敏感肌(で酒飲み)のわたしがたどり着いた、お酒が100%主原料の消毒液
「新しい生活様式」の必需品であるアルコール消毒液。外出先で思いがけず食らう消毒液のパンチにまだ慣れない私です。おしゃれなレストランで粘度の高い液体を手にたらされて、呆然となったたり、嫌なアルコール臭に顔がピリピリしたり。新型コロナウィルスとの付き合いは、この先も続きそう。だからこそ、せめて自分で使うものは、天然由来の原料のものにしたいと思ったりしませんか?
そこで私が着目したのが、酒づくりが本業の蔵元がつくった「高濃度エタノール液」。政府の特例により、期間限定で酒造メーカーがアルコール濃度の高い酒(60度以上)を製造・販売する許可が出ている現在、さまざまな蔵元から消毒液代用品が販売されています。医薬品や医薬部外品ではありませんが、消毒用エタノールの代替品として手指消毒に有効とされています。
ここで取り上げたのは、自社のお酒を原料に「再蒸留」の技法で高濃度アルコール液に転換したもの。この技法は焼酎蔵に限定されるのですが、丁寧につくられた本格焼酎をさらに気化して度数をあげたものを瓶詰めするなんて! もちろん原価割れですよ、赤字覚悟です。
それでも地域住民のためにと決断した蔵元があり、このピンチをチャンスにとらえて新しい分野の酒づくり(酒の分類ではスピリッツと呼ばれる。スピリッツ製造には通常であれば免許取得が必要)に挑んだ蔵元がある。紹介する5つの蔵元の開発秘話には、日本のものづくりの底力を感じます。
5本の中には、飲用可能な消毒液もあったりして(ニンマリ)。そして飲用不可の消毒液は、その原酒に近いものを蔵元から取り寄せて飲んでもみました。だって消毒液が買いたくなったら、ついでにその蔵のお酒も買っちゃうでしょ。ふだんはどんなお酒をつくっている蔵なのか、気になるのが酒飲みというものです。ということで、消毒液のお試しも「酒飲み目線」でコメントしてみようかと。
この記事は2部構成でお届けします。まずは消毒液5本を酒飲みのコメントと共に紹介。消毒液を試す間はお酒は口につけず、手の感触に集中したことを強調しておきましょう。そののちの試飲会の様子は、こっちも酔っ払っていますので、お酒片手にゆるっと読んでいただければ幸いです。
登場人物の紹介
山枡俊二:鳥取発、燗酒向きの酒をメインに、焼酎や自然派ワインを扱う「山枡酒店」店主。こだわり満載の店の様子は和樂Webのこの記事を参照。今回紹介する5つの蔵元のうち「梅津酒造」と「豊永酒造」は取引先であり、蔵元を熟知していることから今回の参加となった。お掃除愛好家でもある。肌のテクスチャーの好みはもっちり。好きな香りは出汁と柑橘類。
本多知己:和樂Webデスク。2018年夏から和樂本誌と和樂Webのデスクを兼任、現在は2020年9月17日刊行予定のウィークリーブック「ニッポンの浮世絵100」に携わる。和樂の酒飲み担当、本誌の日本酒とつまみ特集のスピンアウト企画のWeb記事でも日本酒愛を大いに語る。肌のテクスチャーの好みはしっとり。レモンと石鹸の香りが好き。
藤田 優:フリー編集者。和樂本誌の食い気担当、和樂Webでは日本酒のお燗酒と京都、手仕事のテーマで寄稿。肌のテクスチャーの好みはすべすべ。和のお香の原料である伽羅、沈香、白檀の香りがやっぱり落ち着く。この企画と取材、そして座談会の司会を担当。
前半は奄美大島から北海道まで、5つの蔵元を南から順に紹介
*各商品紹介の巻末に入るデータは①本体価格 ②容量 ③アルコール度数 ④飲用の可・不可 ⑤購入方法を示す。
奄美大島開運酒造(鹿児島県)
黒糖焼酎を原料に柑橘タンカンで香りづけ
「奄美アルコール66%」
サトウキビからとれる純黒砂糖と米麹が原料となる黒糖焼酎は、鹿児島県・奄美群島にある蔵元だけが製造を許されている。奄美群島の中で最高峰となる「湯湾岳(ゆわんだけ)」は、奄美の創世神が祀られる神聖な山。そのふもとに位置する「奄美大島開運酒造」は、湯湾岳の清らかな伏流水を使用した酒づくりを誇る。
