弱音を吐いてしまうこともしばしば。
少しだけ見方を変えることができれば、離乳食はもっと楽しめるのになぁ。そう考えていた時に出会った、友人の書いた一冊の本。これが大きな助けになりました。
どの国の離乳食にもストーリーがある
本のタイトルは『FOOD & BABY 世界の赤ちゃんとたべもの』。24ヵ国、46名のお母さん・お父さんへのインタビューやアンケートをまとめた一冊です(2019年9月、三恵社発行)。
この本の著者・きひらまりこさんもまた、小さな子どもを育てる現役のお母さん。まりこさん自身が離乳食で悩んだ時に、他の国の友人に相談していたら「心が軽くなった」のだとか。
この体験を自分の中だけに留めておくのはもったいない! という気持ちで、2019年2月に静岡県浜松市で展示会「FOOD & BABY世界の赤ちゃんとたべもの」を開催。この展示会がきっかけで「書籍を作ってほしい」という声が集まり、本の執筆・出版に至ります。
離乳食に関する本はたくさんありますが、それぞれの国で離乳食に奮闘する家族の様子がありのままに綴られた本は珍しいかもしれません。悩んだり笑ったりしながらも何とか前へと進んでいく様子に、何とも言えない人の力強さや温かさを感じます。
離乳食に奮闘中という方や「これから」という方はもちろん、食べることに関心のある全ての方にぜひご紹介したいと思い、今回記事を書くことにしました。
「最初のひとくち」は何を食べる?
さてさて。離乳食を始めようと思った時、日本の赤ちゃんが初めて口にするのは、お米に対して10倍のお水でトロトロに炊いたお粥。これは「10倍粥」とも呼ばれています。
今まで母乳やミルクしか飲んだことのない赤ちゃんが、食べ物に興味を持ち、目の前のお粥を口に含む様子はちょっと「感動もの」。かくいう私自身も、我が子が初めてお粥を食べた時、涙がポロリとこぼれてしまいました。
では、他の国の赤ちゃんは「最初のひとくち」に何を食べているのでしょう。
・米のお粥(韓国)
・アボガドジュース、パパイヤのピュレ(インドネシア)
・米ベースのセレラック(ブータン)
・手作りの野菜スープ(アフガニスタン)
・米のお粥と果物や野菜のすり潰し(カナダ)
・蒸したじゃが芋と人参(イタリア)
・りんごのムース(ハンガリー)
・米のお粥、バナナや煮込んだ人参(メキシコ)
・さつまいもと粉ミルクを混ぜたもの(ブラジル)
・小麦ベースのシリアル(ナイジェリア)
・キビ・ヒエ・アワなどのお粥(ガーナ)
(出典:『FOOD & BABY世界の赤ちゃんとたべもの』より一部抜粋)
日本を含むアジアの国々ではお米を使ったお粥から始めるのが主流のようです。世界を見渡すと、米以外の穀物や野菜、果物を使った離乳食から始める国々もあるのだとか。ちなみに「セレラック」というのは、ネスレ社が販売する離乳食ブランド。さまざまな国で販売されているそうです。
味付けや量はどうしている?
日本では、素材本来の味を感じることを大切にしているため「離乳食初期には味付けをしない」ことが基本。では、他の国ではどうなのでしょう。
・腐らないように塩を入れる(フィリピン)
・味付けはしないが、ハーブやネギなどは入れる(ブラジル)
・8~9ヶ月から唐辛子を食べる子もいる(ブータン)
(出典:『FOOD & BABY世界の赤ちゃんとたべもの』より一部抜粋)
「赤ちゃんに唐辛子を食べさせる」と聞くとびっくりする方も多いと思いますが、唐辛子にはたくさんの種類があります。辛味だけでなく甘味が感じられるものあり、現地では野菜や果物のように扱われているのだとか。そんなところにも、その国ならではの食文化が垣間見られて、興味をそそられます。
また、本のなかでは離乳食の量について、日本人(日本生まれで日本で子育て)の全員が「本やマニュアルを参考に量を決めた」と回答しているのに対して、他の国々では「赤ちゃんの様子や専門家のアドバイスによって量を決めた」という声が多く挙がっていたのだとか。
特に印象的だったのは「(日本のような基準がないので)自由」「赤ちゃんがどれだけ食べたいかで決める」「赤ちゃんを観察する」といった数々の声。
赤ちゃんの側にも、食べたい時と食べたくない時がある。
こう書くと当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、本やマニュアルなどと照らし合わせることに一生懸命になっていると、つい見落としがちな視点なのかもしれません。目の前の赤ちゃんの様子をしっかり観察することも、ぜひ大切にしたいですね。
離乳食は「十人十色」
本の最後には、世界の離乳食のレシピも掲載されています。例えば、インドネシアの「骨髄粥」。何とも不思議なネーミングですが、断食月に食べられるもので、骨髄の色に似ていることからこの名前が付いたのだとか。大人のおやつとしても食べられているそうです。
材料は、米粉・ココナッツミルク・パンダンリーフ・塩・水・ココナッツシュガー。パンダンリーフは、香りづけに使われる葉のこと。パンダンリーフは私も食べたことがありますが、バニラやココナッツを思わせる甘い香りがあります。
この他、麺類やスープ、その土地ならではの果物を柔らかく煮てつぶした「ピュレ」や「ペースト」などの料理の紹介も。胃腸が弱っている時や身体を休めたい時など、大人も一緒に食べられる料理もたくさんあります。
まりこさんは各国の離乳食について調べていくうちに「離乳食は特別なものではなく、生活の中に自然にあるもの」と気付いたのだとか。本のレシピを眺めているだけでも、大いに共感できる言葉です。
「みんなで食べるから美味しい」。大切な人たちと食卓を囲む楽しさを、離乳食を通して赤ちゃんと一緒に感じることができたら、こんなに幸せなことはないのかもしれません。
また、海外旅行に出かけた後で「世界に触れたことがきっかけで、日本のことが見えてきた」「日本のことをもっと知りたくなった」と語る方は多いですが、離乳食にも同じことが言えるのではないでしょうか。
私自身は、この本を読んでいるうちに「ひとさじのお粥」から始まる日本の離乳食が、何だかとても愛しく感じるようになりました。
食べることは、生きること
食文化や風土は違っても「たくさん食べて、元気に育ってほしい」という赤ちゃんへの気持ちは共通するもの。その気持ちがあれば、あとは十人十色。そう思うだけで肩の力が抜けるような気がするのは、きっと私だけではないでしょう。
食べることは、生きること。
小さな心と身体は、毎日食べたものでぐんぐん成長していきます。
でも難しく考えずに、赤ちゃんと一緒に離乳食を楽しみ、少しずつ成長していけるといいですね。最後に、離乳食をいろんな角度から考えるきっかけを与えてくれた一冊に感謝を込めて。
◆『FOOD & BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
世界の離乳食から見える ひと・社会・文化
著者:きひら まりこ
発行所:株式会社 三恵社
ISBN:9784866931005