「蔵人が丹精込めてつくった焼酎を消毒液にすることにはかなり迷いがありましたが、感染者が発覚して島内が一時パニックになったんです。それで心が決まったと言いますか。離島で消毒液の供給が逼迫した場合、蒸留器と代替原料を持つわれわれ焼酎メーカーがやらなくてどうする、と奮起しました」(常務取締役・泊浩伸さん)
消毒液「奄美アルコール66%」の原料は38度の常圧蒸留(旨みが濃い)の黒糖焼酎。これを「単式蒸留法」で1回から2回蒸留して完成。焼酎の香りが苦手な人を配慮して、奄美特産の柑橘「たんかん」のフレーバーが加えてある。「単式常圧法で丁寧に仕上げているので、黒糖の香りが残っている。手からいい匂いが立ち上ってくる。飲んだらうまそうな予感、飲めないのが悔しい(笑)」(山枡さん)、「毎日使いたくなる甘い香り」(本多)、「ごちそう感がある匂い」(藤田)と3名そろって香りのよさに評価が上がった。
原料の米麹由来の油分の効果か、肌がしっとりする感触がある。蔵人たちの間でも「市販の消毒液よりも手に優しいと評判です」(泊さん)。
*「奄美アルコール66%」は飲用不可だが、それに近い味わい、と蔵元がすすめるアルコール度数44度の黒糖焼酎「FAU」は後半の座談会で紹介。
①780円 ②300ml ③66度 ④飲用不可 ⑤奄美大島島内の限定発売だが、オンラインショップで購入可能。
豊永酒造(熊本県)
オーガニック米100%の「飲める」消毒液
「有機米オーガニックアルコール70」
豊永酒造のある熊本県球磨郡は四方を山に囲まれた盆地で年間降水量が2500mlを超える非常に降水量の多い地域(令和2年7月豪雨では大きな被害は免れた)。高温多湿な気候のため古代から稲作が盛んで、米焼酎づくりも500年の歴史をもつ。豊永酒造は明治27年の創業。
現当主である4代目の豊永史郎さんが原料を有機農法米に切り替え、有機オーガニック焼酎を展開。現在は自社田をはじめ契約農家までオーガニック認証を受けているのがこの蔵の最大の特徴。「いい原料を使って、麹づくりに全神経を注ぐ。ここまで麹にこだわる焼酎蔵はないと自負しています」(4代目当主・豊永史郎さん)。
消毒液「オーガニック70」はその有機米米焼酎が原料。「消毒液は直接肌に触れるものであるし、うちでしかつくれないものと考えたら、有機オーガニック米焼酎の選択でした」(常務・豊永遥さん)。香り付けにはたくさんのハーブやスパイスを試したそうだが、最終的には米焼酎と相性がよく、抗ウィルスが期待される「エルダーフラワー」が採用された。
「エルダーフラワーの香りはすぐに飛んじゃうんだけど、香りが消えるのが惜しくなる匂い」(山枡さん)。球磨郡最高峰の「市房山(いちふさやま)」を含む球磨川の源流の伏流水を使用した水のせいか、オーガニック原料の影響か、「肌の浸透がとてもいい!」(藤田)、「化粧水のような使い心地」(本多)とそのテクスチャーも好評。
近隣住民の役に立てたら、という思いと、前々からスピリッツの製造免許をとることに意欲があったため、このタイミングでスピリッツ製造に挑戦を決意。「オーガニック70」に酒税をつけて「飲用可の消毒液」にした理由は、「球磨焼酎の伝統を継ぐつくり手として、焼酎文化も同時に伝えたい」(豊永遥さん)。飲み口はほんのり甘く、品のいい味わい。おすすめの飲み方、そして「オーガニック70」誕生のきっかけとなったカルダモン焼酎の話は、この後に続く座談会でどうぞ。
①2200円 ②500ml ③70度 ④飲用可 ⑤ホームページのオンラインショップもしくは全国の特約店で購入可能。
落合酒造場(宮崎県)
神亀酒造の酒粕を使った「飲める」消毒液
「鏡洲(かがみず)スピリッツ75」
焼酎の本場、宮崎県宮崎市にある落合酒造場は、代々家族だけで酒づくりを営んできたという100年以上の歴史のある蔵元。本格芋焼酎といえば黄金千貫を使ったものが恒例だが、落合酒造場で人気があるのは「紫芋」の芋焼酎。新しいことに挑戦するのが好きな先代(3代目)が手がけたものだそう。
今回紹介する酒粕焼酎の誕生も3代目のとき。当主同士で交流のあった埼玉の神亀酒造(日本酒のつくり手)から譲りうけた酒粕が原料で、落合酒造場の隠れた名物になっている。その酒粕で消毒液をつくることにした理由は、「酒粕は穀物に比べたら原価は安い。酒粕焼酎を再蒸留するのであれば、低価格でできると思いました」(4代目当主・落合亮平さん)。
消毒液「鏡洲スピリッツ75」の原料は、酒粕焼酎「残心」(常圧蒸留)。商品名にある「鏡洲(かがみず)」とは、蔵のすぐ隣を流れる川の名前で、この川を仕込み水に使っている。飲用可能として販売するため、原酒を「減圧蒸留」してクセのない香りに仕上げた(減圧蒸留は常圧蒸留に比べて、淡麗で飲みやすい仕上がりになる)。そして再度蒸留してアルコール度数を80度まで上げて、加水して75度に調整。「わざわざ2回蒸留するのは、アルコール度数を高めるためです。殺菌能力が少しでも高い方がいい」(落合さん)
「封を開けた直後は、”セメダイン臭”がするけれど、これは蒸留したての若い焼酎にはあること。消毒液として使う人にとっては、気にならないと思います」」(山枡さん)。「揮発性の高さは5本の中でもいちばんで、さらっとしている。僕も匂いが最初だけ気になりました」(本多)、「匂いもテクスチャーも消えるのが早く、すべすべした肌触りだけが残るのは酒粕効果か? 肌がなめらかになった気がする」(藤田)と5本の中でもアルコール度数がいちばん高いこちらは、さまざまな感想が集まった。
「鏡洲スピリッツ75」に酒税をつけて販売したのは、焼酎蔵が挑戦した新しいジャンルの酒を楽しんでもらいたいから。スピリッツの製造は、慣れないことで苦労を伴うものだったが、新しい技術を得ることができて大きな刺激になったそう。「日本酒と米焼酎の中間ぐらいの味わいを狙いました。ウォッカのような飲み心地でありながら、米の柔らかな味がします」(落合さん)。ライムを口に含んでロックで飲むと、確かに! さらに当主おすすめの飲み方は、後半にて。
①1600円 ②500ml ③75度 ④飲用可 ⑤お近くの酒屋か、蔵元に直接問い合わせを。
梅津酒造(鳥取県)
熟成10年のさつま芋焼酎に杉の香り
「AL-To70(アル・ト70)」
鳥取県北栄町にある梅津酒造は、日本酒、しかも燗酒向きの生酛づくりを主軸に置く蔵元であることは、過去の和樂Webでもフランス人がつくる日本酒を陰で支えてきた記事や、酒づくり真っ最中の蔵元訪問記でも紹介してきた。
が、実は焼酎蔵でもあるのだ。地元の特産品を使った酒づくりが信条のこの蔵は、鳥取県が特産の「砂丘長芋」を使った焼酎の製造も行っている。ということで、今回の消毒液も鳥取県産の天然素材が盛り込まれ、原料は長芋ではなく「サツマイモ」、香り付けに智頭町のフレッシュな杉のチップを採用。仕込み水は鳥取県の名峰・大山(だいせん)の伏流水だ(商品名のアルトにはAll Tottori の意味も込められている)。
「地元の農家さんから譲ってもらった県産のサツマイモで焼酎を仕込んだのが10年前。商品化のきっかけを狙いながら、ひたすら寝かせていたものがあったんです。で、今年になって鳥取の中心地から外れた僕たちのところにも消毒液が足りない、という声が聞こえてきた。そこで社会の役に立つのならと、サツマイモ焼酎の使い道を消毒液に決めました」(梅津酒造 製造部長・梅津雅典さん)。
熟成酒は梅津酒造の得意とするところだが、まさかの消毒液にも! 他社の消毒液には蒸留したての若い香りを感じるが、「AL-To70」のまろやかな熟成香につくり手の個性を感じた。「栓を開けると一瞬だけ杉の香りがするんだけど、その後は芋の香り。芋というより、”焼き芋”。なつかしい匂いがするんだよ」(山枡さん)、「杉と芋の相性のよさに驚き。和の香りの消毒液というか、オーガニックな感じがします」(本多)、「智頭町に行ったことのある私は、森の風景が目に浮かぶと言いたいところですが、日本酒の樽酒を思い出しました(笑)」(藤田)。
*「AL-To70」は飲用不可だが、同じく熟成させた焼酎の味わいが楽しめる「砂丘長いも焼酎」の原酒(アルコール度数40)は後半の座談会で紹介。
①1300円 ②500ml ③70度 ④飲用不可 ⑤蔵元に問い合わせをすると、全国の取扱店を紹介してもらえる。
さほろ酒造(北海道)
十勝産小麦で醸した小麦焼酎が原酒に
「SAHORO65%」
締めにご紹介するのは、北海道十勝にある「さほろ酒造」。今でこそ東京や大阪の感染者数が話題の中心になっているが、初期は北海道の数も深刻であった。これまで紹介してきた蔵元と同じ思いで決断した蔵元が、道内にもきっとあるはずと探してみたところ、「さほろ酒造」に巡り合った。
寒い地域で焼酎をつくるのは意外な気もするが、北海道十勝地方は山に囲まれ、寒暖差のある気候。大麦、小麦、蕎麦、トウモロコシと焼酎の原料の宝庫であった。「さほろ酒造」は北海道の原料にこだわった焼酎づくりが自慢。大雪山系の伏流水を仕込み水に使い、この水なくして「透明感のある旨み」は生まれないそうだ。30年前に創立したまだ若い蔵で、2回の再建を経て、現在は少数先鋭の地元の蔵人で営まれている。
「自粛ムードで蔵にはたくさんの原酒が残っているのに、地元や道内には消毒液用のアルコールがないと声が聞こえてきて、モヤモヤしていました。スピリッツ製造販売の免許は通常であれば2ヶ月を要するので、手続きに迷いがあったのが4月ごろ。それが短期の手続きになり、5月には酒税をつけなくていいことにもなって、これで正規の焼酎を蒸留しても消費者の手の届く価格になる、と商品化が見えました」(代表取締役・仲鉢孝雄さん)
北海道でいち早く免許を申請。最短で消毒液を完成させた。原料は十勝産小麦で醸した「小麦焼酎ぱんぱか」の原酒。スピリッツと名乗るには、香りをつける、もしくは白樺炭(しらかばたん)ろ過を行うなどの必要があるが、「SAHORO65%」は白樺炭ろ過を選択した(今回5本のうち香りづけをしていないのは、「SAHORO65%」と「鏡洲スピリッツ75」)。また、できるだけ価格を抑えるために、既存商品の瓶を採用。キャップやラベルも”手づくり仕上げ”に徹底している。
「香りや使い心地は頭に入れずに消毒液として機能すればいい、という考えがそのまま商品になっている。その潔さは評価したい」(山枡さん)、「身に付けるものは無香料が好きなので、これは安心して使えるかな」(本多)、「肌のテクスチャーも特筆すべきことはないのが、寂しいような。本来の消毒液はそういうものなんですけれど」(藤田)と、「SAHORO65%」の”ど直球”なあり方に同じ反応が寄せられた。
75度の消毒液は医療従事者などプロの現場で使うように一升瓶が用意され、一般家庭用に65度のものが4合瓶で提供されている。
*「SAHORO65%」は飲用不可だが、蔵元イチオシの北海道限定のそば焼酎を後半の座談会で紹介。
①1570円 ②720ml ③65度 ④飲用不可 ⑤蔵元へ電話(0156645525)もしくはファックス、メールにて問い合わせを
後半は試飲会! 消毒液から焼酎、リキュールまで同じ目線で語ります
藤田:(画面に向かって)山枡さーん、鳥取からのご参加、改めてありがとうございます。ひとまず消毒液のお試し会は終了です。いよいよ試飲会の始まりですよ。
本多:乾杯はどのお酒にしますか?
藤田:消毒液で飲めるものがいいなー
山枡:豊永酒造の「オーガニック70」にしようよ。アルコール度数がいきなり高いものよりは、低いほうから。最初から飛ばさない方がいいでしょ(笑)。
藤田:そうしましょう! では試飲会もよろしくお願いいたします。カンパーイ!
まずは「飲める消毒液」から飲んでみよう
藤田:豊永酒造に事前に聞いたところ、「オーガニック70」のおすすめの飲み方は、水割り、炭酸割り、トニックウォーター割りですって。アルコール2:水8がベストだそうです。
山枡:味を見るなら水割りがいいね。うちの店ではこれまで取り扱いがなかったので、初めて飲んだけれど、おいしいよ。
本多:ほのかに甘みがあっておいしい!
藤田:香りも爽やか。70度とは思えない! ところで、この企画を私が最初に思いついたときに、本多さんが「消毒液を飲むんですか? なんかやだなぁ」ってドン引きされたことは、ちゃんと今も覚えているんですが(苦笑)。よかった、実際はおいしく飲んでもらえて(笑)
本多:初めて聞いたときはよくわからなかったから。
藤田:その気持ちはわかるんです。何も知らないところで「消毒に使ってもいいけれど、飲めるんですよ」と言われたら、どういうこと? ってなりますよ。
山枡:封を開けたときに、最初に消毒液に使う分と飲む分と分けちゃえばいいんだよ。そうしたら、飲むときにヘンな気分にはならない(笑)。
藤田:いいアイディアですね! しかし、飲んべえはその配分に悩みそう。スプレーボトルからいじましく飲んでいる自分が想像できます(笑)。話は戻って、「オーガニック70」は炭酸とトニックウォーターを半分ずつ混ぜて割るのも、おすすめだそうですよ。
山枡:飲んでみたけど、トニックの甘みが増してちょっと甘すぎるかな。
藤田:山枡さんがほろ酔いに見えたのはもうひととおり飲んでいるからなんですね(笑)。どうですか、本多さん?
本多:確かにトニックウォーターは少なめでいいのかもしれません。なんだか飲みやすくて、最初から飛ばしちゃいますね。70度なのに(笑)。
山枡:蒸留した米焼酎にはない、日本酒っぽい味わいがあるよね。この柔らかな甘みが、エルダーフラワー効果なのかな。
藤田:このエルダーフラワーにたどり着くまでには豊永酒造さんはたくさんテストをされたそうで。「手元にハーブやスパイスがたくさんあったので」と言う豊永さんの言葉を聞き逃しませんでしたよ、私(笑)。焼酎蔵にハーブやスパイスがあるって、なんかある! 実は「オーガニック70」が生まれる前に、カルダモンの香り付けをした米焼酎をつくったそうなんです。オーガニック100%の米焼酎にエルダーフラワーをぶつける発想は、いきなりひらめいたわけではなく、段階を経たものだということにようやく納得できました。そんなわけで、特別にカルダモン焼酎も取り寄せてしまいました。これは最後に飲みましょう。
山枡:次は落合酒造場。「鏡洲スピリッツ75」はショットグラスで飲むんだよね?
藤田:スピリッツ2:水1の割合でレモンかライム、それから塩をつまみに飲むとおいしいと落合さんに教えてもらいました。
本多:パンチありますね。うっ、喉が焼けました(と咳き込む)。
山枡:オレはこれぐらいじゃ焼けないよ(笑)。
藤田:ストレートで飲むのは私もお手上げです。私はロックアイスでちびちびいきたいかも(と氷を入れる)。ライムが合う! 塩とライムをかじりながら、なめるようにして飲むのがいいかなぁ。
山枡:先に消毒液として「鏡洲スピリッツ75」を試したときに、藤田さんが「消毒液としてできるだけアルコール度数を高くするために、2回減圧蒸留した」って言ってたよね?
藤田:そうです。
山枡:それで納得したんだけれど、焼酎としての旨みがもうちょっと残っていたらなぁ、というのが僕の素直な感想。合計3回蒸留しちゃうのは、酒飲みから見たらもったいない。
藤田:アルコール度数を上げたいという落合さんの思いですからね。ゆっくり氷がとけて、味が落ち着いてきたら米の香りが立ってきましたよ。このお酒は、じっくり時間をかけて飲んだほうがいいのかも?
本多:ウォッカのような飲み心地を目指した、というのは新しいですよね。しかし、先ほどの「オーガニック70」に続いて、肌にのせた感想と飲み心地が同じっていうことが面白い。「鏡洲スピリッツ75」はスッとして後味が残らないというか。
藤田:確かに! これは飲み比べをしなかったらわからなかったことでした。「鏡洲スピリッツ」はフルーツジュースと割ってもおいしく飲めるそうですよ。クラッシュアイスにとろみのあるネクターを合わせても合うように思います。
次に「飲用不可」の消毒液の蔵元の酒を飲む。ふだんはどんなお酒をつくっているの?
藤田:消毒液に合わせて、飲む順番は南からといきたいところですが、奄美大島開運酒造の黒糖焼酎「FAU(ファウ)」は44度あるんだった! すでに酔っ払ってきたので、アルコール度数の弱い方からいってみましょう。北海道「さほろ酒造」の蕎麦焼酎「トムラウシのナキウサギ」です。
山枡:消毒液の元になった小麦焼酎ではないのね?
藤田:おすすめを聞いたら、「ぜひ蕎麦焼酎を飲んでもらいたい」と蔵元の仲鉢さんから言われまして。もともと十勝は蕎麦の産地ですが、そこで地元の蕎麦で焼酎をつくったのは「さほろ酒造」が初めてなので、力が入っているんですね。
山枡:なめらかで飲みやすいよ。一般的には蕎麦焼酎って、もう少し華やかな香りと味がするんだけれど、控えめだね。
本多:僕がこれまで飲んできたものとも、印象は違いますね。「さほろ酒造」の蕎麦焼酎はサラッと飲めて、これもアリです。
藤田:山枡さんの言うとおり、なめらかで飲みやすいです。水と割ってお燗にして飲むのもいいそうですよ。するっと飲めちゃって危険ですね。確かにもうひと声欲しい気がするけれど、大雪山の仕込み水は「透明感のある旨み」が特徴だそうなので、これが「さほろ酒造」の味なんですね。
山枡:これまで2回、蔵の経営者が変わっているんだよね。頑張って欲しいな。
藤田:ちなみに消毒液は、県外のお客様からの注文が多いようで「驚いた」とのこと。消毒液を見てもわかるように、愚直にお酒をつくっているのが伝わるんでしょうか。応援したくなりますよね。
本多:次は「梅津酒造」にいきますか。「原酒」「41度」って書いてある。ここからアルコール度数が一気に上がりますね。
藤田:これは梅津酒造の定番の「砂丘長いも焼酎」になりますが、「消毒液に近いイメージで」とリクエストをしたら「原酒」を梅津さんがすすめてくださいました。山枡さんは初めて飲まれます?
山枡:原酒を飲むのは、実は初めてかもしれない。
藤田:原酒なのでロックで飲むのが、香りも旨みもよくわかると思います。どうですか?
山枡:今、ちょうど飲みごろを迎えているのかな? いいね。
藤田:長芋の味は私にはわからないのですが、旨みの濃い焼酎の味はします。41度ですもんねー、香りにクラッとします。
本多:しっかりした風味を感じますね。これ、お燗にして飲みたいな。
藤田:それよい! ここにお湯があれば、試したかった(笑)。
本多:温めたら香りが広がって、もっと味わいが楽しめる気がします。
山枡:ここだけの話、まだ梅津さんと知り合う前は、「なんで長芋なんだよ」と思ったこともあったの。芋焼酎をつくるなら、ちゃんとした芋があるだろうって。でも梅津酒造は地元の原料で酒を醸すことにこだわっていることも今なら理解しているし。そして原料が長芋だろうがちゃんとつくるとおいしくなるし、サツマイモでちゃんとした消毒液ができることも、ここでわかったよ(笑)。
藤田:さて「奄美大島開運酒造」の「FAU(ファウ)」までたどり着きました。
藤田:冷凍庫でキンキンに冷やしたのを、ショットグラスで飲むのがおすすめだそうです。
山枡:まずはストレートでいくか。
本多:あー、香りだけでもうやられてます。これ絶対に期待できる(笑)
藤田:別名「ハナタレ」と呼ばれている特別な黒糖焼酎です。
本多:へぇー。
山枡:蒸留の最初に流れ出るやつね。これ、高いでしょ?
藤田:今回紹介した中ではいちばん高いのは確かだけど、お値段相応の味ですね。笑いがこみ上げてくる味だ(笑)。これは2019年に仕込んだもので、2020年瓶詰め商品。商品名のFAUとは「From Amami Ukenson」の略で、蔵元のある宇検村(うけんそん)のサトウキビ栽培農家と製糖業者にこだわった、村起こしの意味も込めた特別なお酒なんですよ。
山枡:これね、炭酸で割ってライムを落とすのがベストだね。
本多:この飲み方がいいですね! これ、永遠に飲んでいられます(笑)。
藤田:ちなみにこの蔵元で、いちばん知られている黒糖焼酎は「れんと」です。普通においしい、でも「FAU」を飲んでしまうと後に戻れないですね。香りも味のふくらみも段違い。
山枡:消毒液も同じぐらいいい匂いしたよね。あの消毒液、オレ1日中手につけてられるな(笑)。
番外編。消毒液に挑戦するようなつくり手は、ふだんからつくるものも異色だった。カレーにぴったりのカルダモン焼酎ってなんだ?
藤田:これで終わりかと思いきや、もう1本あります。カルダモンをつけた焼酎、豊永酒造の「カルダモン・テイク7」です。熊本県球磨郡のカレー屋さんも経営する居酒屋さんから「カレーのスパイスを使ってカレーに合う焼酎を」というリクエストに応えて商品化されました。
藤田:地元のカレー屋さんでは、炭酸割りの食中酒として提供されているそうですよ。
山枡:カルダモン1に対して炭酸3ぐらいのバランスがいいね。ライムが合うよ。
藤田:インドの味がしますー!
本多:これは独特ですね、ほかにはない。
藤田:商品名にある「テイク7」というのは、7回試作の上に完成したそうで。カルダモンの香りを引き出すのに、米焼酎の調合が難しかったそうです。
山枡:これをつくる感性がすごいよ。カレーにバッチリだね(とおつまみのカレー豆を食べる)。
藤田:ご協力いただいた5社のいずれも、面白いお酒はまだあって。落合酒造場のピーマン焼酎やさほろ酒造のトウモロコシ焼酎も飲んでみたかったけれど、いちばん想像のつかない味を3人で試してみたかったんです。いやはや、いずれの蔵元もいい意味で変わってますよね。だから消毒液=スピリッツをつくってみようとする心意気があるんだけれど。
本多:僕、感動のあまりもう1回手を消毒していいですか(と手に「オーガニック70」をつける)。
藤田:もう1回、そこに戻るとは(笑)。かなり酔っ払ってきましたね、私たち。
山枡:オレ、これのおいしい飲み方を発見した。さほろ酒造の蕎麦焼酎9にこのカルダモン1の割合でライムを落とすとバランスがいい!
藤田:オリジナルの配合ですか(笑)。際限なく飲んじゃいそうなので、そろそろ締めましょうか。
まとめ。消毒液にも個性が光る! それが天然由来の消毒液の面白さであり、蔵元の個性だった
山枡:消毒液に違いなんてそれほどないだろうと思っていたんだけど、香りも感触も全然違うよね。5つの蔵元のいずれも、個性の出し方がまったく違う。個性を生かすには、ベースとなる酒づくりがやっぱり大事で。そこは、お酒を飲んだら腑に落ちるよね。
本多:実際に手につけてみると、お酒由来の消毒液を使う楽しみがわかりますよね。天然由来の安心感もありました。
藤田:山枡さんの「オフの日につけたい香りとオンの日につけたい香り」を使い分けする提案が面白かったです。「つまらない会議も、この消毒液の香りで乗り切れる」ってアイディアも大爆笑でしたけれど。香水をその日の気分で選ぶように、消毒液も使い分けができるっていいですよ。
本多:香りの消え方は、5つそれぞれに記憶に残りましたよね。
藤田:お酒もこんなに味わいの幅があるとは想像できなくて、南から北までその土地の風土が感じられて楽しかったです。これまで飲んできた焼酎はなんだったんだろう? と思うぐらいこの5社は色が強かった。消毒液を入り口に、皆さんに知ってもらいたい蔵元さんです。今日はすごく勉強になりました。ご協力いただいた5つの蔵元さんに感謝いたします、まるっとごちそうさまでした!
●今回協力いただいた蔵元の一覧
奄美大島開運酒造
豊永酒造
落合酒造場
梅津酒造
さほろ酒造
撮影/田中麻以 撮影協力/山枡酒店
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